大阪府ではトップクラスの漁獲量を誇る泉佐野漁港。
「大阪の食」を支えるこの港には、クロダイやエビ、イカなど大阪湾で取れる約80種類の海の幸が集まります。
【薄田キャスター】
「賑わっていますね。港に上げられたばかりの取れたての魚が並んでいます。ピチピチして活きがいいですね」
【鮮魚店の店主】
「魚はやっぱり鮮度が第一。動いているとお客さんも納得しますやん」
漁港にある市場では、「とれとれ」と呼ばれる、水揚げされたばかりの魚介類を手ごろな価格で買うことができ、海鮮丼などを提供する店は、週末にはご覧の賑わいです。
【お客さん】
「甘みや味や匂いも全然違って、臭みもなくておいしかったです」
Q:違うものですか?
「全然違います」
【男の子】
「味が違う」
Q:分かったそれ?
「わかった。一番好きなお魚はサバ」
Q:ここに来る一番の理由は?
【お客さん】
「新鮮な魚があるから」「口に入れたら本当にとろけるよ」
「とれとれ」は、漁港だからこそ味わえる「活きのいい魚」ですが泉佐野漁協では、地元で水揚げされた魚を特産品として生きたまま全国へ届けようと考えています。
ただそこには、2つの問題が。
1つめは、活きのよさをいかに保つかということ。2つめは輸送コストの問題です。
魚を生きたまま輸送する場合、多くは「活魚車」という専用の大型車両が必要ですが、運ぶ魚が少量では採算が取れず、小さな漁協では利用できない現状があります。また、海水が汚れるなどして輸送中に、魚が死んでしまうことも多い多いのです。
これらの問題解決にむけ、先月漁港の中に、ある施設がオープンしました。味方となったのは、漁業の世界に新たなビジネスチャンスを見出した東京のリース会社です。
【日建リース工業 事業開発部 渡邊将介事業部長】
「こうして普通の海水に入っているマダイを、二酸化炭素を溶解した海水の方に移します。ウトウトしてきていますね~」
…5分後。
【薄田キャスター】
「あ、逆さになった!えー!?ひっくり返って、動かなくなりましたね。死んじゃったのかなと思うんですけどちゃんと動いていますね、エラの部分」
【日建リース工業 事業開発部 渡邊将介事業部長】
「眠っている状況ですね」
魚にとって二酸化炭素は麻酔作用があり、動きが鈍くなってあばれなくなります。この状態だと、魚から出る老廃物を抑えることができ水質が悪化せず、結果、魚を安全に運べるのです。
眠った魚は通常の海水に戻すと、ごらんの通り、元の状態に。
さらに、輸送面でもコストを抑える工夫が・・・
【日建リース工業 事業開発部 渡邊将介事業部長】
「この間仕切りの間に入れます」
【薄田キャスター】
「え?このなかに?この隙間に?間仕切りがいっぱいあるというのはここにいっぱい入る?」
【日建リース工業 事業開発部 渡邊将介事業部長】
「はい、ここに10匹入る箱になっています」
先ほどの技術で、魚を眠らせて運ぶ「魚活ボックス」は、「活魚車」の10分の1ほどのサイズですがなんとこれ1台に、マダイなら最大で200匹も積むことができます。
つまり、少量、大量どちらの輸送にも対応できて、リースなので、初期投資もおさえることができます。
【日建リース工業 事業開発部 渡邊将介事業部長】
「輸送できる時間が劇的に変わってきますね」
Q:これまで近隣の都道府県にしか運べなかった?
「そうですね、それが東京や名古屋の方まで運ぶことができる、そんな技術ですね」
Q:寝た状態であっという間についてるって、夜行バスみたいですね?
「そうですね、まさしく夜行バス。大阪発の夜行バス」
そんな「魚の夜行バス」に大きな期待を寄せる泉佐野漁協ですが、魚を眠らせて生きたまま輸送する画期的な方法を導入した導入の背景には、大阪湾の埋め立てなどにより漁獲量がデータの残る7年前と比べても半減しているという危機的状況があります。
このため、収入の見込める他府県に若い漁師が流出し漁協の組合員の数は7割ほどに減少。後継者不足も深刻です。
【泉佐野漁協 合田進理事】
「魚も半分、収入も半分以下。やっぱり収入が減ったということは、魅力がない。若い子(漁師)からしたらよその自治体なんかはブランド化して、魚の値段とかも上がってます。そういうのは大阪湾はまだ知名度がないんで、これから活魚センターに頑張ってもらって全国的にブランド化、”大阪もん”の魚を広めてもらえれば助かります」
泉佐野漁協は漁港近くでしか味わえない”大阪もん”の魚を、魚活ボックスを使って、全国へ売り込み、漁師の収入も上げたいと意気込みます。
Q:今取ってきたんですよね、何?
【漁師歴62年 田端一太郎さん】
「カニ。ワタリガニ。足が赤いやろ、これがアシアカや。生かして売らな安いねん。そやからみんな生かして持ってくる」
Q:値段は違うの?
「そりゃあ全然違うよ。死んだもん売ったら、冷凍もんと一緒やもん」
Q:どのぐらい違うの?
「倍やな!生きてたらな。死んでたら1000円が、生きてたら2000円する」
中でも、漁協が首都圏へ売り込む”大阪もん”として期待しているのが・・・
【漁師歴62年 田端一太郎さん】
「これ舌な。アカシタビラメ」
Q:どんな食べ方するの?
「わしは造って食うよ。そやけど生きてなきゃ造ってもうまないで」
Q:アカシタビラメは高く売れる?
「大きいのだったら1枚千円ぐらいで売れるかな」
「アカシタビラメ」は、ムニエルなど、洋食で使われることの多い白身魚。他の魚に比べ、生きたまま運ぶのが難しく、刺身用として流通するのは漁港の近くなどに限られます。
【薄田キャスター】
「赤舌ヒラメのおつくりいただきます(試食)おー、すごくあまいです。ぷりぷりでおいしいです」
活魚センターでは、アカシタビラメを含む”大阪もん”を、これまでに二度、東京の豊洲市場へ輸送しましたが、アカシタビラメだけは、まだ生きたままの輸送に成功していません。
【豊洲市場の卸会社の担当者】
「コンスタントに入れば、お客さん(小売り)も使いやすくなるので、メニューで使えるので、たまにしか入らない魚はなかなか価値がつくのは難しい。安定的に入ってきて、おいしいものは価値が上がります」
魚活ボックスといえども、アカシタビラメの輸送にはまだまだ課題があり、漁協とリース会社の挑戦は続きます。
【日建リース工業 事業開発部 渡邊将介事業部長】
「現状私達が検証している中では、(アカシタビラメは)2日間ぐらいは生存することもできるので、できれば今後競り落とした直後のアカシタヒラメを当日に東京に持って行くことができたらと考えている」
【泉佐野漁協 合田進理事】
「生きたまま地方へ、都会へ送るというのは今までなかったことなので、これから期待しています」