最近、大阪市の中心部などで、特徴的なロゴが入った緑のバッグを背に自転車に乗っている人たちをよく見かけます。これは何をしているのかというと「料理の宅配」なんです。
今やピザやラーメンだけでなく、ファストフード店やレストランなどありとあらゆる外食のお店から、料理が宅配されています。外食産業は今なぜ、「宅配」に力を入れているのでしょうか。
買うより、作るより…気軽に「出前で注文」
『はい、小雀弥です』
大阪市にあるうどんの店。時刻は午後3時。お昼をとっくに過ぎていますが、ひっきりなしに電話が鳴り、出前の注文が入ります。
【黒門小雀弥・川口扶展専務】
「(いつも)おかげさまでこんな状況です」
Q:出前の需要は上がっている?
【小雀弥・川口専務】
「はい、上がっていると思います。特に会社でお食事される時とか…(電話が鳴る)ちょっと待ってくださいね。はい、小雀弥です」
創業から50年ほどになるこの店。出前はすべて、店のスタッフが行っています。
【注文した女性】
「届くのが早いのが結構魅力的です。味もおいしいので。作るのが面倒くさかったりしたら、すぐ頼んじゃいます」
【注文した客(自営業の男性)】
「僕は食事の時間が結構不定期でバラバラなんですよ。他のことをしながら頼める。作業とかもしながら(食事を)するので」
この店は10年ほど前に“あるサービス”に加盟したことで、注文の件数が倍以上に増えたそうです。
【小雀弥・川口専務】
「うちとしては一日1万円売り上げを上げたいとなと(約10年前に)思っていて。ちょうどその時に出前館の営業の方が来られて“こういうことをやっています”と」
”ネットで出前”は伸びる!…20年前から注目
加盟したのは、インターネットで注文を受け付けるサービス。「出前館」には現在、全国で1万8000店舗以上が加盟しています。客が出前館のサイトで注文すると、お店に注文が入ります。お店は出前館に、手数料を支払います。
このサイトを運営している会社が出来たのは20年前。将来「インターネットを使った出前ビジネスは伸びる」と考えて、事業を手掛けてきました。
【夢の街創造委員会・中村利江社長】
「(かつては)出前っていうのはチラシを各お店で配ってそのチラシを見た人が電話で注文するっていう流れだったんですが、これがかなりコスト高になっていますので。これをネットのオンラインにすることでお店のコストを軽減できるんじゃないかと(考えた)」
『パソコンやスマートフォンで、様々な店の情報を見比べながら、手軽に注文ができる』という利便性が特長です。
このような外食などの宅配市場は、『共働き世帯の増加』などを背景に、『まだまだ成長する』と予測されています。
「出前の進化系」で「人手不足」対策も
そして今、新たな宅配ビジネスが注目されています。特徴的なロゴが入ったカバンを背負い、自転車に乗るこの女性。ウーバーイーツの配達員です。
客はパソコンやスマートフォンなどから、ウーバーイーツのアプリで注文します。すると、アプリを通して注文を受けた店が料理を作り、完成の連絡をすれば、近くにいる配達員が商品を受け取って届けるというシステムです。
【ウーバーイーツ・武藤友木子 日本代表】
「(2年半前に開始した)当初は東京の3区のみでサービスを開始したんですが、今は大阪・京都を含め10都市を超えるところまで成長していまして、その伸びに伴って加盟しているレストランの数も日々伸びて、今はもう7000社近くの方々に使っていただいております」
「出前の進化形」とも言えるウーバーイーツ。なぜこのようなビジネスが急成長しているのでしょうか。
モスバーガーは今年になってから、大阪の一部の店舗でもウーバーイーツによる宅配を始めました。
【モスストアカンパニー・松下慎太郎さん】
「以前から(独自で)宅配サービスは実施していたんですけれども、段々人員確保が難しい時代になってきまして。例えば海外の団体のお客様や、よく来られるお客様が多いんですけれども、(店内スタッフが)4人であればちゃんとしたサービスができるんですけれども、ここから1人宅配員を取られてしまうと(レジに)行列が並んでしまうなどの不都合が出てきてしまうんですよね」
モスバーガーによると、ウーバーイーツを通した注文は多い店で1日30件以上入っていて、好調だということです。
日本では少子高齢化を背景に、労働の担い手となる世代が減少を続け、「人手不足」が深刻な問題となっています。外食産業も人手不足に悩まされていて、宅配に手が回らない状況が生まれている中、ウーバーイーツのような宅配を代行するビジネスが必要とされているのです。
説明会に参加して審査に合格すれば誰でもウーバーイーツの配達員になることができます。
配達員になろうと思った理由を尋ねると。
【ウーバーイーツ配達員・みずきさん】
「私なんかは別で本業があるんですけど、本業の合間とか仕事が終わった後とか、隙間時間で出来るというのが自分で選べるので、それはすごくいいんじゃないかなと思います」
小さな店でも「宅配可能」に!広がるチャンス
これまであまり宅配に力を入れることが出来なかった飲食店にも、新たなビジネスチャンスが生まれています。
大阪市中央区にある「玄三庵 心斎橋店」。「健康」をテーマにした料理を提供しているこの店。人繰りの問題で、これまで宅配は3つ以上の注文から受け付けていましたが、ウーバーイーツに加盟したことで、1つの注文でも受けられるようになりました。
【玄三庵・高根三枝オーナー】
「やっぱり女性が多い飲食店なので、男性は(一人では)入って来づらいって言われる機会が多くて。そういう男性の方でもウーバーさんの宅配を使ってご注文をいただく機会が多くなっていると聞いています」
ノウハウを生かし…「新聞配達店」も宅配に参入!
出前館も、宅配を強化するための「新たな取り組み」を始めています。こちらの新聞販売店では新聞の配達だけでなく、出前館の配達サービスも始めました。
宅配サービスをしていない飲食店に、ここで待機しているスタッフが料理を取りに行き、客に届けるというシステムです。
この取り組みは、「将来性があるビジネスだ」と新聞販売店の社長は語ります。
【朝日新聞大阪シティ販売・竹松勝明社長】
「もともと新聞販売店ということで、配達が基本ということがありますので、デリバリー機能を生かしたいなということです。今後は通販のデリバリーもスタートの準備をしているところです」
さらにもう一つ、外食産業が宅配を強化する理由があります。この10月から予定されている「消費税率の引き上げ」です。
消費税率の引き上げで、「宅配」に追い風も
引き上げ後は、飲食店内で食事をすると、10%の消費税がかかりますが、「宅配」や「持ち帰り」は8%に据え置かれます。いわゆる軽減税率が、宅配ビジネスにとって追い風となっているのです。
【夢の街創造委員会・中村利江社長】
「これ(軽減税率)ってすごく、飲食店さんにビジネスモデルを考えていただけるいいチャンスになったんだなと思っています。地域ですごくおいしいものを作るんだけれど販売促進は上手じゃないというお店がたくさんあるので、そういうお店が応援できるような(宅配の)仕組みを作っていって、地域密着の商売の活性化をしていきたいと思っています」
急速に広がる「外食の宅配」。
これからは、「レストランに出かけて食べる」のでははなく、「注文して宅配してもらう」というスタイルが主流になっていくのかも知れません。