車いすの人と健常者が一緒に踊る「車いすダンス」。
2月、パリで公演をした大阪出身の女性ダンサーは、病気の影響で、いまダンスを続けるか大きな決断を迫られています。
彼女が今、踊り続ける理由、そして伝えたい思いとは。
18歳の時に出会い、わずか2年で「日本一」に
車いすを操りながら、全身で表現が生み出されるダンス。2月、パリの舞台でダンスを披露した、林美穂さん(30)。「今」を輝く車いすダンサーです。
林さんは生まれてすぐ、小児がんを患い、背骨などの腫瘍をとる手術を受けました。がんは治りましたが、下半身に障害が残りました。
練習を前に車いすを乗り換える林さん。
ダンスで使う車いすは特別製で、よく見ると、車輪が斜めになっています。
【林さん】
「こっちで回ろうと思ったらよいしょだけど、遠心力をよくするようにハの時になってる」
そういって、きれいなターンを披露してくれました。
車いすの人と健常者が一緒に踊る「車いすダンス」。林さんは18歳の時、友人に誘われ、車いすダンスと出会いました。
【林さん】
「車いすダンスで踊るときにすごい風を感じるんですね。すごい心地よくて、楽しいな気持ちいいなって思う」
趣味や特技がなかったという林さん。ダンスを始めてわずか2年で日本一にのぼりつめ、車いすダンスは自信を与えてくれる、輝ける場所となりました。
【林さん】
「(車いすダンス始めるまでは)自分が誰かよりできることって、ないって思いがちだったので、助けられる側なのかなって。私がダンス踊って元気でたわとか私らももっと頑張るわとか言われた時に踊り甲斐があるというか。私が踊ることで人に影響を与えられるんだっていう喜び」
「手術が必要」…決断を迫られている
自分で車を運転し向かったのは、半年に1度の病院通い。林さんはいま、ある決断を迫られています。
【大阪市立大学 医学部付属病院 寺井医師】
「前とほとんど変わってないけど、最初来た時に比べるとちょっと進んでるかな。座られへんようになる前に手術しないといけない」
徐々に背骨が曲がり、神経や内臓を圧迫しています。このままだと、呼吸ができなくなるなど、最悪、命に関わるのです。痛みが強くなる前に、背骨をボルトで固定する手術が必要ですが、それは…体の自由がきかなくなり、「生きがいのダンスを二度と踊れなくなる」ことを意味しています。
【林さん】「ただいま~」
林さんは9歳の時に、父親をがんで亡くしてから、母親と2つ上の兄と3人で暮らしています。
Q:お兄さんはみほさんのダンス見てどんな気持ち?
【林さんの兄・勇樹さん】
「ただただ感動。みほちゃーーーん!!ってなる」
【林さん】 「それは飲んでるからですか?」
【勇樹さん】 「いや、しらふでも同じ(笑)」
ソファーに横になる林さん。家にいる間は、できるだけ背骨を伸ばし、少しでも進行を遅らせようと努力しています。
【林さん】
「突然めちゃくちゃ痛くなるのかなって。徐々にっていうより。って思ったときに、”今”ですよね。『今できること』をやりたい。先のことを考えてもいつか読めないし」
痛みが強くなるかもしれない…病院でも告げられた背骨の症状。家族は林さんがこれからも「笑顔」でいてくれることを望んでいます。
【林さんの母・淳子さん】
「好きなことして、楽しく過ごせたら…それが一番やね。笑顔をいつも見せて欲しい。サポートを出来る限りしたい」
初のパリ公演…「少しでも長く踊っていたい」
ダンスが高く評価され、今年、国の障がい者芸術の事業で、日本の代表として、初めてパリで海外公演をすることになりました。
『少しでも長く踊っていたい』
林さんはギリギリまで手術の時期を伸ばすことに決めました。
【林さん】
「どう伝わるか未知の世界なので不安はあるんですけど、みんなが元気になって帰っていかれたらなって、元気を届けたいと思ってます」
踊る楽しさ、生きる喜び。 林さんが伝えたい思いです。
林さんが車いすダンスに込めた想い、フランスの観客の皆さんにも届いたようです。
【観客の男性】
「車いすにも関わらず、優雅な踊りとスムーズな動きを感じました」
【観客の女性】
「踊る人を見ていると幸せな気分になります。ダンスはとても美しくて、衣装もとてもきれいで刺激的でした」
フランス公演を終えた林さん、あらためて車いすダンスへの想いを強くしたようです。
【林さん】
「体と相談しながらできるだけ長く踊っていたいと思います。(ダンスは)やめられないですね」
次は自分が…「子供たちが輝ける場所を作りたい」
林さんは月に2回、障害がある人たちに積極的にダンスを教えています。次は自分が、子どもたちに輝ける場所を作ってあげたいと考えています。
中にはまだ上手にダンスができない女の子も…。林さんが優しく勇気づけます。
【林さん】
「間違った?めっちゃ落ち込むやん。いけてるいけてる」
【林さん】
「うまく踊ることも重要かもしれないけど、まずはやめないで続けてもらえることから始めたいなと思って。ダンスに来るのが楽しくて楽しくてって思ってもらえることが一番です」
【女の子たち】
「全然できないけど好きです」「それでいいねん!」
【林さん】「そろそろ始めよっか。みんなに言って!」
【子ども】「はじめまーーーーす!」
誰かの心に届けるために、そして「今」を生きるために、踊ります。