今、日本全体で急速に高齢化が進み、かつて栄えた住宅街も過疎化に悩んでいます。
そんなニュータウンの一つ、大阪府堺市の団地の一室に、世代を超えて住民たちが集うことができる場所が誕生しました。
高齢化進む団地の「空き部屋」にできた「お店」
公社茶山台団地。
高度経済成長期の1971年、堺市南区の泉北ニュータウンに建設されました。
それから50年近くが経った今、入居率は約85%と、7軒に1軒が空き家となり、65歳以上の高齢者世帯が半数近くに達しています。
そんな団地の一室に、人々が集い、笑顔がこぼれる場所がありました。
去年11月、団地の空き部屋を活用してオープンした「丘の上の惣菜屋さん やまわけキッチン」。
手作りのおかずを店頭で販売するほか、体に優しい品が並んだ定食などを店内で食べることもでき、団地の住人だけでなく、誰でも利用可能です。
【利用者は】
「しょっちゅう来ます。顔見せなかったら『元気してた?』って言われるから、用事がなくても顔出しに来ます。ずいぶん知り合いできましたよ、ここへ来てから」
「この団地にこんないいところできてね、みんな和気あいあいといいんじゃないですか。空き部屋を置いててももったいないしね、いろんなことに使っていただいたら、一番いいと思います」
お店のリフォームも団地に住む人達で
この日、お店にやってきた男性にお店のスタッフが何やら話しかけています
【店のスタッフ】
「ご相談したいことがあったんです。カーテンもらったんですよ」
【男性客】
「細い突っ張り棒やで。ごっついやつはいらん」
客としてやってきたはずの男性が、店の修繕を手伝い始めました。
【店のスタッフ】
「一緒にこれ(店の壁の取り付け)やった。一日かけてこの壁を」
元は住居だったこの場所をリフォームする作業は、団地の住人や運営スタッフたちの手で行いましたが、この川野忠男さん(78)は中心メンバーの1人でした。
【川野忠男さん(78)】
「家内が認知症で施設に入ってるんで、一人暮らし。(ここへ来たら)絶対誰かが知ってるメンバーやし、おんなじこうやって叩いて切って作ったメンバーやから、そういう意味合いでは、家族とはいかんけど、自分の娘のような感じがする」
「やまわけキッチン」を運営するNPO法人の代表、湯川まゆみさんもまた、この団地の住人です。
【NPO法人代表・湯川まゆみさん】
「高齢者の方でも一人でここに来て一人でごはん食べて、一人ずつのお客さんが集まってたらそこで会話が生まれてっていうのは理想的やし、居心地がいいとか、いいい雰囲気とかも来てもらった人から言われたりするので、すごく良かったなと思います」
団地の空き部屋にできた、新しい形の「社交場」
湯川さんの思いに応えるように、笑顔を求めて「やまわけキッチン」にやってくる人たちがいます。
81歳の村瀬貞子さんも、その1人です。
【村瀬貞子さん(81)】
「連れ合いと死に別れたのは私が50の時でしたからそこからずっと一人です。近くでスーパーもだんだん皆さん閉めていきましたからね、買い物はちょっと不自由やね。キッチンさんできたでしょ、あれええでしょ、やまわけ。ちょうどお年寄りのお味にぴったり。なんやかんやとしてくださったら楽しいですよね」
去年、脳梗塞を患い、リハビリに通う村瀬さんにとって、「やまわけキッチン」の存在は日々の支えになっています。
【村瀬貞子さん(81)】
「やまわけキッチンさ~ん」
(お店の奥から…)「あ、村瀬さんや! こんにちは~」
店に到着すると、すぐに親しい顔が現れました。
何気ない会話に花が咲く、ささやかな幸せを感じる時間です。
【村瀬貞子さん(81)】
「お外に出てね、コーヒーでも一緒に飲めたらいいし、お食事でも一緒にできたらいいし。そういうのも楽しいねん」
【NPO法人代表・湯川まゆみさん】
「思ってるような景色はできました。こういう場所を通して年配の方たちがどういう風につながってきて、どう支え合ってきたのかっていうのもすごく勉強になるし、私たちがどう接するかっていうのをきっと子供たちは見てるはずなので、一歩ずつやっていこうかなという感じ」
高齢化と過疎化が進む団地の空き部屋に生まれた、新しい形の社交場「やまわけキッチン」。
これからの日本社会にとって、大きなヒントが込められているかもしれません。