〈大阪・本町の大型オフィスビルに入居するテナント〉
ごくごく普通のオフィスの”ある一室”をのぞいてみると…。
医師「ここが肺と肺の間。肺動脈が出てくるから見つけてもらいたい」
病院ではないのに手術!?一体どういうことなのでしょうか?
施設担当者「どこの地域の先生でも、身近にトレーニングが受けられる環境を整えてあげたい。」
実はここ、医療機器などを扱う会社「ジョンソン・エンド・ジョンソン」が運営する医療従事者向けのトレーニング施設。年間でおよそ1万人の医師たちが利用しています。
医師「手に手術を覚えて、手術に臨むのと臨まないのでは全然違うので…」
医師たちが頻繁に訪れる、最先端の医療研修現場。その舞台裏に”センニュウ”
『ジョンソン・エンド・ジョンソン』長崎正稔シニアマネージャー「こちらが腹腔鏡の手術をトレーニングする機材です。色んなところに手術器具を入れることができ、大腸の手術とか胃の手術、婦人科の手術など様々なシチュエーションに対応できます。」
近年、小型カメラを使った手術の件数は急速に増加。医師の内視鏡技術の育成が急務となる中、こうした繊細な手技がトレーニングできる場は重要になってきています。
長崎シニアマネ―ジャー「腹腔鏡の手術は非常に高度な技術が必要になります。いきなり患者様の体を使って、技術が伴っていないのに手術するのはかなり危険なので。」
国内に3つの拠点を構え、外科以外にも数億もの費用をかけて幅広い診療領域をカバーしています。そして、こちらは…
施設担当者「これがカテーテル(管)で、心臓の悪い場所を見つけて先端から高周波の熱を発して悪いところを焼灼して治療します。」
これは、心臓の不整脈を治療する最新の医療機器。心臓と管を3D化することで、管がどのように心臓に入っているのかを視覚的にサポート。同時に不整脈を効率的に治療することができるのです。
長崎シニアマネージャー「通常の病院の勤務はやることがたくさんあり、雑務も多い。しっかりとしたトレーニングの時間を病院の勤務の中で割くのはなかなか難しい。」
〈近畿大学医学部付属病院(大阪狭山市)〉
近大病院に勤める千葉眞人医師(36)も、トレーニング施設を利用している1人。呼吸器外科医として、これまで1000件を超える『肺がん』の手術に携わってきました。
千葉医師「今までは(肺がん)の症例数は多くなかったが、どんどん増えています。患者さんで練習する訳にはいかないので、トレーニング施設を使ってリアルに体感して体に覚えこませてやろうということで。」
勤務終了後、研修医を連れてトレーニング施設にやってきました。
千葉医師「今日は手術がない日なんですけど、明日手術なんで。その練習も兼ねて。明朝8時から手術なんですよ…」
施設を利用するにあたり、利用料は基本無料です。
千葉医師「これは人間の肋骨を体現したモデルなんですが、ここに道具(内視鏡)を入れ、小さい穴から練習します。ほぼリアルにできます。肺は上葉・中葉・下葉と別れていて、明日の肺がんの手術はココ(下葉)にがんがあって、切除するためにはここで切って肺の一部を取り出さないといけない。」
翌朝の手術は、70代後半男性の右肺の下葉切除。そのシミュレーションに使われるのは、ブタの心肺です。
ディレクター「人間の心肺に似ている?」
千葉医師「皮膚の感覚が似ています。手術によりリアルに近づけます。手に手術を覚えて臨むのと臨まないのでは全然違うので。」
肺は他の臓器より脆く、危険性も高いため、若い外科医に手術が回ってくる機会は多くありません。この施設は、研修医の教育ツールとしても役立っています。
千葉医師「今、ブタの肺をセッティングしたんですけど、今日やるのは一つの穴で手術する練習。これが今、トピックになっていて従来とは違うけれども、色んな可能性がある手術だと思います。」
従来、日本では胸に複数穴を開けて行う手術が主流でしたが、欧米を中心に広まっている、小さい穴1個だけで行う手術が、呼吸器外科医の間で話題になっています。患者への負担が軽いことから、ここ1年、日本でも急速に広まってきましたが、より高度な技術が必要なため、熟練した医師でもトレーニングは大切なのです。研修医がカメラを担当、『ジョンソン・エンド・ジョンソン』の社員が助手を担当します。
千葉医師「カメラ見せて。ここに肺動脈があるので。出てきました、これが肺動脈。これが血管で、しっかり剥離する。」
肺を切るには、心臓からつながる肺動脈と肺静脈、そして気管支を切断する必要があります。
千葉医師「これが肺を切る道具。ホッチキスすると、真ん中にカッターが走って切ることができる。自動縫合機というのですが、医療器具が進歩したことで小さい穴でも手術できるようになったんです。」「簡単に切っているように見えますが、出血したら一瞬で心臓が止まるような出血しますので…」
千葉医師「これが気管支です。この気管支を最後に切り抜いて終わりです。今、こういう小さな傷(穴)になってカメラの手術になると、若い先生が触れる機会がどんどん減っている。教育ができない。」
限られた人数しか見学ができない実際の手術現場。そこで、『ジョンソン・エンド・ジョンソン』が開発したのが医療研修向けのVR。名医の手技を360度カメラで映像化することで、遠方でも実際の治療現場にいるような研修を可能にしたのです。
千葉医師「静脈は認識してるよね。ということで(研修医)福田くん、この静脈をカットしてください。」
この日は、研修医のトレーニングも予定に入れていました。
千葉医師「それ切っちゃだめよ。その向きじゃない、逆。」
研修医「ちょっと難しいですね…」
研修医への指導含め、肺がん摘出のトレーニングは繰り返し行われました。
千葉医師「そこがクライマックス。もう、取れました。」
研修医「しんどい。疲れました。練習がまだまだ足りてないのと、知識も足りてないですけど、こんな短時間でトレーニングできる環境はないので。」
千葉医師「トレーニングのチャンスを増やしてあげないと、外科に興味がある学生がどんどん減っている。修行の期間が長いし、3K(苦しい・汚い・きつい)でしょ。そういう点では、こういう施設は大事です。」