「1兆7800億円」…
この数字は、1980年の着物市場の売り上げです。
しかし、今はどんどん下がり6分の1程です。一方でレンタル着物は近年売り上げが上昇しています。こうした状況に危機感を持った京都の老舗は新たな着物を作って盛り返しを狙っています。
着物姿は見かけるが…「レンタル着物」が多数
長さ約13mもある生地に、一筆一筆鮮やかな色を染めていく職人たち。ハレの日を彩る着物は日本の文化に欠かせませんが、それが今危機を迎えているといいます。
京都・河原町で様子を見てみると…着物を着ている人は多く見かけますが、若い人たちや旅行客が着ているのは、レンタル着物が多いのです。
そんな観光客の「レンタル着物」について、お着物姿の皆さんに聞いてみると…
【70代女性】
「あれは嫌ね、日本の良い所を全部はぎとられちゃうみたい、ペカペカで」
【60代女性】
「あれはあれで遊びとして、お召しになって気分を味わうっていうかね」
…というシビアなご意見もある一方で、観光で京都へ来た大学生は
「レンタルでも満足しています」
「安いのに種類も多くて満足しています」
Q:普段着物は持ってない
【観光に来た大学生】
「持ってないです、値段が高くなくて、楽に素人でも簡単に着れるものがあったら、もうちょっとハードル下がるかなと」
着物のレンタル店の売り上げは、海外からの観光客などの増加もあってか右肩上がりです。着物の新たなニーズが掘りおこされて、よかったよかった…とはならないようで。
激減する着物市場の売り上げ…危機感を感じた老舗の社長
1980年には、着物市場は約1兆7800億円の売り上げがありましたが、今や6分の1となっています。
こうした状況に立ち上がったのは、京友禅の老舗、吉川染匠の4代目社長・吉川博也さん。
海外で作られた安い着物が普及していくことで、長年続いた伝統的な着物文化が廃れていくのではないかと危機感を覚えています。
【吉川染匠・吉川博也さん(51)】
「(レンタル着物などが)着物の距離感を非常に縮める役割を担っていただいていると。そこに我々が大切にしているお着物が登場していないってことにつきましては、非常に焦りを感じるとともに、歯がゆさを感じています」
京友禅は、主に絹織物を使い、華やかで、優しい色彩を使うのが特徴です。伝統的な絵柄や四季の花が染め出されています。完成するまでに1年を超えるものも珍しくなく、値段も高くなり、数百万円になるものもあります。
それに比べて観光地などにある着物レンタル店は3000円ほどで借りられるものもあり、観光客や若い人を中心に人気を集めています。
着物文化を残すため…時代に合ったデザインに大胆変化を
吉川さんは、日本の着物文化を残すため、時代にあった着物を作ろうと決意。東京のデザイナーとタッグを組み、新たなブランドをおこしました。
【展示会に来た客】
「ほんとに着物に見えますね」
【吉川さん】
「着物に見えるというべきか、着物というべきか難しいですけどね」
『着物に見える』…?、お客さんとの会話が、なんだかちょっと変わったやり取りに。どこから見ても着物ですが、実はこちらは…
【デザイナー国本裕美さん】
「袖を通してジャケットとして着る」
吉川さんたちが作った新たな着物は、上下がジャケットとスカートのように分かれていて、誰でも5分ほどで簡単に着ることが出来ます。
帯は、西陣織の老舗が協力。形も最初から整えられていてホックをとめるだけで結ぶことができます。そして、上下が分かれていることで別の着物と組み合わせることや普段着ている服に合わせることも出来ます。
【デザイナー 国本裕美さん】
「スカートとジャケットを合わせるとお洋服にもなるし今のライフスタイルになじみやすいように」
従来の着物へのハードルを下げようと、コストをおさえるため、京友禅などの技法は諦めざるをえませんでしたが、風合いは残しました。値段は上下と帯を合わせて6万円ほどになりました。
【展示会に来た客】
「お洗濯はどうでするんですか」
【吉川さん】
「洗濯機で回せます」
「変化を恐れずに、チャレンジ」 老舗社長の決意
【吉川さん】
「お着物に距離がある人へのアプローチ、そこが僕たちがやっている一番の定義ですので、色んな変化を恐れずにチャレンジしていくことが大事かなと思います」
今後は、この着物に丹後ちりめんなどを使おうとすでに動き出している吉川さん。着物文化をもっと身近な存在に。いつか着物姿の人が町に溢れることを夢見ています。