手足を鎖で縛られた男性。
中国の新疆ウイグル自治区で、8ヵ月も拘束されていました。
国連や人権団体などは、中国政府によって男性のように拘束されている人が、ウイグルに100万人いると指摘しています。
そんななか、徳島の大学に通うウイグル出身の男性が、こうした中国政府による“弾圧”の実態を伝える活動をしています。
家族を心配し、中国政府を公然と批判する人が多くないなか、なぜ男性はこうした活動を続けているのでしょうか。
■2018年はウイグル人にとって、とてもひどい年だった
中国・新疆ウイグル自治区出身の、サウティ・モハメドさん(41)。
家族をおいて単身、留学して3年。ことし、初めて初詣に行きました。
サウティさんが初詣に来たのは、理由がありました。
【サウティ・モハメドさん】
「家内安全(のお札)を買いました。いま、家族と1年以上連絡が取れなくなっている。
いま家族は安全かどうか、強制収容所に入れらているかどうかわからなくて、家内安全を守りたいです」
【サウティ・モハメドさん】
「2018年はウイグル人にとって、とてもひどい年だった。2019年は、ウイグル人にとって、いい年になるように願った」
願ったのは、自分の幸せではなく、家族や同じウイグル族の幸せです。
日本から4000キロ以上離れた、中国の北西部にある、新疆ウイグル自治区。
かつては中国とヨーロッパを結ぶ「シルクロード」の交易路として栄えました。
石油や天然ガスなどの資源も豊富で、中国の経済発展を下支えしています。
しかし、独自の言語を持ち、イスラム教を信仰するなど、伝統や習慣も全く違うことから、
中国政府はウイグル族を漢民族と”同化”させることに力を入れ、年々監視を強めています。
サウティさんは、東京で2年間、日本語の勉強をしたあと、去年4月から徳島大学で国際政治を学んでいます。
【サウティさんを指導する徳島大学・饗場和彦教授】
「自分達、ウイグル人が置かれている中国の現状が非常に酷いということで、不当な形で弾圧を受けている。
そういう状況に対して、おかしいんだ、ということを自分で考えて、それを行動に移す姿勢が、
サウティさんを見ていて非常に顕著」
■2009年「ウルムチ事件」をきっかけに、家族・故郷と離れる生活に
日本に来るまで、国営鉄道で技師として働いていた、サウティさん。
【サウティさん】
「会社でも、『将来がある』とリーダーたちも(言っていて)、昇進もした」
なに不自由のない、幸せな生活を送っていたサウティさんが、故郷や家族と離れるきっかけとなった、ある事件が起きます。
2009年に起きた、「ウルムチ事件」。
ウイグル族に差別的な政策をとる中国政府に対する抗議デモと、それを鎮圧しようとする当局との間で、衝突が起きたのです。
【サウティさん】
「ウルムチ事件の時、私は現場にいました。学生たちが行った平和的なデモに、中国政府が武力をつかって鎮圧した。
私はその出来事を経験して、このままで行ってしまうと、ウイグルの将来がないと考えた」
中国政府によるウイグルへの弾圧は、ここ数年で一層激しくなりました。
【サウティさん】
「特に2016年から、ウイグルの最高責任者が変わり、陳全国という人物になってから、
”強制収容所”を大規模に作って、ウイグル人が拘束されるケースが大規模になっている」
ウイグルのトップを務める陳全国書記は、以前チベット自治区で弾圧政策の旗振り役だった人物です。
その陳全国書記が推し進めているのが、ウイグル族を”再教育する施設”。
中国政府は、独立派や過激派などによるテロを防ぐため、イスラムの文化や慣習を規制することに加え、
こうした施設で職業訓練や中国語の教育を行っていると強調します。
しかし、そこで拘束されていた男性は、「施設は”強制収容所”そのものだ」と話します。
【強制収容所に8ヵ月拘束された、オムル・ベカリさん】
「2017年6月13日から、施設の幹部から『命令だ』と言われて、収容者の全員が今の私のこの状態、
手足が鎖で縛られた状態が始まりました」
2017年に突然、警察官に連行され、強制収容所に入れられたというオムル・ベカリさん(42)。
鎖で縛られた状態が8ヵ月も続いていましたが、奇跡的に解放されました。
【強制収容所に8ヵ月拘束された、オムル・ベカリさん】
「私の80歳になる父も、強制収容所に収容されました。そして、2018年の9月18日に亡くなりました。
しかし、父の遺体も返してくれませんでした」
この講演会をきっかけに、サウティさんはオムルさんと連絡を取り合うようになりました。
■家族や自分の幸せを考えるなら「何もしない方がいい」、だが…私はやる
サウティさんも、徳島に来た去年から、ウイグルの現状を伝える活動を始めています。
【サウティさん】
「去年、国連の人権理事会で100万人以上のウイグル人が、強制収容所に入れられていると報告された」
【参加した女性】
「『世界へ世界へ』と留学したり、『世界的に活躍を』なんて言っている時代に、すごい逆行しているじゃないですか」
【参加した女性】
「こういう活動されているけど、ご家族いるんですよね。残っている家族が迫害されたり、強制収容所に入れられたりとかはない?」
【サウティさん】
「私は2017年9月から、家族と一切連絡がない。連絡が出来ない。
いま家族が生きているのか、強制収容所に入れられているのか、何もわからない。情報がない」
【女性】
「電話も出来ない?」
【サウティさん】
「電話したら、(当局が)監視している。盗聴されている。
海外と連絡があるウイグル人は、危険人物になってしまうので、私もあえて電話できない」
【講演を聞いた人】
「全部驚きですよ。ナチスドイツのやり方と同じじゃないですか」
【講演を聞いた人】
「(中国政府の)行動を止めるのは、なかなか難しそう。でも何か、私たちが出来ることがあったらしたい」
愛する家族の声を聴くことさえできない、サウティさん。
もし故郷に帰れば、すぐに身柄を拘束されてしまいます。
【サウティさん】
「自分自身の幸福を考えれば、何もしない方がいい。ウイグルの現状も伝えない方がいい。
でも、ウイグルは、ウイグル人は大変な状況になっている。自分の家族がどんな状況になっても、私はこの活動をやる」