取材班が向かったのは、大阪府豊中市の音楽教室。
今、子供たちへのピアノのレッスン中ですが、今後音楽教室を続けていくにあたって
問題が起きているといいます。
【勢志音楽教室・勢志佳子さん】
「それいったいどういうこと?って。私たちのレッスンで、著作権料がいるってどういう意味?というのがみんなの感想です」
いったいどういうことかというと…。
先生がお手本を弾いて「聞かせる」演奏に、著作権料の支払いが必要になるかもしれないというのです。
【勢志音楽教室・勢志佳子さん】
「私たちがやっているのは指導であって、指導の見返りとして授業料を頂いている。演奏の見返りとしてももらっているのではない」
不満を隠せない音楽教室の先生。
なぜ今、こんな問題が起きているのでしょうか?
記者「音楽教室に対して楽曲使用料の支払いを求めているのが、
日本のほとんどの作曲家の権利を管理しているこのJASRACです」
日本音楽著作権協会、通称ジャスラック。
作曲家から著作権を預かり、利用者に対して著作権料を請求し、作曲家に分配している団体で、
昨年度の徴収額は約1118億円にのぼります。
ジャスラックが、今年2月、音楽教室の先生が生徒に演奏を「聞かせる」行為は著作権の侵害だとして、
来年から受講料収入の2.5%を上限とした著作権料を請求すると発表しました。
この動きに、音楽教室側は猛反発。
【音楽教育を守る会事務局長・功刀渉さん】
「著作権法ができたのが1970年ですが、そのときには既にヤマハもカワイもその他の音楽教室の事業者さんも
色々音楽教室やられてたと思う。そのときに徴収を開始しないでなんで30年も経ってから交渉に来たのか。
発表会とか演奏会では著作権料をお支払いしていますので、1円たりともお支払いしていないわけではない」
ヤマハやカワイなどが中心となり、全国の音楽教室に呼びかけて「音楽教育を守る会」を結成。
251の事業者が原告となって裁判を起こし、司法の判断を仰ぐことにしました。
9月6日に始まった裁判では…
音楽教室側「音楽教室に大きなダメージとなり、音楽を学ぶ機会の減少につながる重大な問題」
ジャスラック「収入の一部を創作者に還元して、創造のサイクルに参加してほしい」
…と、双方の意見が真っ向から対立。
裁判を起こされた形となったジャスラックは…
【ジャスラック常務理事・大橋健三さん】
「当たり前ですけど、音楽教室事業は教育機関ということで無料にはならない。法人税の対象なんです。つまり、ビジネスなんです。
ビジネスの現場で音楽を使っているところについては作った人の財産使ってる限りは使用料払ってくださいと
至極当たり前の話をしているだけだと思っている。勝算あるんですかね?」
ジャスラックは、裁判に絶対の自信を見せています。
その背景を探るため、取材班は和歌山市内にあるレストランカフェに向かいました。
長年音楽に親しんできた木下さんは、地元の人に自由に演奏してもらおうと、
16年前にピアノなどを設置した飲食店をオープンしました。
しかし…
【デサフィナード・木下晴夫さん】
「40年も趣味で音楽やってきて、なんでこんなことになるんだろうと。僕が別にピアノ弾いてたわけでもなく…」
ライブや結婚式二次会の貸し切り営業にも応じていたところ、
オープンから3年後にジャスラックから裁判を起こされ、ピアノが差し押さえられたのです。
【デサフィナード・木下晴夫さん】
「白い紙がこう貼られてて、貼り方も結構大きくて。こんな感じでピアノの鍵盤が開けられないようになっていて。
練習もできないし、ジャスラックの曲以外にも使えないし…」
裁判では、「音楽を楽しめるレストラン」という雰囲気作りの一環としてピアノ演奏を行っていたなどの理由で、
ピアノの撤去とおよそ200万円の損害賠償を命じられました。
【デサフィナード・木下晴夫さん】
「ライブハウスは演奏するために場所提供しているというのもあるが、飲食店は飲食でお金を稼いでいるわけです。
ピアノの生演奏やって儲かってもないし、売り上げもあがらないし。
でも、著作権侵害ということでお金よこせというのは、僕にはどういうことなのかと」
その後も、ジャスラックは、フィットネスクラブやダンス教室など、
ビジネス目的での演奏やCDの再生に対して次々と著作権料を徴収。
残っていたのが、音楽教室での演奏だったのです。
はたして、音楽教室で先生がお手本として聞かせる演奏についても、同じように著作権料の支払いが必要なのか?
街の人に聞いてみると…
【大学生(19)】
「払う必要なしの方にどちらかというと賛成です。音楽に親しめるようにというのが文化の発展であるんだとしたら、
音楽教室くらいは見逃してという気持ち」
【音楽専門学校生(20)】
「払うべきじゃないですかね。ビジネスとして食べている人たちにとっては(音楽教室から)払ってくれた方がいいんじゃないか」
【編集者(39)】
「音楽家を生み出すためには音楽の教育が最初にあったと思うので、そこに規制をかけてしまうのはよくないかなと思います」
音楽教室での演奏に対する著作権料の徴収には、批判的な声が多く聞かれました。
では、法律上はどうなっているのか?
著作権法には、「公衆に直接聞かせることを目的」とした演奏に対して著作権料を求めることができると書かれています。
音楽教室での演奏が、この「聞かせる」ための演奏にあたるのか?
音楽教室側は、「本来想定されていた意味とは違う」と訴えています。
【音楽教育を守る会事務局長・功刀渉さん】
「音楽教室での演奏は、1曲を通して誰かに聞かせるために演奏するわけではなくて、
ピアノであれば演奏技術を習得するために2~3小節のフレーズを繰り返して、教えるための演奏であって、
まったく「聞かせる」ための演奏ではないんだと思ってます」
この点について、ジャスラックは…
【記者】
「最終的にコンサートで聞かせるための前段階での「聞かせる」だから、そこは本来の演奏権が及ぶ「聞かせる」ではないのでは?」
【大橋さん】
「それは理解というよりも屁理屈じゃないですか。コンサートとは違うんだから、使用料規定のあり方について、
もっと額をこうするべきだという議論ならわかります。それが普通じゃないですか」
【記者】
「最終的な発表の場でしっかり(著作権料を)取って、
練習過程においては演奏権を行使しなくてもいいという判断はあまり考えていない?」
【大橋さん】
「あまりどころか、全然考えていません。練習は練習ですけども、練習するときに誰かからお金もらいますか?という話です。
お金が動いているんです、教室事業は。著作権法の条文、裁判例を素直に読みこむ限り、
練習過程での断片的なレッスン利用であったとしても、お互い聞かせる・聞いてもらうというのは公の演奏になる」
ジャスラックは、法律で権利が及ぶと判断できる以上、著作権料を請求するのは当然という姿勢を崩しません。
平行線をたどる2つの主張。はたしてどちらの主張が音楽文化の発展につながるのでしょうか?