きらびやかドーム、中は光の万華鏡。
イルミネーションやプロジェクションマッピングを映し出すのは地面や樹木のスクリーン。
そして、ゆらゆらとした神秘的な映像が広がるのは風にそよぐ「のれん」。
映像とイルミネーションの幻想的な世界、実はここ、世界遺産の姫路城なんです。
11月9日から始まった「姫路城・ナイトファンタジア『おとぎ幻影伝』」。
普段は入ることのできない夜の姫路城を、鮮やかな映像で彩る期間限定のイベントです。
姫路市では滞在型の観光客を増やそうと、3年前から姫路城のナイトイベントを実施。
毎年人気を集めています。
このイベントを企画し、演出面を含め全体を統括するのが木村寿行さん。
これまで、万博記念公園でのイルミネーションイベントや奈良・平城宮跡でのイベントなど,
光と映像を駆使した空間演出を手がけてきました。
【木村さん】
「ストーリー立てていろいろなところを巡っていくっていうのをずっとやりたくて、
自分がやりたいことが一番できるイベントですね」
今回木村さんが企画したのは、姫路城や周辺地域に伝わるおとぎ話や伝説を題材にした、
オリジナルストーリーが楽しめるというもの。
城内の12か所を順に進むにつれて、化け物退治の物語が展開していきます。
本番5日前、設営も佳境を迎えていました。
ノズルから噴き出す水でスクリーンを作り、そこに映像を映し出す「ウォータープロジェクション」。
木村さん、映像の映り具合をチェックします。
宮本武蔵が、姫路城に住みつく大なまずを退治するシーン、見守る木村さんの表情は…
【木村さん】
「ちょっと色々不具合が出てまして、戦いのシーンとかで刀の軌跡とかをいっぱい入れてたんですけど、
それが逆にまぶしすぎて…。ちょっとそこは修正しようと思っています」
映像担当のスタッフに早速手直しをしてもらいます。
白い光で表現していた刀の動きを青色にすることで、まぶしさを減らし、
思い描いたイメージに近づけることができました。
続いて、木村さんがチェックに向かったのは・・・
人工的に作り出した霧をスクリーンがわりにし、映像を投影する「ミストプロジェクション」。
風で霧が舞い広がることで、より映像が幻想的に表現されるといいます。
木村さんが今回一番力を入れている演出で、事前に何度もチェックを繰り返してきました。
しかし・・・
【木村さん】「ちょっと今、ここぶつ切り感がありますね」
【ディレクター】「ミストがちょっと?」
【木村さん】「そうですね、空間としてちょっと間延びする部分があったんで、全体的に親和性のある空間を」
本来、2つのプロジェクターから映し出された映像が一つになるはずですが、
間に大きなすき間ができてしまっていたのです。
どうすれば映像が生えるのか?風向きや霧の量などをチェックし、機材の置く位置も細かく調整します。
イメージ通りの映像を実現するために、木村さん、とことん粘ります。
映像スタッフの吉光さんに木村さんについて尋ねると…
「熱いですね、すごいこだわりもありますし、物腰はめちゃくちゃ柔らかいんですけどね。
でも譲らないところは絶対に譲らないですし」
休む間も無く、今度は天守閣のプロジェクションマッピングをチェック。
【木村さん】
「結構、ライトアップがきついんで上がだいぶん消えちゃってますよね、1/3くらい損してますね。
もうチョツト消したいですね。やっぱり姫路城が光ってないと市民の方から問い合わせが多いみたいなんで。
『今日は姫路城、電気消えてるでー』みたいな感じで」
4回目となる姫路城ナイトイベントで今回が過去最大の規模。敷地が広く坂が多い姫路城内だけに準備作業も一苦労です。
【木村さん】「(歩いた距離)昨日は27、6kmですね」
【ディレクター】「1日で?」
【木村さん】「もうだいぶん慣れましたけど、1週間以上なんで」
イベント会社に入って29年の木村さん。もともとはデザイナー志望でした。
【木村さん】
「(通っていた)専門学校の近くに巨大なサーカステントがあって、
めちゃくちゃ巨大な建物が1日で綺麗に撤去されまして…。
巨大なものを1日で消し去る驚きというか、人を驚かせることができる会社っていいなと思って、
今の会社に勤めることになりました」
今回のイベントは木村さんにとってもこれまでにない大きなスケールです。
【木村さん】
「今回姫路城を舞台にするイベントということで、『すごい』とか『キレイ』とか、
それだけで終わってはちょっと残念だなぁ、というのが常々思っておりまして、
今回来て、歴史に対する興味を生み出すきっかけになったりとか、姫路城のファンが増えたらいいなと
いうことは思っています」
「(目標は)22日間で5万人です。集客が少なくても私の責任になるんで、
そういう点で日々プレッシャーは高くなっていってますね」
そして迎えたイベント初日。
今回は、およそ40分のコースを70人が一つのグループとなって順に見てまわるシステム。
投影される映像は決められた時間に自動で流れるため、移動に遅れが出ると後続のグループに影響が出てしまいます。
開演30分前。木村さんの不安をよそに、すでに500人の行列が!
時間を繰り上げてオープンすることになりました。
城のライトアップが気になっていた天守閣のプロジェクションマッピングも
ライトの明るさを少し落としてもらうことで、映像がはっきりと映っています。
そして、霧の映像も納得できる映像に仕上がりました。
心配していたお客さんの移動。写真を撮ったり、歩く速度の違いもあり、
映像の開始時間に間に合わないお客さんも現れ始めました。
結局初日は3時間で2000人が詰めかけ、無事終了しました。
【木村さん】
「最初の1時間で1000人くらい来場者の方が来られて緊張感は走ったんですけど、
なんとか激しい渋滞もなく、滞りなく終えられたというのは非常に安心しております。
まだバタバタしてて精神的に終わった感は全然ないんですけど」
暗闇に映し出される光と映像のアートの世界。木村さんが描く幻想空間が、見る者の心を照らします。