落ち着きがない、周りとうまくなじめない…こういった特徴を持つ発達障害の子どもたち。そんな彼らの支援において重要な“早期療育”を広めようと、異色の経歴を持つ一人の男性が奮闘しています。彼が率いるITベンチャー企業が目指す、発達障害支援の未来とは。
■11人に1人の子供が“発達障害の可能性あり”
大阪府池田市にある児童発達支援施設「療育センター エコルド」では、およそ100人の子どもたちが、集団生活へ適応する訓練や、遊びながら手先を使う訓練などの発育支援を受けています。こういった施設は現在、日本全国で1万カ所以上あるといわれていて、毎年増え続けています。
2022年、文部科学省が発表した調査によると、全国の公立小中学校の通常学級に在籍している児童・生徒のうち、8.8%が学習面、または行動面で、著しい困難を示す状態にあることが分かりました。11人に1人の子どもが“発達障害の可能性あり”、いわゆる“グレーゾーン”にいると、大きな話題になりました。この児童発達支援施設に通う約9割の子どもたちも、発達障害と診断されていないグレーゾーンです。
「療育センター エコルド」を運営する会社「Ecold(エコルド)」の代表である北村耕太郎さんは、発達障害の子どもを持つ親の一人です。小学4年生の長男、悠青(ゆうせい)くんには、同年代の子どもと比べ、学習能力や運動能力の遅れといった発達障害があります。
【Ecold 代表 北村耕太郎さん】
「発達が明らかに、(他の生後)6カ月(の子ども)と比べると遅すぎると指摘を受けたのがきっかけでした。まず今、何をしたらいいかも分からないし、この子が今どういう状況なのかも分からない」
わが子の発達障害について、当時の戸惑いを語った北村さんは、実は大阪府警の元警察官。凶悪事件の取調官などを経験してきました。当時生後6カ月の悠青くんが発達障害だと分かった時、頭をよぎったのは、自分がこれまで事件で関わった、発達障害のある“容疑者”たちだったといいます。
【北村さん】
「例えば知的障害を持っているとか、発達障害、精神障害を持っているっていうことを取り調べで言われても“甘えんな”みたいな感じで思っていたんですよ。“何を言ってるんだよ、悪いことをしているじゃないか”ということをすごく言っていて。“そんな障害を言い訳にするな”と思っていた方だったので。今のまま、もし彼(悠青くん)がそのまま大きくなって、成長して、その時に彼が生きやすい世の中かっていうと、警察官をやっていた自分の目線からしても、そうじゃないだろうなと思って」
悠青くんが発達障害だと分かったことをきっかけに、北村さんは警察官を辞め、社会福祉の分野で起業することを決意しました。さらに、当時0歳だった悠青くんと一緒に、発達障害の子どものための施設に通い始めたのです。
【北村さん】
「実は療育園に行くことをすごくちゅうちょしていたんです。当時、療育園の先生から“お父さんがここに通う決心をして、一緒に親子でがんばるか、現実から目をそらして、将来ずっと親子で介助し合いながら生きていかないといけないのか。選ぶのはあなたです”と言われて」
障害と向き合うのは今だと決意し、およそ2年間、親子で通園しました。その中で見えてきたものとは…。
【北村さん】
「最初、療育園に行ったばかりの時は(悠青くんがお父さんの)後追いをしなかったんです。(先生に)“お父さん、あっち行ってみてよ”と言われて離れたんですけど、悠青くんは(お父さんを追わずに)一人で遊んでいるんですね。(先生から)“これは親子関係ができていないんだよ”と言われて。そこからか、と思って。その時に早期療育をちゅうちょしていれば、もしかすると肢体不自由で歩けないまま、車いす生活だったかもしれません」
■発達障害を“見える化”するITツールの開発
今年の夏、北村さんはあるITツールを開発しました。子どもたちの発達障害を“見える化”するもので、言語・コミュニケーション、社会性、認知・行動など、5つの項目で評価します。保護者と施設の支援者が子どもをチェックし、およそ50個の質問に答えることで測定。その結果をもとに、例えば、人間性・社会性を伸ばすために“座って一つのことに取り組める時間を増やす”など、1人1人の課題に合った支援をしていきます。
なぜ、子どもたちの発達障害を“見える化”する必要があるのか。北村さんは次のように話しました。
【北村さん】
「例えば、おなかが痛いと言っているのに、おなかの痛み止めの薬を出さずに肺炎の薬を出したら、全然違う効果になる。発達支援も同じで、本来ここ(本人の課題)に支援をしていかないといけないのに、違った支援をすると、その子にとってはすごく貴重な乳幼時期を無駄にしてしまうので、それをなくしたいです」
8月、京都大学大学院医学研究科のチームが、たくさんの機材を抱えて児童発達支援施設「療育センター エコルド」を訪れました。
細い穴にコインを入れ、楽しそうな子どもたち。しかし、これは遊びではなくテストです。速さを測っています。年に一度の測定会では、子どもたちにさまざまなテストを受けてもらい、発育レベルを専門的に見ていきます。
発育レベルをどう客観的に評価するか、その精度を高めるため、北村さんは京都大学と共同研究をしています。将来的には、カメラで撮影した画像で、発育レベルを自動的に判定できるソフトを開発する予定です。
【北村さん】
「人間の目ではない方法で評価するのは、すごくいい。この技術を発達障害の子どもが通う施設だけでなく、一般の保育園や幼稚園などにも広め、早期の発育支援につなげていきたいです。(発達障害について)得意、不得意という“個性”で判断してほしいなと思っていて。(発育レベルの評価は)シンプルにその子のありのままの状態を示すものだと思っているので。“障害”という言葉の本質的な意味… “社会的な障壁”とよくいわれますが、そういうものだということが、どんどん広まってくると思います」
一人でも多くの子どもに支援が行き届き、“障害が個性になる”、そんな優しい社会を目指して。その実現のためには、保護者が頼れる相談窓口の数を増やすことはもちろん、サポートする施設の質の向上も求められています。
(関西テレビ「newsランナー」2023年10月23日放送)