2023年、海遊館で生まれたカワウソの子ども「シイちゃん」。展示デビューを目指して、ニフレルにお引っ越ししました。
迎え入れるニフレルでは、「新しい環境で安全に暮らしてもらいたい」と、最年少の飼育スタッフが受け入れ準備に大奮闘!
無事、展示デビューはできたのか?その裏側を取材しました。
■2023年8月に誕生したカワウソの赤ちゃん
手のひらに乗るほど小さい、生まれたばかりのカワウソの赤ちゃん。
2023年8月、大阪の水族館「海遊館」で生まれた4頭のうち、3頭がオスで、1頭がメスのシイちゃんです。
赤ちゃんカワウソはすくすくと成長していきます。生後半年で、飼育スペースが手狭になってきたこともあり、お母さんカワウソのセンティと娘のシイちゃんが、展示デビューを目指し、ニフレルに引っ越しすることになりました。
母親のセンティが妊娠した時から世話をしているのは、ベテラン飼育員の宮側さんです。
【飼育スタッフ 宮側賀美さん】「(シイちゃんは)すごくやんちゃではあるんですけど、これまで私が育てたことのあるメスの中ではすごく穏やかだなと。今、シイにとって何が一番環境的にいいのかというところで、広いスペースでプールも大きくて、いろんな刺激がある環境に行ってもらいたいなと。ちょっと送り出す気持ちです」
シイちゃんの新しい住まいになるのは、吹田市にある「生きているミュージアム ニフレル」。
そこでシイちゃんたちを迎え入れるのが、最年少飼育スタッフの松岡亮治さん(25歳)です。これまでミニカバやホワイトタイガーの世話をしてきましたが、2023年4月からはカワウソの飼育も担当しています。
ニフレルは海遊館が経営しているため、カワウソの成長に合わせて施設間で入れ替えをすることも。松岡さんは、幼いカワウソを受け入れるのは初めての経験です。
【飼育スタッフ 松岡亮治さん】「まだまだカワウソの飼育歴も短く、先輩社員に聞きながら今回の準備を迎えることができたのですが、カワウソと共に成長しないと、と思っております」
シイちゃんを受け入れるにあたって、心配や不安があるようで…。
【飼育スタッフ 松岡亮治さん】「他のスタッフからはすごく楽しみだと聞くんですが、大丈夫かなっていうのが…。すごく心配の方が今は(大きい)。けがが一番、もう心配で、心配で仕方がないので、すごく責任を感じながらやっています」
■シイちゃんと初対面 迎え入れ前の試行錯誤
引っ越し3日前、海遊館を訪れた松岡さん。シイちゃんに会うのはこの日が初めてです。
【飼育スタッフ 松岡亮治さん】「どんな子かなっていうのは少しドキドキな感じはあります」
これまでシイちゃんを育ててきた宮側さんの餌やりを見学します。シイちゃんを初めて見た印象は?
【飼育スタッフ 松岡亮治さん】「ひと回り小さいなって思ったのが率直な感想でした。新しい環境でじっとしているタイプではなさそうな感じ。元気な娘とお母さんだったので、今後ニフレルでどんな感じで動いてくれるのかは期待しています」
松岡さんはシイちゃんの展示ブースについて、宮側さんに相談することにしました。
カワウソはもともと好奇心が旺盛で、手先も器用な動物です。さらに子供となれば、どのような動きを取るのか飼育員たちも予測ができず、けがのリスクも高まります。
【飼育スタッフ 宮側賀美さん】「これ(スロープに)ブロック入ってる?」
【飼育スタッフ 松岡亮治さん】「ブロックです」
【飼育スタッフ 宮側賀美さん】「ブロック抜いてほしい」
【飼育スタッフ 松岡亮治さん】「分かりました」
【飼育スタッフ 宮側賀美さん】「ブロック、ここに顔突っ込んで出られなくなったら溺れるので、ブロック危険やね」
シイちゃんを迎え入れるにあたり、危険なところをできるだけなくしたいと、アドバイスを受けます。
松岡さんはとにかく心配が尽きないようで…。
【飼育スタッフ 松岡亮治さん】「(引っ越し当日、シイを)展示まで出すのか、もうバックヤードで終了か、どうしよう?」
【飼育スタッフ 宮側賀美さん】「それはそっちのね、ニフレル側の問題なので、館長含め上長とお話ししてください」
【飼育スタッフ 松岡亮治さん】「分かりました」
ニフレルに戻った松岡さんは閉館後、早速準備に取りかかります。
プールに置いてある台と台の間のわずかな隙間を改善します。シイちゃんがここに手を入れて、けがをする恐れがあるためです。板を入れて隙間を埋めようと採寸しますが、ここで頭を抱えてしまいました。
【飼育スタッフ 松岡亮治さん】「あそこの(台と台の隙間が)幅1.5センチだったんですね。ベニヤ板のサイズは(厚みが)1センチが多くて、0.5センチ分の隙間が空くと、板がぐらつく。固定をすると、またそれが次は突起物に変わっちゃうので、カワウソが足をつまずく可能性があるので、ビタビタにつけたほうが、一番けがするリスクが少ないんですよ」
1.5センチの隙間、一体どうするのでしょうか?
【飼育スタッフ 松岡亮治さん】「どうしようかな。あ、いつもこんな感じで考えてます、すみません」
「ペンキ塗りながら考えます。ちょっと時間もったいないので、すみません。板持ってきます」
迎え入れ前日も、松岡さんは作業に追われていました。
シイちゃんのために1.5センチの隙間を埋めようと、この日も試行錯誤を続けています。
【飼育スタッフ 松岡亮治さん】「カバに呼ばれたので行きます。ちょっと(他に)託すことができないので、いったん中断で」
ミニカバの担当もしているため、作業を一度中断します。担当している動物たちに少しでも変化があれば、すぐに様子を見に行かなければいけません。
そして、戻ってきたのは3時間後。業務の合間を縫って、作業再開です。
【飼育スタッフ 松岡亮治さん】「あとは鋭利な箇所だけ、やすりがけして隙間の板の制作はいったんおしまいです。(Q.心配は変わらず?)変わらないですね。お客さまの前に出て、しばらくしても安全というのがゴールかなと思っていますので、まずはできるところはなるべく対策できたらなと、(迎え入れの)1日前でも思っています」
閉館後、シイちゃんがブロックに頭をつっこんで溺れないよう、スロープを撤去した松岡さん。できることは何でもします。
■引っ越し当日!慣れない環境…どうなる?
いよいよ迎え入れ当日です。
これまで悩んでいた、1.5センチの隙間。前日の夜までかけて作った板はぴったりとはまり、隙間を埋めることができました。
【飼育スタッフ 松岡亮治さん】「よし!」
一方、海遊館では、宮側さんらがシイちゃんたちをケージに入れ、運び出しをしていました。
【飼育スタッフ 宮側賀美さん】「シイちゃん怖いよな。母ちゃん抱きついてくるしな」
お母さんのセンティがシイちゃんを守るように手を添えていました。
シイちゃんを車に乗せ、海遊館を出発。およそ35キロの距離を、松岡さんが待つニフレルへと向かいます。
車に揺れること、およそ50分。無事ニフレルに到着しました!
初めての引っ越しですが、シイちゃんは元気そう。
急に飛び出したりしないよう、運んできたケージごとバックスペースに入れましたが、見慣れない場所に戸惑っているのか、なかなかケージから出てきません。
そこで、餌を使って誘導すると、徐々にケージからシイちゃんたちが出てきました。
【飼育スタッフ 宮側賀美さん】「(展示ブースに)出したほうがいい気がする」
【飼育スタッフ 松岡亮治さん】「出します」
シイちゃんたちの様子が落ち着いていると判断し、展示ブースにつながる扉を開けてみることに。すると、お母さんのセンティが顔を出し、シイちゃんも続いて出てきました。
最初は恐る恐る入ってきましたが、餌を食べながら、徐々にニフレルの展示ブースに慣れてきたようです。
シイちゃんは初めての深いプールになかなか勇気が出ません。泳ぐお母さんの後を、浅瀬で懸命についていきます。
松岡さんががんばって隙間を埋めた場所もバッチリだったようで、シイちゃんのお引っ越しは大成功となりました。
【飼育スタッフ 松岡亮治さん】「無事、元気に動いている姿を見てひと安心しています。(お母さんと)並んで泳いで、潜っている姿もゆくゆくはのぞけたらいいかなと思っています」
■親子で泳ぐかわいい姿をお披露目
引っ越し当日は泳げなかったシイちゃんですが、その後、お母さんと一緒にプールで泳ぐ姿を見せていました。
まだ泳ぎに不慣れなシイちゃんは、スイスイ泳ぐお母さんに、犬かきで必死についていきます。
【お客さん】「かわいい」
「(お母さんに)ついて行っている感じがめちゃかわいいですね」
「水入るの好きだね」
シイちゃんにとっても、松岡さんにとっても、初めての経験となった今回の引っ越し。
環境の変化を経て成長したシイちゃんは、ニフレルに訪れるたくさんの人たちを笑顔にしてくれます。
(関西テレビ「newsランナー」2024年2月20日放送)