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「気分の落ち込み」「適応障害」「うつ病」の違いは“心のバネ”が戻るかどうか 専門医が解説07月06日 10:00

蒸し暑い日が続いている。 まとわりつくような湿気や室内と屋外の温度差に、なんとなくやる気が出なかったり、体のだるさを感じている人も多いのではないか。 こうした「気分の落ち込み」と「うつ症状」、そして「うつ病」の違いはどこにあるのか? 気分の落ち込みが悪化して病気になることはあるだろうか? 人形町メンタルクリニックの勝久寿院長に詳しく聞いた。 ■「落ち込み」「適応障害のうつ症状」「うつ病」の違いとは

【人形町メンタルクリニック 勝久寿院長】 「うつ状態」とは、憂うつや悲しみ、やる気の低下、集中力や判断力の低下など精神的にネガティブな状態をさします。 健康な方であっても落ち込むことはありますし、精神疾患の適応障害やうつ病などでも「うつ状態」がみられます。 これらの違いは、うつ症状の程度、ストレスとの関係、症状の内容によります。 「通常の落ち込み」「適応障害によるうつ症状」「うつ病による抑うつ気分」の違いについて『ストレス=オモリ』、『憂うつの程度=バネの長さ』に例えて説明します。 *「通常の落ち込み」は、ストレス(オモリ)があっても気持ちが変化している(バネが伸び縮みしている)状態です。 例えば、「この仕事は責任が重いし嫌だな」と思っていても、一方でやりがいを感じたりもする。 落ち込むことがありながらも、友達や家族と過ごす時間や趣味などを楽しめます。 このような「心が柔軟に動いている状態」は特に心配する必要はありません。 *「適応障害」は、オモリが重くバネが限界を超えて伸びすぎています。 しかし戻る力が残っているので、オモリ(ストレス)が外れれば、バネは再び縮むことができます。 休日などでストレスの原因(職場や学校など)から離れてしまえば比較的活動的で、人と会ったりスポーツや旅行を楽しんだりできます。 *「うつ病」は、重いオモリに耐え続けた結果、バネ伸び切ってしまった状態です。 こうなると、オモリを外してもすぐには元に戻りません。 ストレスから離れても症状が改善されず、興味関心や意欲が低下し、休日も横になって過ごすことが多くなってしまうのです。 ■バネを強くする3つの方法

バネが伸び切ってしまったら、戻すのは大変です。 日頃からストレスを意識して、「バネが伸びてるな」と感じたら、伸び切る前に戻す、そしてバネの力(戻す力)を強くすることが重要です。 バネを強くする方法は色々ありますが、自分ですぐに実践できる方法を3つお伝えします。 (1)客観視する バネの戻る強さは性格などによる個人差が大きく、悲観的な考え方、完璧主義、不安になりやすいといった人は、バネが伸びやすく弱い傾向にあります。 仮にあなたが何かに悩んだとして、「もし同じ悩みを人から相談された時に自分はどう答えるか?」と考えてみて下さい。 悲観的な考え方の人も、他人から相談を受けた時は前向きなアドバイスをしたりします。 「深刻に捉えなくて大丈夫だよ」とか「そこまで気にしなくて良いんじゃない」とか。 完璧主義な人もそうです。 「失敗しちゃった」と相談された時、多くの人は「そこまで大きなことじゃないよ。取り返しがつくよ」と答えます。 その答えを自分に置き換えてみるのです。 「でしたら自分にもそう言ってあげても良いんじゃないですか」とアドバイスします。 これは「認知行動療法」といって、捉え直すことによって、少しずつ考え方や行動を変え、心を強くする方法です。

(2)同時に4つのことを意識してみる 嫌なことが頭から離れなくなった時、排除する方法が2つあります。 簡単にいうと「1つのことに集中する」か「たくさんのことに集中する」か。 嫌なことがAだとすると、それ以外のBに集中する。Bは呼吸でも掃除でも編み物でも料理でもなんでも構いません。 1つのことに没頭するというのがひとつめの方法です。 もうひとつは、同時にたくさん…4つのことを意識してみて下さい。 例えば「呼吸を意識して」「扇風機の音に耳を向けて」「足の裏が地面についている感覚を意識して」「手が膝についている感覚に意識を向ける」。 おそらく出来ません。 3つぐらいまでは出来る人もいますが、普通の人は4つは無理です。 この“無理”というのが「何も考えていない、どこにも意識が向いていない状態」なのです。 これは「マインドフルネス(瞑想)」をシンプルにしたものです。 嫌なことがあった時は、何かに集中するか、4つを同時に意識することで、頭を空っぽにする。 すると落ち着いて眠くなり、高いリラクゼーション効果が得られます。これも心を強くする方法です。

(3)柱(支え)を増やす ストレスはオモリですから、1人より2人で持った方が軽くなります。 相談相手を見つけたり、仲間を増やしたり、支えが増えると楽になります。 また、趣味やスポーツなど精神的な支柱になるものや、居場所を増やすことも大切です。 人は、趣味、仕事、人間関係などの柱の上に立っているようなもの。 支えてくれる柱の数が多いほど安定します。柱の多い人はストレスに強い人です。 これら3つは、予防であり、治療でもあります。 「これならできるかな」と思うことを、ぜひ実践してみて下さい。 ■クリニックに行く目安は…

繰り返しになりますが、バネが伸び切る前に戻してあげることが非常に重要です。 自分で修復するのが難しいと感じたら、クリニックを受診してみて下さい。 クリニックに行くべき状態の目安はいくつかあります。 1つは、ストレスの原因が頭から離れなくなり、心身の不調も伴うようになった時。 ストレスに直面すると憂鬱感や不安感が強く出て、動悸や吐き気といった身体の不調も伴うようになったらクリニックに相談して下さい。 さらに進むと、ストレスの原因に近づけなくなります。 例えば職場が原因の場合、職場に近づくとドキドキして吐き気がする。 休みの日も四六時中、職場のことを考えて嫌な気持ちになり、それを避けたくなる。 そういう状態になったらクリニックを受診して下さい。

多くの人がストレスを抱えて生活しています。 オモリ(ストレス)を取ってあげると楽になりますが、ストレスに立ち向かう力が弱くなり、次に同じ状況になった時にまた嫌な気持ちになってしまいます。 そうならないためにも、ストレスを完全に避けるのではなく、バネを戻す力を身に着けて、ストレスに強い心を作って欲しいと思います。 (人形町メンタルクリニック 勝久寿院長)

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