
戦後80年 なぜ硫黄島には1万人以上の遺骨が残されたままなのか 青山繁晴氏「自衛隊の滑走路撤去を」04月26日 10:31
太平洋戦争の終戦から80年。
今月7日、天皇皇后両陛下は日米合わせて2万9千人の兵士が犠牲となった、硫黄島(いおうとう)を訪問され、戦没者を慰霊された。
硫黄島は日本の領土ではじめて日米両軍が壮絶な地上戦を行った場所である。
旧日本軍2万2千人に対し米軍は3万人以上。
米軍は5日で島を陥落できると見込んだが、旧日本軍は35日間にわたり抗戦した。
硫黄島の守備隊司令官、栗林忠道中将は、この島を守る時間が長ければ長いほど、本土への爆撃を食い止められると考え、島内に約18キロもの地下壕を築き、徹底したゲリラ戦を展開した。兵士に自決攻撃を禁じたことも、島の陥落を1日でも引き延ばそうとした栗林の意思がこめられているとされる。
硫黄島は火山の島である。
地下壕は地熱で蒸され、雨水をドラム缶にためた飲み水は「熱湯」だっと、生還した旧海軍の士官はいう。
海上自衛隊の基地がおかれた硫黄島は、いまも民間人が原則立ち入ることができない。
そして硫黄島には今も1万人を超える旧日本兵の遺骨が収集されずにいるとされる。
硫黄島は東京都小笠原村にある、いうまでもなく日本国内の島である。
近年、旧島民やその子孫が、島への帰島を求めているが、政府は火山活動などを理由に「定住に適さない」とした、1968年の小笠原諸島返還以来のスタンスを変えていない。
■19年前に硫黄島に上陸取材 青山参議院議員
80年前、あの島で旧日本軍がどんな戦いを強いられたかを知るのは、多くの日本人にとって、皮肉にも2006年に公開されたクリント・イーストウッド監督の「硫黄島からの手紙」がきっかけだったのではないか。
筆者はこの映画が公開された19年前、硫黄島を取材する機会に恵まれた。
硫黄島に民間人が上陸するには、慰霊祭や旧島民の墓参、または遺骨収集団の参加者に名を連ねるしかないが、この時はそのどちらでもなかった。
この取材が実現したのは、当時私が担当していたニュース番組「スーパーニュースアンカー」にコメンテーターとして出演していた、民間シンクタンクの社長で安全保障政策を専門分野とする青山繁晴・現参議院議員と防衛庁の交渉の賜物であった。
ただ当時の防衛庁が出した条件は、島への交通手段の提供を含め、一切の便宜供与はなく、「自力」で島に行くことだった。
紆余曲折あり、系列局が所有するジェット機をチャーターし、青山氏との同行取材が実現した。
栗林忠道中将司令官が身を置いた、司令部壕に入り、戦争当時の爪痕がまだ生々しく残る壕の内部を撮影した。
戦後80年たったいまも19年前と同じ「民間人は立ち入り禁止」は変わらない。
「硫黄島」とは戦後80年の日本の歩みが凝縮された、「考えるきかっけ」だとする、青山繁晴参議院議員に硫黄島の遺骨収集問題や現代の安全保障にとっての島の重要性を聞いた。
■天皇皇后両陛下 硫黄島訪問の意義
【青山繁晴氏】「両陛下がお尋ねくださるというのも歴史的ですけども、(平成時代にも)行幸啓されていて、栗林中将が最後に遺された歌を思わせるような御製、天皇陛下お詠みになった歌を詠まれたりしているので、ずっと英霊が故郷に帰っていただくべきだと思ってくださっていて、それが今上陛下にもきちんと伝えられているというのは、身震いするような、心がふるわれるような感覚でいる。
僕が『スーパーニュースアンカー』のカメラマンと一緒に 硫黄島入ったときと違ってね、慰霊祭が毎年行われるようになり、硫黄島が「いおうじま」と間違って読まれずに「いおうとう」と、ちゃんと定着をして 東京都の島なのに帰っていない方が1万人前後いらっしゃるというのが 国民に十分知られているというのは、隔世の感がある」
■硫黄島民の島外移住は栗林中将の「英断」
(Q硫黄島は民間人立ち入り禁止でこれはおかしいと安倍総理にも進言されていたというが、いまも変わらない。現状をどうとらえている?)
【青山繁晴氏】「含みのある質問だと思うが問題は 2つある。 1つは島民の方。沖縄戦の前に硫黄の戦いがあった。1945年の早春の段階。その後に沖縄戦が 起きるわけです。沖縄の国民、住民たちはヤンバル、沖縄本島の北部に移るという案もあったけれど、牛島満・帝国陸軍中将(沖縄本島司令部司令官)も 海軍の太田さん(海軍部隊指揮官)も踏み切れなくて、 それで少年少女も含めた大変な犠牲が出て今に至るわけですよね。
でも硫黄島の場合は、僕は栗林中将の英断だったと思うが、 軍属以外の島民は基本的に父島、母島、あるいは東京都内に移っていただいて、 それで2万人を超える日本兵の犠牲は出したけれども、沖縄戦のような悲劇は起きなかったんですよ。
この事を今批判する方いらっしゃいます。つまり、硫黄島には6つの集落があって、サトウキビ栽培など色んな産業もあって、 立派な独り立ちしてる島の経済があった。
旧島民を戻せないのはおかしいという方がいらっしゃるけど、もともとは、軍にとって邪魔だから移住させたのではなく、 栗林中将は間違いなくここで全員死ぬと、その代わり本島への爆撃を遅らせる効果があると。 なぜかというと、米軍は硫黄島を爆撃の拠点に使うわけですから、硫黄島そのものは欲しいわけじゃない。 要するに沈まない滑走路が欲しいだけ。だから誰も生きて帰れない。 そこに住民も巻き込むわけにはいかないということで、栗林中将の交渉力で島民に避難していただいたわけです」
■今も面積が拡大する「火山の島」 住民が戻るのは「非常にリスク」
【青山繁晴氏】「今、あれから80年経て戻っていただくとなると、日米の軍事機密、防衛機密という問題だけではなく、20平方キロメートル以下だった島の面積が今は(火山活動で)30平方キロメートルに近づいていて、 これだけの大きな島の変容というのは地球全体で見てもそんなに多くないです。
まず一つは僕は、住民の方々、世代交代をなさっていても、 当然故郷に戻りたい、父祖の地で、ちゃんとかつてのように島の経済も自立させて生活したいという気持ちはすごくわかるが、 島の変容ぶり、あるいは気候の厳しさを見ると、非常にリスクを伴うので、慰霊のため、あるいは遺骨収集のために訪問することはできるので、ある程度は現状のままでいいと思う」
■硫黄島を「教育の島」にするべき
【青山繁晴氏】「もうひとつは、『教育の島』にすべきと安倍総理にずっと言っていた。
硫黄島の遺骨がなぜ無視されていたかというと、硫黄島の方々も含めて、 とにかく日本軍は全部悪者だという教育を受けてきた。4歳の孫が2人いますけど、 基本的に同じ教育を受けることになる。
そこの歴史観というものが、日本の占領下に作られたものと全然変わっていないから、「お可哀そう」とか、「戦争は絶対悪だ」という話とは結びついても、 硫黄島の方々が自分を捨てて、人のために生きられて、人のために亡くなって、 そのために爆撃も遅れて、民間で亡くなる人が減ったから、戦後世代の私たちも生まれたという、 当たり前の事実が語られていない。 それを変えたい。 しかし世の中の体制としてはそうなっていない。
アメリカでそのことを話すと、「彼ら(硫黄島の日本兵)は日本で悪者にされているの?だから遺骨をほったらかしにしてるんだ」と驚く。
ずいぶん世界を歩いてきたが、自分のためではなく、あとの人のために戦って亡くなった人、例えば硫黄島の兵士のような方々はずっと尊敬されるわけです。 でも日本はそれを弔う国の施設もない。 あるいは国営の戦争記念館もない。 意見が分裂したまま、ほったらかし。自由民主党が最大に責任を持たないといけない」
■自衛隊滑走路の撤去に500億円 なぜ必要なのか?
Qいまも1万人を超える遺骨が収集されず島に残っている。自衛隊基地の滑走路を移設し、滑走路下にある遺骨収集を進めるべきと主張されているが?
【青山繁晴氏】「滑走路を撤去して遺骨がなかったらどうするんだってずっと言われている。 撤去関連費用は500億円以上になると思うが、滑走路を剥がして、 風化もあって、そもそも夏の壕の中は70度を超える。海上自衛官も入るのをためらう。 それが、あれだけ工夫して土中に作った、 暑い暑い70度、80度の世界で、 圧や火山変動の影響を受けながら、 ご遺骨、人間の骨が果たして見つかるのか。 これ実は海外まで行って、 骨の専門家にも会ったが、 実験したことがないから分からないという。 結局、分かんないわけです。
国会議員になって何してるんだ、ってことはあると思うけど、議員になると余計に、 省庁は『これ結果でなかったら責任取ってください』という。『責任取るから一緒にやろう』と言っても、『いやうちの省庁ではできないので防衛予算でやってください』とか『厚労省の予算でやってください』と押し付け合いになる。
それでも今は15億円の予算があるから、 ボーリング調査をしているが、 カメラを滑走路の下の地中に入れても、よく分からないわけです。
それを厚労省は『遺骨がゴソッと出てこないと、文句言われるのは我々だ』と。
滑走路を撤去するのは数百億円ですから。 数百億円を出してやることを理解してくれる主権者がどれくらいいるのか。 要するにゴソッと出てくれないと、 国民から文句を言われて立つ瀬がないがないということなんですよ。
(米軍が作った日本兵の)集団埋葬地という言葉にごまかされない方がいい。そんなものはない。米軍は日本兵の墓地など作っていない。
500億円以上かけて、滑走路を撤去して、遺骨が一体しか出てこなかったらどうするんですかと役所は言うが、僕はそれでも意味があると言ってるわけですよ。
それがすなわち教育なんですよ。『教育の島』にというのはそういうこともあるわけです」
■中国の海洋進出 硫黄島は「日本が一番守り切らないといけない島」
Q現代の日本の安全保障にとって硫黄島の役割は?
【青山繁晴氏】「自衛隊の硫黄島基地は戦闘機の発着訓練をメインに考えていて、実戦部隊と呼べるものはいないに等しい。 ところが小笠原諸島のすぐ近くに沖の鳥島があって、中国は周辺を空母も航行させている。中国の方がはるかによく理解していて、 日本の南方を抑えていくと 海洋資源が大量にある上に、台湾有事を起こしたときに、米軍がやってくるのを防げる。いわば「海の万里の長城」。それをわかっていながら硫黄島の防衛体制は変わっていない。
本当は硫黄島は日本が一番守りきらないといけない島。 なぜかというと海洋資源の保護。地球は陸が3割で海が7割。資源も多くが海にある。 水圧に耐える海中ロボットがどんどん出てきている。これを先駆的に予言したのが第一次安倍政権の海洋基本法。
米軍の一部の中には、中国が空母を作った理由のひとつは、沖ノ鳥島に乗り上げるつもりだと。 乗り上げて沖ノ鳥島を潰しちゃうと。バラバラに。 日本は中国に岩と言われても島ですと言っているが、 それを乗り上げて全部潰しちゃうつもりだと。
米軍も当てずっぽで言っているわけではなく、 当然インテリジェンスで中国軍内部の通信なども把握している。
台湾有事だけではなく、海洋資源という千年、一万年の問題を考えると、硫黄島周辺の防衛は住民がいなくても重要。
硫黄島は「考えるきっかけ」なんです。単にご遺骨を取り返しましょうという話ではなく、僕ら生まれる前の敗戦後80年の歴史、その歴史をどう見るかの中心の位置のひとつにあるのが硫黄島なんです」
(関西テレビ オンライン編集長 佐藤一弘)