2023年9月1日(金)深夜1:25~2:25
猛火の先に ~京アニ事件と火を放たれた女性の29年~

猛火の先に ~京アニ事件と火を放たれた女性の29年~

受賞

ギャラクシー賞 奨励賞

内容

36人が死亡、32人が重軽傷を負った京都アニメーション放火殺人事件から4年。全身に重いやけどを負った青葉真司被告は最先端の皮膚移植手術を受け、生き延びた。

猛火の先に
青葉被告の主治医を務める鳥取大学医学部附属病院の上田敬博教授は「絶命させたら全部終わっちゃう、遺族や被害者を落胆させてしまうと気負いがあった」と明かす。9月に始まる裁判で「隠さずに真実を述べてほしい」と願う。
上田教授が当初から口にしていた思いがある。
「犠牲になった方を一人でも同じ技術で救いたかった」
猛火の先に
上田教授と共に青葉被告と向き合った医師や看護師も複雑な思いを抱える。青葉被告が回復していくにつれ、胸に刺さった記憶の棘が不意に顔をのぞかせる。

一方、京アニ事件の報道に接し心を痛める人もいる。長崎県に住む岡本真寿美さんは、29年前、同僚に交際を迫っていた男にガソリンをかけられ火をつけられた。全身の9割に火傷を負い、皮膚移植など29回にもわたる手術に耐えた。
京アニ事件は他人事とは思えない。火傷を負った被害者の苦しみが痛いほどわかるからだ。移植した皮膚は体温調節が難しく、熱中症になりやすい。生活は制限され、人生は180度変わってしまった。

29年前の事件の直後、岡本さんは、苛烈な治療費の請求に直面した。生活保護を申請したが「治療費は加害者が支払うべきだ」と担当者に拒まれた経験がある。仕事を得てようやく生活保護を脱したものの、今も自己負担で通院を続けている。
なぜ事件の被害者が重い負担を強いられるのか?岡本さんは犯罪被害者への補償制度の充実などを国に働きかけ続けている。
猛火の先に
被告を裁判に向き合わせることも、制度を整えることも、共通しているのは遺族・被害者のために何ができるかという思いだ。
加害と被害。それぞれの当事者への取材を通して浮かび上がる日本の課題を考える。

ナレーション

伊藤淳史
伊藤淳史
コメント

この番組で注目してほしいことをお聞かせください

青葉被告を治療した医療チームが、どれだけの思いを持って彼に向き合ったかに注目してほしいです。医師としてやるべきことに全力を尽くしただけの人たちが、いまだに心に何かを抱えているという現実をぜひみなさんに見ていただいて、いろんなことを感じてもらえたらなと思います。知るだけでも、全然違うと思いました。

主演を務めた『チーム・バチスタシリーズ』の二作品目「ジェネラル・ルージュの凱旋」では、上田教授らと同じ救命救急センターが舞台でしたが、演じた際の心境に重なる部分はありましたか

心療内科の役と専門分野は違いますが、命の尊さを意識しながらお芝居していたので、上田教授たちの目の前の命に、その人の人生に真剣に向き合うとするところなどに共感しました。救命救急センターのように実際に命を救う現場の演技では、一刻一秒を争う中で命を救うことには何のためらいもない、とにかく命を救うのが一番という感覚で演じていました。

青葉被告を治療した医師たちの活動についてどう思われましたか

このドキュメンタリーでは、救命に携わられた医師の皆さんの複雑な思いを伝えています。目の前の死にそうな患者さんを救うという仕事に必死になることは正しいと思いますし、実際に命を助けられるのも、日々緊張感をもって努力をされた結果だと思うので、頭が上がらない思いです。
事件に携わったいろいろな立場の人たちが、それぞれ複雑な思いをもって今も生きている。それを皆さんに見ていただいて、心に刻んでもらえたらなと思います。この事件が起きたことを決して忘れないためにも。

犯罪被害者の過酷な現状については、どう感じられましたか

番組を見るまで被害者が置かれる状況を知らなかったので、本当に驚きました。本来なら忘れられない苦痛を抱えて生きておられる被害者は一番ケアされるべきなのに、ここまで補償されていないのが現実なのかと衝撃を受けました。岡本さんが「普通に接してほしい、腫れ物扱いはやめてほしい」とおっしゃっていましたが、事件がなければ払う必要がなかった治療費を補償してもらうのは、よく考えてみたら普通のことですよね。加害者から金銭面での償いがない現実も辛く苦しいものです。被害者に対する救済が見直されればと思いました。

スタッフ

ディレクター
:原佑輔
撮影
:工藤雄矢
編集
:野上隆司
プロデューサー
:宮田輝美
チーフプロデューサー
:柴谷真理子