2023年 2月17日(金) 深夜1:25~2:25
ウクライナ、9×9の歌
明日をつくる子どもたちへ

ウクライナ、9×9の歌 明日をつくる子どもたちへ

受賞

日本民間放送連盟賞◇特別表彰部門(青少年向け番組)最優秀賞

内容

2022年2月に始まったロシアによる侵攻で、多数のウクライナ人が戦禍を逃れようと国外に脱出。日本にも2000人を超える人々が暮らしています。そのうち約400人が18歳未満とされています。

日本で支援を受けながら生活し、学校に通うことは出来ても、周囲で飛び交う言葉がほとんど分からない中で過ごす時間は、子どもたちに何をもたらしているのでしょうか。

都内で避難生活を送るオルハさん一家。2人の子どもたちが通っている都心の小学校は、授業に通訳を入れるなど態勢を整えていますが、6年生のオリビアさんと3年生のヤン君の授業を全てカバーすることは出来ません。日々の学校生活に2人が戸惑う姿も見られました。
ウクライナ, 99の歌
ウクライナ, 99の歌
ウクライナ, 99の歌
そんな子供たちの教育支援に立ち上がったのが、京都教育大学の黒田教授です。
以前から外国ルーツの子供たちがどんな場所でも学べるようにと、様々な言語の教材作成に取り組んできた黒田教授。今回は小学校~高校まで対応する算数と数学のウクライナ語の動画教材を約600本作成し、YouTube にアップロードする取り組みを進めています。
京都教育大学 黒田教授
ウクライナ, 99の歌
翻訳を担当している一人、カテリーナさんは、留学で日本に来ているさなかに祖国が侵攻を受けて帰国できなくなりました。母と弟はドイツに避難したものの、父親は軍に入隊し、前線にいます。家族の事、自分の将来の事…様々な不安を抱えながら「自分に出来る事はないか…」と考え続けています。
カテリーナさん
ウクライナ, 99の歌
一方、多くの教材を完成させたものの、期待したほどには幅広く活用されていないという現実に黒田教授は直面しています。日本のカリキュラムに基づいて作った教材は、それまでウクライナで教育を受けていた子供達にマッチしていない部分がありました。

また日本では、掛け算の九九について、言葉を短く省略して暗唱しながら覚えていくのが一般的ですが、ウクライナではそうした習慣はなく、九九の学習に割く時間も少ないことが分かりました。その結果、ウクライナの子供たちが日本の学校で計算スピードについていけなかったり、掛け算でケアレスミスをしてしまったりするという課題も見つかりました。

ウクライナの子供たちが自信を持ち学習に前向きになれるきっかけをつくりたい—。
教授は、計算に親しみが持てる“ウクライナの九九 の歌”を作るプロジェクトを立ち上げました。ウクライナ語の数字のフレーズを歌詞のように作っていく作業はカテリーナさん。リズムを整えてメロディを乗せ、歌にしていくのは教え子の学生。さらに歌に合わせて動きを付ける動画を作ろうと協力する学生もいます。
ウクライナ, 99の歌
ウクライナ, 99の歌
ウクライナ, 99の歌
ウクライナの子供たちのために、仕事の合間を縫ってプロジェクトを進める教授。自らも大変な環境に置かれ、葛藤を抱えながらも翻訳に取り組む避難者や留学生。何が彼らを突き動かすのか。

侵攻からまもなく1年になろうとする今、ウクライナから日本に避難してきた人たちの現状、それを支援しようとする人たちの姿を通して、我々が何をすべきか、何が出来るか…を考えたいと思います。

語り

奈緒
奈緒
コメント

語りの収録を終えて、率直な感想を教えてください

私自身、ウクライナで起こっていることが、すごく遠い距離の話になってしまうところがあった中で、今回の映像を見て、自分のすぐ近くにいらっしゃることに気づかされましたし、自分でどう思うか、何を信じるか、自分に何ができるのかを考えて、向き合い続けることがとても大切なことだと感じました。

今の私にできることは、役者として表現して見てもらえることなのかもしれないですし、それが何だろうと考え続けています。

きっとこの番組が、誰かにとって、「自分にできることは何だろう」って考えるきっかけになるんじゃないかっていう気がしていて、見てくださった皆さんのどこか記憶の中に残るものになるといいなと思っています。

日本で暮らすウクライナの子どもたちからどんなことを感じましたか?

ヤン君が「ありがとう」の気持ちを返すだけじゃなくて、その先のアクションを起こす姿に、私自身すごく学ばせてもらいましたし、希望やパワーをたくさんもらいました。

大人になって振り返ってみると、学校で勉強したことよりも、逆上がりができたとか、友だちとけんかしたけど仲直りできたとか、何かを乗り越えた体験の方が、今の自分にとって大切なことになっているなと思います。子どもたちに私自身を重ね合わせて、自分の学生時代を思い出していました。

今でも大切にしている学生時代の出来事、“何かを乗り越えた体験”はありますか?

小学校の時から絵を描くのが好きで、似顔絵を描いたり、いろんな絵を描いて、友だちに喜んでもらえたっていう経験が今振り返ると、すごく自信につながっていましたし、自分を肯定できることにつながっていたと思うんです。

でも、中学で美術部に入ると、どうしても「うまく描かなきゃ」「人に評価されなきゃ」っていう気持ちになって、純粋に絵を描くことを楽しむ気持ちがどんどん失われてしまって…。

そんな時、私が絵を描いている途中に「あっ失敗した」ってひとりごとをつぶやいたら、美術の先生が「絵に失敗はないよ。失敗してないよ」って言ってくれたんです。

先生からその言葉をもらうまでの私は、誰かの基準で失敗したと思いこんでいたので、その言葉で失敗のない世界というか、そういうものに気づけたと思います。

その言葉に支えられて、今でも絵を描くことって楽しいなって思いますし、お仕事でも「今日、うまくいかなかったなぁ」と落ち込むこともあるんですけど、それでも失敗ではないと思うようになりました。

私も子どもの頃出会ったすてきな大人たちのように、宝物みたいな子どもたちと向き合ったときに「あの人と出会えて良かった」って思ってもらえるような大人になりたいです。

母1人で、4人の子どもを抱えて避難してこられたエフゲニアさんの姿からどんなことを感じられましたか?

うちも父が早くに亡くなったので、母が1人で育ててくれたんですけど、だからこそ、今、大人になってみて「あっ、この時お母さん大変だっただろうな」とか、「この時、たぶんこれ我慢してくれてたんだろうな」って、気づく機会っていうのがたくさんあって、その度に自分が受けてきた無償の愛っていうのを感じる瞬間が、一緒にいなくても、ただ生きているだけですごくあるんですよ。そんなに愛されていた自分を感じるだけで、自分を肯定できるんです。

母は、環境を少しでも良くしてあげようとか、そういう風に思って、汗水たらして私を育ててくれていたんだなっていうのを、今になって気づかされます。

お母さんから受けた愛っていうのは、記憶の中で消えることは絶対にありませんし、それは、本当に本当に私自身にとって、すごく幸せなことだったんだなって…。

だから、きっとエフゲニアさんの思いっていうのは、お子さんたちが大きくなった時に、すごく温かい形で、かけがえのないお守りになるような愛情だと感じました。

スタッフ

ディレクター
:井上真一
カメラ
:竹田光彦
編集
:宮村泰弘
プロデューサー
:萩原 守