2019年7月11日(木)深夜1:10~2:05
奪われた人生 ~ハンセン病家族 ”人生被害”からの回復~

奪われた人生 ~ハンセン病家族 ”人生被害”からの回復~

内容

先月28日、熊本地方裁判所で画期的な判決が出た。
国の長年にわたるハンセン病隔離政策で、患者本人だけではなく、家族にも深刻な差別が生じたとして、裁判所は国の責任を認め、541人に対し賠償を命じたのだ。
元患者への人権侵害に対しては、2001年に国は謝罪と補償をしているが、家族への賠償責任が認められたのは、初めてだった。
家族の中にハンセン病患者がいた…、ただそれだけで人生の希望が奪われてしまった人たち。判決に書かれた「人生被害」とは、いったいはどのようなものだったのだろうか。

私たちは、約3年にわたり、この問題を取材してきた。
長期の取材を受けてくれたのは、尼崎に住む家族訴訟の原告団副団長の黄光男(ファングァンナム)さん(63)。
560人を超える「家族訴訟」の中で、顔と名前を公表した数少ない人の一人だ。
ほとんどの人が、身元が分かることを極度に恐れ、法廷でも「匿名」で通してきていた。
ハンセン病は国が患者をあぶりだし隔離するために、人々に恐ろしい伝染病と誤解させ、身近な人に通報させた歴史がある。その過程で、強烈な差別が生み出された。そして患者だけでなく、その家族までもが差別をうけ、結婚や就職できない事態に陥った。
黄さんも、長年、「恥ずかしい事」と思い込み、親友にすら、隠し続けてきた。
しかし「恥でないものを恥とするとき、本当の恥となる」という原告団団長の言葉に触発され、裁判を機に名前を出すことを決意した。

3年にわたる裁判の間、黄さんや原告たちの心は揺れ続けた。
被害を口にすること、明らかにすることでさらなる差別が生まれ、そしてその差別が子供たちの代にまで及ばないだろうかと。
それでも今回、原告たちは裁判を闘いきり、「勝訴」を勝ち取った。
“差別”という被害が国の政策のせいだという事、国には差別を解消する義務があったという事…。家族の関係が上手く作れなかったのは国のせいだとも、裁判所は認めた。

この裁判は、原告561人にとって人間としての尊厳を取り戻すための道のりでもあった。
黄さんを中心に、原告であるハンセン病元患者家族の人生、そして勝訴までの歩みを見つめなおす。

ナレーション

豊田康雄(カンテレアナウンサー)

スタッフ

ディレクター:柴谷真理子
撮影:本中貴久
編集:樋口真喜
プロデューサー:萩原守