2016年3月12日(土)深夜1:35~2:30

岐路に立つ胃がん検診

内容

毎年5万人が命を落としている胃がん。
「早期発見、早期治療」を信じて、毎年バリウム検査を受ける人は多くいます。たくさんの命を救ってきたバリウム検査…しかし毎年検査を受けていても、末期がんが発見されるケースもあります。また、バリウムが大腸の中で固まり、穴をあけてしまう事故も報告されています。
今年4月、国の胃がん検診制度が変更されるのを前に、スキルス胃がん患者・轟 哲也さんの日常を取材し、検診が抱える矛盾、命を守るために最も重要な事は何かを考えるドキュメンタリー番組です。

自治体や企業健診で行われるバリウム検査について、国立がん研究センターがガイドラインで「死亡率減少効果」があると判定し、これまで唯一推奨されてきました。ただし、検診団体元幹部・真鍋重夫医師は、「最もトラブルが多いのが、バリウム検査だった。早期がんの見逃し、腸閉塞、検査台からの落下など、訴訟対応に追われていた」と証言します。
PMDA(厚労省の関連団体:医薬品医療機器総合機構)には、2014年度だけで、68件のバリウム穿孔(バリウム溶液が大腸の中で固まり穴をあける症例)が報告されています。
今年4月から厚労省は、胃がん検診に、従来のバリウム検査に内視鏡検査を加え、選択制とする新方式を開始します。バリウム検査が、胃壁の凹凸から病変を見つけるのに対して、内視鏡検査は色の変化などから微小な早期がんを発見することが可能です。いち早く、住民検診に内視鏡検査を導入した新潟市は「内視鏡の胃がんの発見率はバリウムの3倍」と報告しています。
35年間にわたって、バリウム検査に携わってきた山崎秀男医師(大阪がん循環器病予防センター)は、「バリウム検査で胃がんが発見された患者の5年生存率を調査した結果、90%を超えた。内視鏡で微小な胃がんを見つけると、過剰診断という必要のない治療をしている可能性がある」と指摘します。
これに対して、消化器外科のベテラン・大和田進医師は「バリウムで発見される胃がんは、手術で胃の一部、または全てを切除するケースが多い。内視鏡による治療が可能な胃がんは、内視鏡でしか発見できない」と反論します。

特許申請手続きの仕事をしている轟 哲也さんは、毎年欠かさず、東京・渋谷区の胃がん検診でバリウム検査を受けてきました。2013年に轟さんは、末期のスキルス胃がんが見つかり、副作用が厳しい抗がん剤治療を受けています。なぜ、轟さんの胃がんは早期で見つけられなかったのか…?
患者会を設立した轟さんが、今、着目しているのは、“ピロリ菌”を中心とした対策です。胃がんの99%でピロリ菌感染が原因とされており、大和田医師や後藤田医師などの臨床医は、「ピロリ菌感染者に検診対象を絞り込むべき」と提言しています。
これに対し、検診関係者は「日本中に、あなたは胃がんになりやすいとレッテルを貼るだけになる可能性」を指摘します。
胃がんから命を守るために、いま本当に必要なことは何か…?番組で問いかけます。


プロデューサー:兼井孝之(カンテレ報道センター)
ディレクター:岩澤倫彦(ノーザンライツ・プロダクション)
撮影:関口高史(エキスプレス)
編集:北山晃(TEFU2)