2011年5月28日(土)午前 10:50~11:45

脱北者たち 大阪・八尾に生きて…

受賞

坂田記念ジャーナリズム賞 第2部門特別賞

語り

リ・ハナ(脱北者)、杉山一雄

番組概要

大阪府八尾市。今この街で、約30人の脱北者たちが身を隠すかのように、ひっそりと暮らしている。この事実は、あまり知られていない。
彼らは1959年、朝鮮総連などが「北朝鮮は地上の楽園」と宣伝した「帰国事業」に乗じて北朝鮮に渡ったものの、北での食糧不足や政治的弾圧に絶望し、命がけで脱北した在日朝鮮人や日本人妻たちだ。

日本政府は人道的立場から、脱北した帰国者たちの日本への入国受け入れと定住を認めてはいるが、日本語の習得や就職など、多くの壁に直面する彼らに対する公的支援は、事実上、生活保護以外は行われていない。

脱北者たちが八尾で暮らす理由、それは彼らを献身的に支援してくれる山田文明氏(大阪経済大学准教授)がこの街に住み、心の支えになってくれるからだ。
山田氏は、脱北者支援のための非政府組織「北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会」の副代表として、これまで十数年にわたり、中朝国境での脱北者の保護や、八尾で暮らす脱北者たちの生活自立のため、尽力してきた。大学准教授としての収入は、ほぼ全て脱北者支援のために使い果たし、自らの生活は医師である、妻の収入に頼っているのが実状だという。

山田氏の過去を探ると、2003年に中国・上海で脱北者とともに公安当局に拘束され、国外退去処分を受けたほか、2006年には北朝鮮の人民保安省から「北朝鮮人拉致・誘拐の罪」で逮捕状が出されるなど、学者に似つかわしくない、勇ましい経歴がある。

山田氏は、「1990年代、北朝鮮の飢餓の実態を知り、自然と脱北者支援を始めるようになった」と話す。帰国者の家族から、北の惨状や帰国者に対する差別・抑圧の実態を直接聞いたことが、活動の原点だという。

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つい最近、山田氏を頼って、また新たな脱北者夫婦が八尾にやってきた。
呉さん(仮名)夫婦(夫:60歳代、妻:50歳代)は、中朝国境を越えて脱北した後、第三国を経由して日本にたどり着いた。妻は幼少期まで、西日本のある街で過ごしていた在日朝鮮人だ。1960年代に、家族とともに北に渡り、その後、北朝鮮で現地の夫と結婚。子どもも生まれたが、夫が北で不法逮捕されそうになったことをきっかけに脱北を決意。しかし、何度か脱北に失敗し、夫婦ともに逮捕され、政治犯収容所では拷問も受けた。

当初、支援者の家に身を寄せていた呉さん夫婦は、日本での自立を目指し、つい最近、アパートを借りて八尾での生活をスタートさせた。しかし、日本に来て間もないだけに二人は、日本語を十分に話すことができず、就職もできないまま、日本社会の「厚い壁」に直面しながら、暮らしている。

呉さん夫婦を支援するため先輩格の脱北女性が、日本語の習得に協力しているほか、山田氏も、二人の就職先探しに、日々奔走している。

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この番組では、呉さん夫婦や、呉さん夫婦を助けようとする先輩格の脱北者、そして山田氏ら、八尾で暮らす脱北者たちとその周辺の人たちの日常の様子を描く。
なお、ナレーションは、同じ脱北者の一人で、関西在住の女子大学生、リ・ハナが担当する。

プロフィール

リ・ハナ氏

大阪在住。1980年代半ば、北朝鮮で生まれる。両親は帰国者で、2005年日本にやってくる。
アルバイトをしながら夜間中学に通い、日本語をマスターして2009年、大学に合格。現在通学中。

スタッフ

監修:徳永俊彦
撮影:孝岡則夫
編集:中島福夫
ディレクター:井筒慎治
プロデューサー:土井聡夫

※第20回FNSドキュメンタリー大賞参加作品