2009年11月15日(日)午後 4:00~4:55

あの日の僕に出会えたら

受賞

ギャラクシー賞奨励賞

企画意図

全国で30万人ともいわれる「高次脳機能障害者」。この言葉は、国がモデル事業を行い、自治体で支援普及事業も進められていることから、以前よりは医療・福祉関係者などの間では浸透してきているが、世間の関心は高くない。
交通事故や脳内血管障害など原因はさまざまで、脳の損傷箇所や程度が違うことから症状の個人差は大きい。「記憶障害」をはじめ、「対人関係が上手くできない」「依存性が強くなる」「感情をコントロールできない」などそれぞれだ。
また周囲の対応も影響を及ぼし、本人にとって「居心地の悪い環境」のなかで、二次的に鬱や異常行動が助長されることなどは、あまり知られていない。後天的に「誰しもがなりうる障害」にも関わらず、ほとんど世間の理解は深まっていないのが現状だ。
当事者・家族の思いを聞き、社会がこの障害とどう向き合うべきかを考えたい。

番組内容

馬術競技の選手で、学生チャンピオンだった山口晋也さん(28)。北京オリンピックを目標にフランスへの留学も決まっていた23歳の秋、彼の乗ったバイクは、大型トラックと衝突した。あの日から、馬を大切に扱う穏やかな山口さんはいなくなった。馬をたたき、猜疑心が強くなった山口さんを周囲は「トラブルメーカー」と見るようになり、離れていった。乗馬クラブも転々とせざるを得ず、拠点とすべき居場所を失ってしまった。誰かが一緒に居なければ、日常生活もできないため、父は仕事をやめざるを得なかった。今、親子はなんとか元の状況に近づこうと、馬を使ったリハビリをしている。
おなじ「高次脳機能障害」と診断されても、原因・症状はさまざまだ。37歳の野田和寿さんは4年前、脳動脈瘤が破裂し倒れた。「助からない」といわれたが、今は日常生活に支障がない程度まで回復した。しかし、幼い子供のようにふるまうことが多く、記憶も苦手になった。人から指示されなければ、何もしようとはしない。今、母親のもとで、好きだったピアノを使い、リハビリを続けている。
それぞれの家族が、手探りのなかでリハビリをしている。その姿を取材する中で感じることは、どちらも障害者となってから「心を傷つけられた」ことだ。優しい言葉が欲しい時に、冷たい言葉をかけられる。
ひとつの原因は「高次脳機能障害」が充分知られていないため、「怠け者」「変人」というレッテルを貼られ、トラブルが起きる。もうひとつは、後天的であれ、先天的であれ、そもそもこの社会が「障害者」にとって生きづらい環境だということだ。親たちは、自分たちが居なくなったあとの子供の居場所を探し続けている。
たとえ今「健常」であっても、誰もが障害者になりうるのだ。
2組の家族がリハビリに励む姿を通じて、障害にどう向き合うか考える。

スタッフ

撮影:中ツル暢子
編集:樋口真喜
MA:山岡正明
効果:萩原隆之
ディレクター:柴谷真理子
プロデューサー:土井聡夫