2005年11月3日(木)

くらやみにまけないで-虐待の記憶との闘い

受賞

文化庁芸術祭 テレビドキュメンタリー・優秀賞
坂田記念ジャーナリズム賞 第1部門
ヒューストン国際映画祭 ニュース&ドキュメンタリー部門 プラチナレミー賞(グランプリ)
子どもの権利賞
USインターナショナルフィルムフェスティバル ドキュメンタリー部門銀賞

内容

警察庁によるといま、3日に1人の子どもが親による虐待と推察される死を迎えているという。親の支配にある子どもからのSOSは見えにくく、親権の壁で、警察や児童相談所もなかなか家庭に入れず手が出せない。岸和田の中学男子生徒餓死寸前事件は実の父と内縁の妻が継続的に加担した虐待。その後、住吉、高石、姫路でも、親は子どもへ児童時代から思春期まで執拗で否人間的な虐待を続け、子どもは耐え、なお、生活の場を求めた。
一般に、虐待されて育った親たちは幼年期から思春期に、虐待の怒りを溜め込み、その後、大きな心の傷を抱え、それが理由で虐待の世代間の伝達となるとされる。連鎖率は4割とも8割とも。そのトラウマはまず、不眠症、他者依存、鬱、発作となって現れるとされる。阪神大震災でPTSDという言葉は一般化されたが、「心の傷」、後遺症の現実は見えない。
番組では、実の母親から虐待され育ち、母となって、今度は次男を虐待した経験者をもつ33歳の母親を密着。PTSDが引き起こす「発作」の現実や「連鎖」のメカニズム、その怒りを静める過程を見つめた。虐待体験者を助ける活動を追いかけ、「虐待の記憶と闘う」痛みに寄り添うと、児童相談所頼みの体制の問題点や社会が隠蔽し続けた性的虐待の深い「暗闇」が浮き張りになった。

主人公一家とストーリー

大阪市内で暮らす母子4人の家庭。母親は文(あや)さん(33歳)。中学2年の長男(14歳)、中学1年の次男(13歳)、小学2年の3男(8歳)。
母親、文さんは、幼いころ母親に虐待されて育てられ今もその記憶が後遺症となって発作に悩まされている。トラウマに気づいたのは、2人の子どもをつれて再婚した相手がDV男性だったことによる。
男は、次男が前の夫に似ていると嫉妬して監禁し、虐待。風呂で次男を水中に沈め仮死状態に。DV夫に叩かれながら、文さんは幼い日、母親から受けた虐待の記憶が映像のように蘇った。離婚したDV夫の代わりに今度は自分が子どもを虐待する立場に……。
文さんはそんな連鎖の宿命や人に言えない性的虐待の記憶、心の傷を「くらやみ」と表現した。
番組の中盤では性的虐待を受けている少女の事を知り、文さんが自分も性的虐待を受けていた過去を告白し立ち上がるこころの過程に寄り添う。
そして、後半からラストは子どもの反乱。次男が突然、封印されていた虐待の記憶を語り始め、義理の父と文さんから受けた虐待の「心の傷」「くらやみ」との葛藤を追いかけた。

この番組のベースは、今年6月に、ドキュメンタリーとして深夜に放映したもので、追加取材してまとめたものです。前回放送後、80通のメールが寄せられました。
署名を手伝いたいという激励するものの虐待を幼い時期に受けた経験がある方。現在子育て中で悩んでいる。「自分も虐待を受けた経験がある」と告白されたメールをみてアヤさんは「テレビで顔出してよかった、同じ悩みを持つ人が世の中には多くいることがわかり、互いに共感し励まされた」と話しました。

一方「今」、こどもを守るのは誰なのか。と問いかけメールもありました。以下引用です。

虐待の連鎖によって親たちが苦しみの中にあり、親の心をケアすることが連鎖の断ち切りに繋がりますが、親が連鎖から解放されるには個人差があるにせよ時間がかかります。その間、虐待されている子供たちは何を思い、心身の痛みとどう向き合っているのでしょうか?「子供が親の心の再生の為の道具」になっていないでしょうか。親が連鎖を断ち切れても、子供の傷ついた心はどうすればいいのでしょうか?親と子供、どちらも助けが必要です。

このメールがリメイク番組の基本となりました。こどもの目線で組み立てるにはどうするか?3兄弟の心の傷に焦点を当てれば、どうしても母親、文さんが標的になります。児童相談所の職員が親と子どもそれぞれの信頼を得てからその後、分離する際が苦悩ですと以前、教えていただいた意味がわかりました。取材をすすめると、児童相談所が「親と子」両方のケアを課せられている仕事量の現実、そしてシステムの未整備が判りました。虐待者との和解の気持ちも芽生え、 PTSDの外傷記憶から過去の記憶へとしっかり埋葬して世代を超えたトラウマの連鎖も断ち切る。これには時間と資金と専門家が必要です。悲劇をくりかえさないため何をすべきか?私たち1人1人が問いかけられています。

最後に、取材は継続します。虐待、DVの体験を告白、克服した経験の過程を番組へのメッセージ、FAXで募集します。 FAX 06-6314-8834

インフォメーション

以下は、6/30に放送した内容の反響です。
関西学院大学教授 野田正彰(精神病理学)
ドキュメンタリー「くらやみにまけないで -虐待の記憶との闘い-」、よくここまで撮影させてくれた、と感心します。放送記者との信頼がそれを可能にさせたのでしょう。
親から子へ、暴力の伝達がよく描かれています。性的虐待-親の側については小児性愛と呼ばれてきましたが虐待の記憶にもとずく、精神的不安定も出てきます。
今日、「崩壊家族」の問題は子どもに注目して小児虐待と呼ばれており、心理的分析が主となっています。かつてなら、貧困問題と捉えられていたでしょう。心理的分析でも、母親やそのつれあい(多くは再婚した夫、あるいは同棲者)との性愛の問題-性関係への執着依存、人格の未熟-は隠されています。ひもじさを伴う貧困はほぼ無くなりましたが、貧困、孤立、放任、教育の欠如、アルコール依存、パニックや様々な心因性の身体症状、覚醒剤や睡眠剤中毒、やくざの関与、犯罪、風俗ビジネス、行政サービス(福祉事務所、児童相談所、警察、教育委員会など)の無力は、連鎖しています。親から子への暴力連鎖は心理学的視点によるものですが、貧困のよる社会的連鎖を認識することによって、問題の全体が捉えられます。
このドキュメンタリーは、今日の風潮である心理ブームに影響されて虐待を追っていますが、ひとつの「崩壊家族」を、密着して記憶することによって、社会的連鎖についても気付かせてくれます。今後、未熟な男女の性愛の問題も含め、社会的連鎖の全体像を鋭く描く作品へ深められるよう、さらに期待します。
京都、30歳代 男性、ボランティア関係
9/11に前作、6月30日放送の「くらやみにまけないで」を題材に京都で勉強会を行い4名と少数でしたが、参加者一同に深い感銘を受け、何かできないかと考えておりました。やはり一人でも多くの人に観てもらうと思い第2回目の勉強会を11/6に大阪市内で行うことを決めていました。ところが今朝あらためて、ドキュメントのなかで行なっていた署名活動に関する情報が無いかネットで調べていたところ、リメイク版のOAが11/3にあることを知り、とりあえず感想意見を広報部に送りました。11/3のOAを心待ちにしています。11/3にOAがあるということで、11/6にリメイク前のものを鑑賞する会は取りやめ、OAを観た人同士の感想会に切り替える事にしました。関心のある人を集め切れず、また周囲の関心の低さに軽いショックを受けつつも、依然一市民として出来る事が無いかを模索しています。