2005年3月31日(木)

「ボノボ最後の楽園」~森に帰った隣人
ボノボとチンパンジーは、人間とDNAの98パーセント以上を共有する「進化の隣人」です。500万年前の共通祖先は謎で、「最初の人類」そして「人間とは何か」「人間存在とは」…と探究する、動物生態学から社会学・哲学に至るテーマとなっています。
野生チンパンジーの研究では、集団間でも個体間でも「争う」こと、「優勝劣敗」が種の生き残り戦略となっています。
ボノボは約200万年前にコンゴ川で隔絶され、チンパンジーとは別の進化の路をたどりました。集団間でも個体間でも「宥和」行動によって種の繁栄と永続をめざしている、としか解釈できない生態が観察・報告され、あまりに対照的な「種」の戦略の違いに研究者が驚きました。人間存在を「性悪」説と「性善」説の葛藤から理解しようとすると、それぞれのDNAをチンパンジーとボノボに仮託できそうでした。
ボノボの性行動(類交尾行動)つまり快感を伴う接触は、宥和のための意思疎通手段として駆使されています。ヒト以外で「生殖」から離れた「性」によって、温和なボノボ社会が形成されていることが確認されたのです。特記すべきは、他の高等霊長類(ヒトを含む)で頻繁に観察されるオトナ雄の「子殺し」が、野生ボノボの研究で観察されていないことです。
初期人類に最も近いと考えられるボノボは、人類の進化、家族の起源、性の意味を考えるとき、その研究は不可欠といえるものの、内乱などで現地調査は10年以上中断されました。
長期独裁政権下の退廃と内戦の疲弊で、「ボノボは祖先」との民話があり、ボノボ肉の食習慣のなかった村の周辺で軍隊が密猟を始めました。内戦で困窮した村人はボノボの餌が多い一次林を切り開いて焼畑を始め、ボノボの取り巻く環境は厳しくなるばかりです。京都大学の研究者の現地常駐が91年そして96年に中断し、外務省の渡航自粛勧告が解除されない中で、公費補助による研究員の派遣は中止されたままです。

京大霊長類研究所のOB・OGが私財を投じて、現地の研究機関と連携し調査基地を守ってきました。国連平和維持軍やEU連合軍の手助けで、治安状況が改善しつつある中、研究者は10年近く継続的調査が中断した調査基地の再始動に向けて動き始めています。

番組では、ほぼ10年ぶりに現地を訪れた日本人研究者に同行取材し、文明と自然、その葛藤と危機、ボノボと日本人研究者のふれあい、それを取り巻く村人と生活を取り上げました。