2005年3月3日(木)

音と言葉とバレーボール
言葉の数だけ文化のバリエーションがある。
私たちのすぐ傍にいながら、まったく異なるコミュニケーションツールを駆使する聾者というのは、そういう意味では、私たちとは“まったく異なる文化”に生きているということができるのかもしれない。番組では聾者のオリンピック『デフリンピック』で世界の頂点を目指す10代から20代の女性たちを通じて、この異なる文化にスポットをあてる。
人間の最も本能的な欲求である『伝える』という作業を、バレーボールという、声をかけあうことで得られる連携プレーを主体とする競技において彼女たちはどのように実現しているのであろうか。番組は『コミュニケーション』に着目して物語を展開させていく。

自己の持つ障害を踏まえてスポーツに取り組む彼女たちだが、一方で「聾者」は4年に一度のパラリンピックに参加することができない。競技をする上での身体能力が、ほかの障害者と比べて著しく高いからだ。かといって、コミュニケーションを必要としない個人競技ならともかく、団体競技において健常者のチームに入りオリンピックを目指すのは不可能に近い。
そこで聾者は『デフリンピック』なる国際スポーツ大会を4年に一度開いている。2001年に開かれたイタリア大会で日本は女子バレーボールで金メダルを獲得。そして2005年オーストラリア。彼女たちは連覇を目指し、日の丸のユニホームに身を包みコートに立つ。
聾者といっても聴力はそれぞれ異なり、育ってきた家庭環境はもちろんのこと、受けてきた教育環境も大きく異なる。DEAFバレー日本代表の彼女たちが受けてきた教育の違い、それは聾教育における聾者や聾教育者間の長い論争の歴史が影響しているのかもしれない。
安積梨絵(13)は兵庫県立姫路聾学校中学部1年に通う中学生である。家族全員が聾者という環境に育つ安積にとって、手話というコミュニケーションツールを獲得し、自己表現の幅を広げることは至極当然のことといえる。
しかし日本の聾教育は実のところ、この手話を是としてこなかった長い歴史がある。健常社会に聾者が溶け込み、共生の道を歩むことを目的とした教育として、『口話法』と呼ばれる教育がある。口の動きをみて相手の言葉を理解し、度重なる発生練習によって「言葉を発する」ことを習得するのが目的だ。

山崎望(19)はこの口話教育を受け、聾学校に通うことなく、普通学校で教育を受けてきたため、手話をまったく理解しない。健常者とともに教育を受け、バレーボールに取り組んできた山崎は、頭角を現し、ある種バレーエリートとしての道を歩む。高知商業高校時代には「四国ナンバーワン・アタッカー」と呼ばれ春高バレーに出場。卒業後は、強豪校である大阪女子短期大学に進学し、他のDEAFバレーメンバーとは「一段も二段も高い」レベルでプレーを続ける。山崎は親の教育方針もあって、これまで同じ障害を持つ人たちと交わったことがない。
しかしバレーボールは団体競技である。技術的に他のメンバーより格段に上の実力を持つとはいえ、手話がわからないためコミュニケーションが上手くはかれず、イライラがつのる…。
しかし、彼女たちは「金メダル」というひとつの目標に向かってひとつのチームを作りひとつのコートに立つ。どんな教育的バックグランドで育とうと、勝つためにはコートの中で「コミュニケーション」を図らなければならないのだから…

ナレーターは映画「パッチギ!」でヒロインに抜擢された若手女優、沢尻エリカさんです。