2004年5月27日(木)

ナレーション

桜の下の棚田で作業する老いた兄弟とその家族。イノケ(屋号)の人々です。「ほっといたら荒れてしまうやんか」、棚田は平地の田と比べてとても労力がいります。「88回手をかけんとという」「じいさんがいなくなったらもうできないかも」。米と田と桜を大事にする人々の暮らし。桜が咲くと自然と植えた祖父の話が出てくる。「オヤジさんは貧乏人やったけど、心の余裕があったんだろう。五人子供いたけど心の余裕があったんだろうな、わしらみたいに仕事ばっかりやってんのとちがう、わはは」

桜が満開になる頃、棚田に水が入り、風景は一変します。花びらの散った水面に佇むカエルそしてアメンボ。とんびと競うように空を舞う桜。吸い寄せられるかのように、人も田んぼに集まり、土と水を撹拌し田植えの時を待ちます。老兄弟の棚田と父の桜。月光の中を散る桜。花びらは夜をとうして里山の兄弟の田んぼに降り注ぎました。

滋賀、仰木の里山の棚田。葉桜の五月の泥田祭。老兄弟と家族は総出で苗を植えはじめます。あの年、散る桜を見届け田植えの頃に亡くなった父。イノケ兄は「桜のようにしっかりと根をはってきばっていけという目印のように思う」と、話してくれました。
桜のコスモロジー(宇宙)と日本(人)の心をハイビジョン映像で描きます。