「過去の自分を裁きながら…」

11月23日「過去の自分を裁きながら…」

取材をしていくうえで一番頭を悩ませたのは福崎さんの真意をどのように探っていくかだ。福崎さんの担当した“逆転判決”を集めて読み込んでいくことはもちろん行うにしても、何か取材を進めるうえでの視座のようなものが必要だと感じていた。
西愛礼弁護士
まずは若手裁判官の目から福崎さんはどのように映るのかを知りたいと思った。
退官後間もない元刑事裁判官の西愛礼(にし・よしゆき)弁護士のもとを尋ねた。

「私たちは冤罪と向き合わなければならない。人は誰でも間違える。裁判官、検察官、警察官、弁護士、研究者も皆人間である以上、間違えるのだ。」

西さんが今年10月に上梓した『冤罪学-冤罪に学ぶ原因と再発防止』の一節には、過去の冤罪から学んで再発防止につなげていくべきだという西さんの思いが伝わってくる。西さんなら、福崎さんの真意について何か取材のヒントを得られるのではないかと思った。
西愛礼弁護士
西さんは、「逆転無罪を多く出した裁判長がいたという話は聞いたことがあったが、関東で裁判官をしていたので福崎裁判長のことはよく知らない」という。

しかし、退官前の1年半で一審破棄が35件あり、そのうち逆転無罪も7件あったことを伝えると、目の色が変わる。西さんは目を輝かせて「逆転無罪を書いた時の心境を知りたい」と語った。心境…?。なぜ判決を書く時の心境を知りたいのかと、怪訝な顔をする私に、西さんは言葉を重ねる。
西愛礼弁護士
「裁判官というのは人を裁くときに自分も裁いているわけですから、自分が間違えていないかを見直しながら判決文を書くわけですよね。書く時には、当然昔の自分の判断がどうだったかも試されると思う。自分も裁いているという中で、この方がどういうふうに思われたのかが気になる。」

過去の自分を裁きながら判決を書く…?
上田ディレクター
西さんには申し訳ないが、これだけ有罪率が圧倒的に高い刑事裁判で、そんな裁判官がどれくらいいるのかと思ってしまった。でも、西さんの言葉は、なぜか私の頭に残り続けた…。