7月8日、参院選の応援演説中の安倍元首相が銃撃されて死亡された事件。
現場の警備はどうだったのでしょうか。
元大阪府警・警部の門脇浩さんに、今回の事件について聞きました。
――Q:門脇さんは閣僚レベルの方の要人警護の経験もおありということですが、今回の事件は率直にどうお感じになりましたか?
【門脇浩 元警部】
「平成以降30年、こういった事件はほとんど起きてきませんでしたので、びっくりしました」
――Q:今回、銃撃を防げなかったということで、警備の問題があったのではないかといわれています。門脇さんには、警備についてポイントを2つ上げていただきました
【1】 手薄だった“背後”
【2】 3秒間の隙
ーーQ:まず1つ目、「手薄だった“背後”」から伺いたいんですけれども、安倍元首相は車道に背を向けていたということです。安倍元首相の背後というのは、2車線の車道とその向こうにバスロータリーがあって、開けた空間が広がっていたんですが、ここが1つのポイントですか?
「そうですね、犯人の男は1時間半前から来て様子を窺っていたと。ある時点で、歩道からガードレールを乗り越えて出てきてますよね。自作銃を手に持っていたか、袋に入れていたか分かりませんけど、出てきた時点で背後に警戒の目があれば、そこで素早く職務質問なり所持品検査なりして現場から排除、もしくは任意同行するべきでした」
――Q:こういう背中側が開けた場所というのは、避けられるものなら避けたいですよね
「そうですね、やはり背後に建物を置く方が安全なんです。今回は『ずっとここで演説をやってきた』というのがあったのかもしれません」
――Q:警備が難しい場所だったんだろうなというのは伝わってきます。2つ目の「3秒間の隙」ですが、これは銃撃の際、1発目と2発目の間に3秒ほどの時間があるんですね。このタイミングで警護の方がかばんのようなもので何とか安倍元首相を守ろうという姿勢をとってはいらっしゃるんですが…
「僕も動画を何回も見て数えてみたんですけど、約3秒ですね。1発目は発砲音と白い煙が起きた。その段階でSPや警護の方が安倍さんを前かがみに抑え込むとか、せめて台から下ろすとかしていたらなと。そこが非常に悔やまれるところですね」
――Q:理想的な対応というのがどういうものなのか、警視庁の身辺警護、SPと呼ばれる人たちの訓練映像を見ると、車から降りた要人を何人もで囲んだ状態で歩いてる中で、刃物を持った人物が接近してきた時に、要人を守って車に押し込めるわけです。安倍元首相の時もそうですが、横で警護の方がかざしているかばんのようなもの、これは開くと盾のようになるんですか?
「そうですね。防弾プレート、小型の防弾盾です。映像は訓練ですから素早く対応できていますが、実際の現場でこれをするには、日頃から訓練していなければ、なかなかできないんじゃないかなと」
――Q:警視庁のSPだけで固められていた状況ではなかった訳ですね?
「そうですね、訓練映像の警視庁はSPのプロばっかりですけど、小さな県警や地方になると…。やっぱり訓練をずっと積み上げてきた部署自体が、なかなかないということですね」
――Q:難しいところですが、安倍元首相の経歴やこれまでのさまざまな政治的な事情などを考えた時に、今は首相の肩書でなくても、首相に匹敵するような警備が必要だったのではないかと。これは後になって言えることですが…
「もう何十年もこういった、特に射撃による襲撃はなかったので、やっぱり気が緩んでいたっていうのは、言われても仕方ないですね」
――Q:スケジュールも要因の1つだったのではと指摘されているんですが、安倍元首相の遊説が決定したのは事件当日の前日、夕方だったということなんですね。で、当日の朝に奈良県警の本部長トップがその警護計画も含めて承認をしたという中で、下見や警備計画・警護計画の策定は、結構時間がなかったのではというイメージですが…
「そうですね。前日の夕方に決まったのであれば、おそらく管轄する奈良西警察の警備課長、もしくは警備の会場責任者が県警本部の警備部とすり合わせして、当日の人員配置を急きょで組んだんじゃないかなというのが想像されますね」
――Q:門脇さんも、演説が前の日に決まって、次の日にもう警護に行かなきゃいけないっていう経験はありますか?
「あります、連絡網が来ますね。明日何時に現場集合とか」
――Q:選挙情勢が変わって、急に応援演説が入るというのは、これからもあると思われますが、どうすれば再発を防げるのか。場所を限るのか、行く場所自体をあらかじめ制限するのか…解決策というのはありますか?
「やっぱりこれはもう、場所ですね。せめてビルや建物を背後にした場所でしてもらうっていうことと、あとはこういった場所であれば、背後に警戒するというのは当たり前ですね。前方後方左右、常に警護員の視線があるようにして。今回の件は、後ろへの警戒があれば、背後から近づいてきた時点で食い止められた。今から考えれば悔やまれます」
(関西テレビ「報道ランナー」2022年7月11日放送)