【2022年を振り返って】赤字ローカル線「存廃」議論スタートの節目の年に コロナの先にある鉄道の未来とは 関西テレビ・報道デスク解説 2022年12月28日
■ポストコロナ、その先を見据えた1年に
2022年は、ポストコロナ、その先の未来を見据えた1年になりました。3年にもわたるコロナ禍で、ニッポンの社会のカタチが大きく変わりました。満員電車に揺られての通勤、対面での会議、ランチ、出張、得意先や同僚との飲み会など、これまでの当たり前が当たり前ではなくなってしまいました。
公共交通機関、特に都市部での通勤や通学を支えてきた「鉄道」の在り方も大きく様変わりしました。JR西日本では、これまで新幹線や京阪神などの都市部での収益で、赤字ローカル線の赤字を埋め合わせてきました。しかし、このコロナ禍で、テレワークが進み、会議での出張もオンラインに。大学の授業もリモートとなり、通勤・通学客が減少しました。出張も控えるようになり、観光、特に海外旅行客、インバウンドの需要は一時消失という状況に。特に関西は中国人旅行客に支えられていた面もあるので、大きな痛手となりました。
■始まった赤字ローカル線「存廃」議論
JR西日本は、巨額の赤字を抱え、これまで触れてこなかった「赤字ローカル線」存続について、ついに重い扉に手を掛けました。赤字ローカル線の区間ごとの収支を公表し、深刻な赤字路線には廃線を含めた存続についての話し合いを地元自治体に呼びかけました。
私が出演する夕方のニュース番組「報道ランナー」でも、赤字ローカル線の現状を何度も取材しました。(下記 関連記事)
□残したいのに「乗らない」のが現状 赤字ローカル線どうする? 魅力ある観光地があっても苦しいJR山陰線 夕張の「攻めの廃線」に学ぶところは
https://news.yahoo.co.jp/articles/79fb53ff89748a2af5051f504f44196778a64936
□赤字ローカル線に乗ってみた(1) JR加古川線“存続のカギ”を探る 人気の古民家食堂&工場跡のカフェでパンケーキ
https://www.fnn.jp/articles/-/403858
□赤字ローカル線に乗ってみた(2) JR小浜線 木造駅舎がレトロカフェに…駅ナカ理髪店「髪も切符も切ってます」
https://www.fnn.jp/articles/-/403883
□赤字ローカル線に乗ってみた(3)JRきのくに線 山から海を駆け抜けて…紀州路 パンダもいる白浜と新宮を結ぶ
https://www.ktv.jp/news/feature/220817-2/
地方の鉄道は、高校校生の通学や運転免許を持たない高齢者の買い物や通院の足として必要とされてきました。子供のころから「鉄道ファン」である私は、個人的な立場からは、赤字ローカル線にもそれぞれ歴史があり、できることなら残してほしいという思いもあります。一方で、JR西日本という高い公共性があるとはいえ一民間企業の経営努力では支えきれなくなってきた現状も分かります。
■上下分離やバス転換 求められる変化
日本の鉄道の在り方を考えると、これまで民間の鉄道会社に頼り切ってきた側面があります。例えば路線バスの場合、道路は国や自治体が整備し、バス会社はバスの運行だけに専念できます。しかし鉄道事業者は、線路だけでなく信号設備や駅舎の整備、列車の運行まですべてを自前でやらないといけません。
ヨーロッパなどでは以前の日本のように国が鉄道そのものを所有している場合もあります(国鉄・国有鉄道)。また、線路などの設備は国や地方自治体が整備し、鉄道の運行だけを民間会社がやるいわゆる「上下分離方式」が多く、日本のように民間企業にすべて任せているケースはそれほど多くありません。関西でも滋賀県を走る近江鉄道は「上下分離方式」にむけて調整を始めていて、線路などは周辺自治体が保有・管理し、滋賀県が新たな地方税を設け、鉄道維持のための財源にする考えです。
この先日本の人口が減少し、出生率の低下から若者の通学需要、生産年齢人口が減ることからくる通勤需要の低下は容易に予測できます。この先すべての鉄道を民間企業任せで運行するには無理があり、深刻な赤字路線は廃線も含めて整理しなければなりません。考えられるのは、「バス転換」で、並行する道路に鉄道の替わりとなるバスを運行させる方式です。そもそも利用者が少なかった鉄道をバスに置き換えても、利用者が増加するわけもなく、バスも鉄道よりかは赤字額が抑えられるだけで、赤字であることにかわりはありません。番組では、赤字路線を地元自治体から廃線を提案した北海道の夕張市の例なども取材し放送しました。
路線を維持しようと各自治体は利用促進キャンペーンや観光キャンペーンなど税金を投下し進めていますが、実際に大幅な利用客増につながった例はそれほど多くなく、そもそものマイカーに逃げた乗客を取り戻すような秘策がないかぎり利用客回復は難しく、過疎化が進み、人口が減っていく中で自治体は厳しい選択を迫られることになります。JR西日本管内でも路線維持に向けた自治体が協議会を設置、一方で一部沿線自治体では存廃の議論を避けようという動きもあり、来年以降、議論の行方が注目されます。
(関西テレビ「報道ランナー」出演 報道デスク 神崎博)