赤字ローカル線に乗ってみた「その3・JRきのくに線」~記者が行く“小さな旅”~ JR西・公表の赤字路線に実際に乗って取材 山から海を駆け抜けて…紀州路 パンダもいる白浜と新宮を結ぶ 自転車持ち込める“サイクルトレイン” 「もっと移住を」とPR 2022年08月18日
存続か、廃止か…今、岐路に立つローカル線。
JR西日本は、大きな赤字を抱える路線について初めて収支を公表しました。
赤字ローカル線は、どんなところを走っているのか?
そして“存続”させるには、何が必要なのか?
記者たちが実際に「赤字ローカル線」に乗って取材します。
■特急除く普通列車は…『3時間に1本』の時刻表 ワンマン列車にも「ご注意」
第3回は、和歌山県の白浜駅と新宮駅を結ぶJRきのくに線。
この区間の長さは95.2キロで、1日の1キロあたりの乗客は1085人。
赤字額は年間で28億6000万円に上ります。
今回の“小さな旅”をするのは古谷陽記者。
関西屈指の観光地、和歌山・白浜町の「白浜駅」から出発します。
駅には愛らしいパンダの親子の置物があります。
そして、バスの切符売り場には行列が。
一方、鉄道は…
【古谷記者リポート】
「これから乗る列車が…この10時59分発です。もしこれを逃すと、14時まで普通列車が来ないので」
普通列車の運行は”3時間に1本”です。
【古谷記者リポート】
「乗客の方いらっしゃいますね。1、2…7人ぐらいはいらっしゃるかな」
田園風景を走ること3分。
一つ目の駅に到着です。
【古谷記者リポート】
「紀伊富田駅ですね。どなたか降りられるかな…あれ、扉が開かない!」
この区間は運転士だけで、車掌がいない”ワンマン列車”!
ドアは1両目の先頭しか開きません。
古谷記者、降りる人を確認しようとなんとか先頭の車両へ移動…早々にローカル線の洗礼を受けました。
■きのくに線の乗客 この30年で7割も減少 要因は便利な”高速道路”の延伸
次の駅「椿駅」では、白浜の旅館で働く人が降りていきましたが、乗ってくる人はいません。
きのくに線の乗客は、この30年で7割も減りました。
要因の一つが、“高速道路”です。
紀勢自動車道が年々南に伸びていて、3年後には最南端の串本まで繋がることになっているため、普通列車だけでなく特急「くろしお」の需要までも落ち込むと予想されているのです。
【古谷記者】
「お母さんは車で移動したりしないんですか」
【乗客の女性】
「もう怖い。後期高齢者やから。電車がなかったら困ります」
【乗客の女性】
「貴重な交通手段だと思いますので、(赤字路線の)報道を見てすごく残念に思いました」
【古谷記者リポート】
「あ!海が見えますね」
列車は南紀の海沿いへ。
■「周参見駅」で途中下車 観光案内所『ヤップ!』でレンタサイクル 町の探索へGO!
古谷記者が途中下車したのは、「周参見駅」。
この駅には、海などの観光資源を生かして、何とか乗客を増やそうとチャレンジしている人たちがいます。
「周参見駅」には、カフェ併設の観光案内所『ヤップ!』があります。
運営をしているのは、長野誠紀さん。
本業はデザイン会社の社長ですが、地元の駅を明るくしたいと、2年前、この場所をオープンしました。
【すさみ観光案内所『ヤップ!』 長野誠紀さん】
「駅の利用者がどんどん少なくなってきているのが目に見えるので、何とかしたいなということで、すさみ町の方々とも相談して始めたんですけども」
その目玉は、”レンタサイクル”。
列車の旅に、プラスアルファの楽しみを提供しています。
古谷記者も1台レンタルして、街を探索してみることにしました。
■保育園の跡地にオープン”多世代交流施設” 若者と町がタッグ 「もっと移住を」魅力発信PR
周参見駅から自転車で走ること5分。
かわいらしい建物を発見しました。
ここは、保育園の跡地にオープンした多世代交流施設『E’cora』。
のんびりした空間でイベントを行いたいと東京からも人が集まっていました。
特に近所で有名だというこの部屋…実は映像制作会社『Chapter Two』の本社です。
【Chapter Two 松山利基 代表】
「コロナの時代をきっかけに、田舎に移住しまして」
代表の松山さんは、自然に囲まれた暮らしに憧れ、妻の地元であるすさみ町に移住してきました。
【Chapter Two 松山代表】
「地域に根付いた企業のプロモーションビデオを作らせていただくことが多いです。コロナをきっかけに、WEBメディアを整えていかないといけないと、こういった地方にまで入ってきているので」
一緒に働く2人はこの町の出身で、松山さんの移住をきっかけに地元へ戻ってきました。
【古谷記者】
「おふたりは電車ユーザーでしたか?」
【松山さんと一緒に働く仲間】
「そうです。高校の時はそうでした。すさみ町には高校がないので、隣町の田辺市まで行くには電車しかないので使わざるを得ない。その電車がなくなると寂しいなという気持ちもあるので…」
そんな思いから、松山さんたちは町と手を取り、移住のプロモーション動画を手がけました。
【Chapter Two 松山代表】
「出演者はみんな移住者の若い子。もっともっと移住をしてほしいなって。本当にすてきな町なので」
■自転車をそのまま列車内に持ち込める「サイクルトレイン」で…海へ!
さて、せっかくのサイクリング、きれいな海が見える名所まで行ってみたいところ。
でも、目的地まで自転車で行こうとしたら1時間もかかります。
きのくに線では2021年から、自転車を車内に持ち込める「サイクルトレイン」が実施されているということで、行きは列車で行くことにしました。
新たな需要を掘り起こすこの取り組み。
半年で2000人を超える利用があり、反響は上々です。
電車に自転車を乗せて向かったのは、まさに海のすぐそばに立つ「見老津駅」。
構内には乗客が記した『思い出のノート』がありました。
【古谷記者リポート】
「『ロードバイクで50キロメートル走って、天気が悪そうなので電車に乗って帰ります』って。こういう使い方をするんですね」
町と人とが手を取り合い、存続の道を探しています。
(2022年8月16日放送)