隣人男の「支配下」に置かれた“生活保護”の男性 死亡時の体重は39.5キロ 区役所職員の目の前で”暴行”も区役所「相互扶助だった」と説明 遺族「警察に報告あれば…」 2023年02月20日
堺市中区で生活保護を受給していた63歳の男性が殺害され、隣人の男が逮捕された事件。
堺市の区役所職員の対応が問題となっています。新たに、区役所の説明と食い違う証言が出てきました。
なぜ、命は守られなかったのか?
■殺害で逮捕されたのは“隣人の男”…2人の関係は?
2022年11月下旬、堺市中区の集合住宅で唐田健也さん(当時63歳)が倒れているのを区の職員が発見、その後死亡が確認されました。
唐田さんに何らかの暴行を加え殺害した疑いで、逮捕されたのは隣の部屋に住む楠本大樹容疑者(33)。調べに対し「一切コメントを控えさせてもらいます」と話しています。
楠本容疑者を知る人は…
【楠本容疑者の知人】
「昔はかわいかったんですけど、ヤクザちっくになっていましたね、オラオラ系というか半グレみたいな…。調子乗りというか、チンピラにもなれない小チンピラみたいなそんな感じの。弱いもんばっかりいじめて、そんなんでお金を取ったりとかじゃないですかね。(殺人についても)あいつならやりかねんかなって思います」
63歳と33歳、親子ほど離れた2人の関係とは…
■区役所は「支え合う関係だった」と説明…しかし
生活保護を受けていた唐田さん。
警察の捜査で、唐田さんは楠本容疑者にキャッシュカードや通帳などを管理され金銭的に支配されていたほか、事件前にはケースワーカーの目の前で楠本容疑者に暴行されていたことがわかりました。
1月、会見を開いた区役所は2人の関係性について…
【堺市中区 西川明尚区長】
「従来からお二人で行動されることが多いとケースワーカーは認識していて、ある意味“相互扶助の関係”にあると。唐田さんから楠本容疑者へ頼み事する場面もあったと聞いているのである意味担当は相互扶助的な関係と認識していると聞いている」
楠本容疑者による支配ではなく、支え合っていたと説明。
また、関西テレビの取材に対し、その理由について「唐田さんは自らの意思で金銭を渡しているように見えたため不審には思わなかった。金銭管理の事実は把握していない」と書面で回答しました。
しかし、警察の聴取に対して担当するケースワーカーは「金銭の管理をしていたことは知っていた」と話していることがわかりました。
区役所の説明との食い違いは他にも…。
■容疑者は区役所内で遺族を恐喝か
楠本容疑者は唐田さんの弟を恐喝した疑いでも逮捕されています。
事件は、唐田さんが亡くなっているのが見つかった日、遺族が葬儀などの話をするため区役所を訪れた時に起きました。
【唐田さんの弟】
「いきなり(部屋に)楠本容疑者が入ってきて、『11万7500円、唐田健也に貸してある』と、『それを払ってくれ』と。何ていうか…脅しかな?うちの娘と娘の旦那に対して、シャドーボクシングっていうんですか?殴るような真似。武闘家とはずっと言っていたんですよ。いつでも腹殴るぞとか言うんですよ、娘も怖がってしもて。とりあえず娘も出ていけと、娘の旦那に対しても出て行ってもらった。そんなんしている姿を見ていて、役所の人は何も言わないんですよ?…『落ち着け』とか普通だったら言いますやん。一切なしですよ、役所は」
楠本容疑者が威圧的な態度を取る中、その場にいた職員が制止することはありませんでした。
さらに弟に借金の肩代わりを求める楠本容疑者が提示した“誓約書”と書かれたメモ。その中には「最終額は保留する」という言葉が…
唐田さんの弟はこれに異を唱えました。
【唐田さんの弟】
「おかしいやんって。『なんぼ請求額が来るか分からへんやん』って言うたんですよ。後で請求しますみたいなことが書いてあるから。そこで楠本が『あと2、3万』やって言ったんですよ。役所の人に『こんなん書いてあるやん』って言ったら、役所の人が『あと2、3万円やったらサインして』みたいなことを言うんですよ、俺に」
この恐喝を助長するような証言についても区は「担当者は恐喝の場面や言動を確認していない。誓約書の内容も職員は認識していない」と否定しています。
■職員の前でも5回の“暴行” 他にもあった…「新たな証言」
楠本容疑者は唐田さんに対して11回にわたり、暴行した疑いでも逮捕されています。区は、このうち5回は担当するケースワーカーなど職員がその場にいたことを認めましたが、警察に相談することはありませんでした。
【堺市中保健福祉総合センター 石井敏夫所長】
–Q:唐田さんからは一切SOSは感じ取れなかった?
「例えばそれが常態的な暴力行為、恐喝行為だったり、SOSだったりとかそういう声があったら当然、我々職員としては黙認することはございませんので。あくまでも当事者間での“いざこざの範囲内”と当初考えておりましたが、今回警察の方から、暴行事案であり恐喝であると指摘されていますので、これは警察の判断になるとは思いますがそういう事件・事案なんだと」
しかし、取材を進めると区が認めた5回以外にも職員が見過ごした暴行があったことが分かりました。
楠本容疑者、唐田さん、そして職員が3人で訪れた飲食店のオーナーが証言しました。
【飲食店のオーナー】
「『(楠本容疑者が)お店にカメラはついていますか?』と聞いてきたので、『ついていませんけど、ついていたら何かあるんですか』って言った瞬間に立ち上がって、おじいちゃん(唐田さん)の胸ぐらをつかんだんで、『店でそういうことをするのはやめてください』って私が止めて…」
–Q:職員はどんな様子でしたか?
【飲食店のオーナー】
「(職員は)普通に座っているだけ。だから私は、え?何で止めへんのやろとは私は思いましたよ」
区役所はこの暴行について「現段階では認識していない」としています。
さらに楠本容疑者の支配が唐田さんだけでなく、職員にまで及んでいた可能性も…
–Q:店に入る前の様子は?
【飲食店のオーナー】
「(職員は店の外で)僕ここで待っときますみたいな感じ。『いいです、いいです』っていう感じやったけど、(楠本容疑者が)『そんなんお前もついてきてくれないと困る』という感じで、無理やり席にはつかされていた。(楠本容疑者は)自分はビールくださいと、『他の方何されますか?』って聞いたら、『こいつら水でええよ』って感じの言い方。誰も何も言わない。言われた通り。自分(楠本容疑者)だけ、あても頼んだりして自分だけ食べているみたいな」
■「警察に報告してくれたら…死ななかった」遺族の率直な思い
事件前、57キロあったとみられる唐田さんの体重は、楠本容疑者と知り合ってからの1カ月で急激に減少。亡くなった時の体重は39.5キロでした。
およそ3カ月がたった今も、遺族に対して区役所からの説明は何もありません。
【唐田さんの弟】
「4、5回暴行があったって聞きましたし、それに関して、警察に報告でもしてくれたら兄貴が死ぬようなことはなかったんじゃないかなとは思っていますよ」
–Q:亡くなった状況の説明は?
【唐田さんの弟】
「ないですよ、何も。何もないです」
–Q:それについては?
【唐田さんの弟】
「もう諦めたって、謝罪とかそういう電話ももう2カ月以上たって何もないんやから、今後ありえることはないやろうし。何もできんと終わるんやなと。もう諦めました」
■命は守れなかったか? 区役所の説明の“矛盾”
区役所の説明と取材で分かった事実関係には矛盾があります。
まず、2人の関係性は、区役所は「お互い支え合っていた相互扶助の関係」と説明していますが、取材では、楠本容疑者が唐田さんの通帳やキャッシュカードを管理する“金銭支配”をしていました。
次に、区役所の職員が目撃した暴行は、単なるいざこざで小突いた程度という認識ですが、捜査幹部によると防犯カメラに明らかに唐田さんに暴行しているのに、それを職員が見ている様子が映っていました。
また、暴行の目撃回数は、区役所は「5回」と答えていますが、その5回とは別に、飲食店のオーナーが、店で唐田さんが暴行を加えられていた様子を目撃しています。その場に職員が同席していたということです。
今回の事件について専門家は以下のように指摘しています。
【元ケースワーカー 花園大学 吉永純 教授】
「暴力的な楠本容疑者をケースワーカー(職員)が一人で背負い込む形だったのではないでしょうか? これを防ぐためには、警察や弁護士などの専門家の力を借りて、組織的に対応するのが基本です」
今回の事件を、防ぐことができなかったのか、詳しく検証する必要がありそうです。