生まれたばかりの娘と、なぜ離れて暮らさなければならなかったのか。
大阪府内に住む母親は、児童相談所による一時保護や面会制限が違法だったと、いま裁判で訴えています。
【母親】
「なぜ一時保護されたのか、なぜ面会を制限されたのか、なぜ一時保護を解除してもらえなかったのか。制限された娘のために少しでも知りたいと思って裁判をしてきました」
3年前、初めて授かった待望の長女。
母親は、長女の父親であるパートナーとは同居せず、家族の協力を得ながら育児に励んできました。
母親にとって何よりも辛かったのは、生まれたばかりの娘と8カ月間離れ離れになったことです。
【母親】
「抱っこしながらグラスを取ろうと手を伸ばして、また娘に手を戻すときに娘を落としてしまって…・」
生後1カ月の長女が、頭からフローリングに落ちてしまい、母親はすぐに119番通報。
長女は病院へ搬送されました。
診断の結果、長女は頭蓋骨の両側が折れていて、入院することになりました。
事故から2日後、長女は児童相談所に一時保護されましたが、母親は毎日病院に通い、1日12時間の看病を続けました。
入院から16日後、突然、母親は児童相談所に呼び出されます。
そこで母親に告げられたのは―
【大阪府池田子ども家庭センター・児童福祉司A】
「鑑定の結果、1 回の落下では2 箇所の骨折は説明できないとの(鑑定の)速報が出たので、これからは面会できません。保護施設へ移ります」
この日を境に、約2か月間、長女との面会が一度も許されず、居場所すら教えてもらえませんでした。
【母親】
「なぜ娘と会えなくなるのか分からない。なぜ会えないのかと聞くと『指導の一環で会えない』と。書面で(教えて)ほしいと言っても『渡す書面はない』と言われました」
さらに、児童相談所は2カ月を超えての一時保護延長を家庭裁判所に申請しました。
その審判で児童相談所から虐待を疑う根拠となった医師の鑑定書が提出されました。
【児童相談所側の山口大学・髙瀬泉教授(法医学)の鑑定書】
「骨折はいずれも強い打撲で生じたと考えられる」
「乳児の運動能力などを考えると、他為(本人以外の行為)によることは明らかである」
「虐待の可能性が考えられる」
理由の記載は約1ページだけで、鑑定の根拠となった画像や医学文献は示されていませんでした。
一方、母親側が鑑定を依頼した脳神経外科医は…
【奈良県立医科大学・朴永銖病院教授】
「赤ちゃんの頭蓋骨は一回落としただけでも2カ所の骨折が生じることがある」
【奈良県立医科大学・朴永銖病院教授】
「赤ちゃんの頭蓋骨はたわむという特性があるので、1回だけの頭部外傷でも両側に骨折が起こる。この赤ちゃんの場合もその可能性ありますよと(鑑定書に)お書きしました」
家庭裁判所は、医師の鑑定内容も踏まえ、「母親の説明とケガの状況は矛盾しない」としたうえで、「母親に虐待傾向は一切見られず、説明も一貫している」と指摘。
あと2カ月の一時保護の延長を認めるが、その理由は、児相側の医師の鑑定が信用できるかを検討することや、自宅引き取りに向けた準備の期間にするためというものでした。
【母親】
「私はあの審判の内容を見て、これで娘を返してもらえると思った」
まもなく長女が家に戻ってくる。
そう思っていた母親ですが、児童相談所の職員から思いもよらない方針が告げられました。
その方針とは―
【児童福祉司A】
「長期間施設に入所させる審判申し立ての予定は変わらない。裁判は勝負みたいなところがある。勝算がないとは思っていない」
児童相談所は、長期間施設への入所が必要だとして、家庭裁判所に審判(いわゆる28条審判)を申し立てたのです。
【母親】
「どう考えればそれが娘のためになるんだろう」
結局、審判が始まった後も、児童相談所からは新たな証拠の提出もなく、裁判官の勧告により、児童相談所は審判を取り下げました。
審判を申し立てられたことで一時保護は継続。
結局長女が自宅に戻ってきたのは、一時保護開始から約8か月後のことでした。
なぜ、家庭裁判所の判断を無視して、児童相談所は長期間施設に入れようとしたのか。
母親はその理由を知りたいと、いま裁判で争っています。
2020年10月、担当していた児童福祉司への証人尋問が行われました。
【裁判官】
「児童相談所として、家庭裁判所で具体的に示された検討をしなかったということですね」
【児童福祉司A】
「していません」
【裁判官】
「その根拠は何ですか」
【児童福祉司A】
「わざとケガをさせていれば返せませんし、もし事故でなったのであればそこも支援しないといけません。どちらにしても支援しなければいけないのは変わりません」
【裁判官】
「家庭裁判所は(鑑定書の)信用性について検討してくださいと。『故意の虐待の可能性について検討してください』と言われたわけですよね。そう理解しなかったのですか」
【児童福祉司A】
「おっしゃっている意味が分かりません」
【裁判官】
「なぜ分からないのですか。もう家庭裁判所の理由は尊重しなくていいとお考えになっていたということですか」
【児童福祉司A】
「そんなことは…」
ケガの原因が分からないとして継続された一時保護。
しかし、家庭裁判所の忠告があった後も、児童相談所はケガの原因を調べていなかったことが明らかになりました。
【裁判官】
「故意の虐待かどうか分からない状態で、ベストな対応が施設入所なんですか」
【児童福祉司A】
「お母さんを知るためには施設入所が必要だと考えました」
【裁判官】
「一時保護開始から1カ月くらい経っているのに、母親のことを感じ取れなかった理由は何ですか」
【児童福祉司A】
「母親は虐待をしそうな人に見えません。赤ちゃんに対しても非常に真摯に向き合っておられると思っています。しかし、ケガが起こって、それがなぜかどうしても説明がつかないという理解をしていました」
【母親】
「虐待をしていた親と、単一の事故でけがをさせてしまった親への支援って同じなんですかと聞きたいですね。支援のために施設入所が必要だと(児相が)思っても、何も支援されないで(娘は)帰ってきているので」
なぜ親子分離が長期に及んでしまったのか―。
取材班はあらためて取材を申し込みましたが、児童相談所は「コメントは差し控える」と応じませんでした。
児童福祉の専門家は、背景として「児童相談所の判断だけで一時保護が続けられる日本のシステムに問題がある」と話します。
【花園大学社会福祉学部・和田一郎教授】
「虐待の通告を受けて児相職員が『危ない』と思って、福祉で保護するのは世界でも可能です。(保護から72時間経過した)その後もずっと児相がやっているのは公平で客観的かと常に言われている」
「他の国だと(通告直後の)初期対応で警察が担当したり、一時保護や(施設入所の)措置は裁判所がすべて決定したりしている。(権限を)分散して客観的になるシステム作り上げているが、日本はそれができていないのが大きな問題です」
和田教授によると、通告受理とそのスクリーニング、親子分離(一時保護・施設入所措置)、家庭支援をすべて児童相談所が担っているのは日本ぐらいであり、システムとして破綻しているのではないかということです。
裁判所はどのような判断を下すのか、判決は2022年3月に言い渡されます。
(2021年12月21日放送)