福知山線事故から18年 JR西日本に“あの年”に生まれた「新入社員」たち 「安全」は言葉だけになっていないか? 遺族からは雪での立往生に「このままではまずい」と危機感も 2023年04月25日
JR福知山線の脱線事故から4月25日で18年を迎えました。
■最年少は18歳 新入社員にあの事故どう伝える? 研修内容の7割は「安全」
2023年4月、JR西日本に新入社員472人が入社しました。最年少は18歳、あの事故のときはまだ赤ちゃんでした。
入社式で長谷川社長はこう語りました。
【JR西日本・長谷川一明社長】
「鉄道の安全はJR西日本グループの企業価値の根幹であります」
18年前に発生した、JR福知山線脱線事故。乗客のうち106人が死亡、562人が重軽傷を負いました。
この事故の後にJR西日本に入社した人は、社員の63パーセント。事故当時の報道すら記憶にない世代が入社する時代です。
【JR西日本・長谷川一明社長】
「やはりそのことを直感するってことはなかなか難しくなってきますから、より現場でのさまざまな研修や、決意新たに安全に対する取り組みを進めていただく」
若い世代へどのように「安全」を伝えているのか。新入社員研修を取材しました。
線路の保守点検で異常を見つけた想定で、近づいてくる列車を止める「列車防護」を学びます。
【講師の先輩社員】
「異常発見。支援装置発報お願いします」
【新入社員】
「はい」
新入社員は研修センターに泊まり込み、26日間の新人研修に臨みます。
■遺族の強い危機感「言葉だけ独り歩き」 今も後手後手の対応
JR西日本によると、新人研修のおよそ7割が「安全」に関するもの。安全を第一に考える会社、に見えますが…
【上田弘志さん】
「言葉だけが独り歩きして、安全というものをよそに置いた会社に戻りつつあるなとすごく感じる」
脱線事故で息子の昌毅さん(当時18歳)を亡くした、上田弘志さん。強い危機感を抱く出来事がありました。
【上田弘志さん】
「僕らから見たらしょうもないミス。事前にやるべきことをやってなかったから起きたことであって…」
2023年1月のJR京都線。大雪で列車が立ち往生し、およそ7000人が最長10時間も閉じ込められました。
その後、JR西日本は40億円をかけ、遠隔操作でポイントの雪を解かす「電気式融雪器」に切り替えると発表。しかしこの装置は、近鉄や京阪をはじめ、すでにあちこちの鉄道会社で使われているものです。
その「後手後手の対応」は、制限速度を超えた列車に自動でブレーキをかける「速度照査式の自動列車停止装置(ATS-P)」を、福知山線の脱線事故が起こるまで設置しなかった過去の姿と重なります。
【上田弘志さん】
「命を一番に考えるなら事前の対策をもっと先手先手で『こんなん要らんかったやん』と思うくらいにしていかないと。このままだとまずいですよ。今のうちに舵をちゃんとした方向に切り直してほしいなと。それには若い力が重大だと思う」
■元運転士の後悔 「歴史の勉強ではない」新人に伝える教訓
【運輸部企画課・高谷雅宏担当課長(元・運転士)】
「それでは福知山線列車事故に関する講義を始めて参りたいと思います。これは歴史の勉強じゃないんですよ。過去にあった事実を知る、歴史として知る、ではないです」
講師は、事故の前の年まで現場を走っていた元運転士。「あのカーブは危ない」と思いもしなかったことを悔やんできました。
【運輸部企画課・高谷担当課長(元・運転士)】
「今後の皆さんの意識・行動に結びつけていく、そういう1時間にできるかが、この講義の大事なところだと思います」
先輩の話を聞いて、グループに分かれて議論します。
【グループの議論】
「さっき高谷さんが『自分は危ないと思ってなくても、危ないと思っている人もきっといたと思う』というのがあって。自分たちはまずその声を吸い上げるようなコミュニケーションの工夫が要るかなと思って」
過去に起きた他人事ではなく、今後起こるかもしれない我が事として考えなければいけません。
【運輸部企画課・高谷担当課長(元・運転士)】
「『継承』は言葉をつなぐことじゃないです。福知山線列車事故の反省っていうのを自らの行動にしていく。この流れができていかないと、風化っていうものは必ず起きてしまいます」
18年がたって、変わったこともあれば、変わらなかったこともあります。
【電車を見物している子ども】
「快速だー!快速!快速!ばいばーい、丹波路快速」
事故現場の近くで、無邪気に電車を見る子どもがいました。事故当時、この子と同じくらい幼かった新入社員たちが、JR西日本を安全な会社へと変えていく鍵を握っています。
(2023年4月25日放送)