新型コロナウイルスのワクチン接種をめぐり、医師が一人しかいない過疎地が頭を悩ませています。
接種会場に来ることができない高齢者も多い中、どのように対応していくのか、様々な課題に直面しています。
京都府にある唯一の村、南山城村。
【竹澤健医師(43)】
「どう調子は?」
【村の高齢女性】
「あの薬もらってから、調子ええねん」
竹澤健さんは、村でただ一人の医師です。
車を運転できない高齢者が多く、集落を回って訪問診療を行っています。
人口2592人のうち、65歳以上は約半分。
過疎と共に高齢化が進んでいます。
【竹澤医師】
「4月後半からは後期高齢者の(ワクチン)接種が始まるはずなんです。まだ確定ではないけど。夏ぐらいまではずっと忙しくなるから、早いこと打ちたいかな」
竹澤さんの診療所には、毎日多くの患者が訪れます。
通常の診療もある中で、接種を希望する住民にどうやって新型コロナウイルスのワクチンを打っていくのかが、課題となっていました。
【竹澤医師】
「問診の時に副反応が怖いから『先生打っていいやろか』っていう人が山のようにいると思う」
「(ワクチンの)接種にたどり着くまでの説明が一番難しいというか、納得してもらうのが、時間がかかるんじゃないかなと」
今年に入って、6人が新型コロナウイルスに感染した南山城村。
ワクチンへの関心は高まっています。
【男性(88)】
「88歳になるんやわ。えらいこっちゃ。してもらわんと、かかったらかなわんわな」
【女性(86)】
「この年やから、いつ逝ってもかまへんけどな。せやけど、みんなに移すのが悪いから打つんやったら打たしてもらいます」
【女性(72)】
「安全だと分かっていたらいいけど、それも十分に分からないし、この年までいたら、別に要らないわと思って」
南山城村では住民を一つの会場に集める集団接種を主体に計画していますが、会場に来ることができない人もいます。
■寝たきりの夫と妻「ワクチン接種の会場に行けない」 住民が抱える様々な事情
【竹澤医師】
「こんにちは。起きた?分かる?」
この日、竹澤さんが診療に訪れた家庭では、寝たきりの夫を妻が1人で介護しています。
二人でワクチンの接種会場に行くのは難しいと考えていました。
【夫を介護する女性】
「車に乗れないし、寝たきりだし、その時(打ちに行けない時)はやめるかも分かりませんけど」
【竹澤医師】
「僕が打ちに来るよ」
ただ、女性には複雑な思いもあるようです。
【夫を介護する女性】
「打ちたいのは打ちたいですよ。健康なほうやから。打ちに行って、なんかあって、この人(夫)を誰が診るのかといつも考えるから」
【竹澤医師】
「人それぞれぞれの不安を抱えている中で、『打つ・打たない』の選択を迫られるから、打ちなさいって言うのは簡単だけどな…。また相談やね」
竹澤さんは、休みの日を使って、打ちたくても打ちに行けない人を訪問し、個別に対応しようと考えています。
【竹澤医師】
「4月の終わりから5月の日曜日は、全部ワクチンの接種で埋まっている」
「休みなし、しょうがない」
■医師派遣などの支援求めるも…ワクチン量”不十分”で見通し立たず
この日は、集団接種会場の動線や必要な機材を確認しました。
集団接種は隣接する笠置町と協力して行います。
笠置町にも医師は1人。
一度に400人を超える高齢者を2人の医師と看護師で対応しなければいけません。
もし、アナフィラキシーショックが起きた際に、2人の医師だけで対応できるのでしょうか。
【笠置町の医師】
「どう頑張っても2人やもんね」
【竹澤医師】
「1人2人倒れて、その間に一人二人ここでごねたら、それでストップですよ。まあ、やるしかないけど」
周辺の自治体も同じ時期に接種が重なる可能性があるため、笠置町以外の医師に協力を求めることは困難な状況です。
村長は京都府に医師の派遣を求めました。
【南山城村・平沼和彦村長】
「集団接種となると先生も休みなしでずっと働き詰めになるので、人材・医師の支援を頂きたいと思っている」
2月、京都府と府内の市町村は医師会や看護協会などと、ワクチン接種を円滑に進めるための協定を結びました。
医療従事者が足りないところを府内全域でカバーしていく仕組みを作ろうとしています。
しかし、まだ具体的には動けていません。
【京都府ワクチン接種対策室・半井達弥室長】
「医師の多いところから、派遣を頂くとかの計画も立てられると思うが、何しろスケジュールが明確でない。(ワクチンの)量が不十分でスケジュールが明確でない。我々としても(派遣の日程の)計画を立てるのも難しい」
この日、南山城村に国から支給されたワクチンを保管する冷凍庫が届きました。
4月18日から高齢者の接種を始める予定でしたが、ワクチンが届かず、1カ月ほど遅れることになりました。
過疎の村が初めて直面する大規模接種。
医療が脆弱な地域を置き去りにしない体制作りが求められています。
(カンテレ「報道ランナー」3/15放送)