アカウミガメの「リブ」。
水槽の中を優雅に泳ぐその体には…人間でいう”右腕”がありません。
【須磨海浜水族園・磯部雄太さん】
「ここまで元気に泳げるようになったのは自分の中でも初めての経験なので感慨深い」
右の前足を失ったリブが元気な姿をみせるまでには、5カ月間に及ぶ多くの人の支えがありました。
■網に絡まり岩場に乗り上げた”ウミガメ”…発見したのは海水浴中の兄弟
去年8月、島根県隠岐の島町の海岸で海水浴に来ていた兄弟がリブを見つけました。
【発見した高梨蒼大くん】
「最初見た時は岩かと思って勘違いしたけど、よく見たらカメだったのでびっくりしました」
【発見した高梨祐汰さん】
「岩場に乗り上げたカメが、右の前足と後ろ足が網に絡まっている状態でした」
リブは網に絡まって身動きが取れなくなっていました。
海の生物に詳しい人たちに連絡してなんとか救出することができましたが、同時にわかったのは厳しい現実でした。
【救出した海洋生物に詳しい専門家・大津浩三さん】
「右前足がかなり腐食していた。相当長い期間流れてきたのでは。翌朝まで生きてくれるかどうかかなり心配しました」
生きる希望を託して付けられたのが「リブ」という名前です。
網に絡まった右の前足は壊死して、失うことになりました。
しかし地元の人たちがエサを持ち寄るなどして少しずつ元気を取り戻し人気者になっていきました。
■ウミガメ「リブ」を救うためバトンつなぐ…飼育実績のある”スマスイ”へ
―約1カ月後―
リブをより整った環境で治療してもらおうと、隠岐の島町が輸送費など約15万円を支援して神戸市の須磨海浜水族園に移されることになりました。
須磨海浜水族園は以前、サメに襲われて前足を失ったウミガメ「悠ちゃん」を保護、人工ヒレを作って泳げるまでに回復させるなど飼育実績が豊富なことから白羽の矢が立ちました。
この日、子どもたちからの手紙が詰まった玉手箱とともにリブは須磨海浜水族園へと託されました。
【救出した高梨蒼大くん】
「リブは好き嫌いがあって機嫌が悪くなる時があります。こんなやつですが、かわいいやつです。これからもよろしくお願いします」
【須磨海浜水族園・馬場宏治さん】
「いろんな方々が協力してリブの命をバトンのようにつないでいってくれました。改めて責任の重さを感じています」
【隠岐の島町の子どもたち】
「リブちゃん元気になって帰って来てね」
隠岐の島町の子どもたちに見送られて、リブは須磨海浜水族園へと向かいました。
ー約2週間後ー
リブの姿はバックヤードの水槽にありました。
来たときは68キロだった体重は70キロに。
元気が良すぎてかえって飼育員を困らせていました。
注射をしようと試みますが…
【須磨海浜水族園 須藤翼さん】
「元気が良すぎて、やめてやめてと首を引っ込めています」
ここでは傷口の治療はもちろん、採血やレントゲンなど精密検査も実施。
エサは欠損した部分の血液を補うため、魚を多めに。
本来2日に一回のところを毎日、さらに通常の倍の量を与え続けました。
【須磨海浜水族園・須藤翼さん】
「奇跡的に全部健康だと思います」
■健康になる一方で課題は『泳ぎ』…独自の泳ぎ方を見つける”リブ”
通常、ウミガメは前の両足を使って泳ぎます。
一方、リブは前足がない代わりに後ろ足を使う独自の泳ぎ方を習得しようとしていました。
【須磨海浜水族園・磯部雄太さん】
「リブ自身が片手が無いことを理解して行動を変化させている。普段ウミガメではあまりみられない行動」
深いところでは息継ぎができず溺れてしまう恐れもあるため水位の低い水槽でのリハビリが続きました。
それから、約3か月たった1月20日…。
リブは深さ4メートルの大きな水槽に試験的に移されることになりました。
海に戻るための大きな一歩となります。
【須磨海浜水族園・磯部雄太さん】
「うまく息継ぎができるか、水槽の底から上まで上がってこられるか、水中で自分でエサを探して摂餌をすることができるか、そのあたりを注意して見たいと思います」
期待と不安の中、バックヤードから園内最大の水槽へ。
飼育員の磯部さんも、もしもの時のために一緒に潜ります。
リブにとっては助けられて以来、約5か月ぶりの広い水の中です。
後ろ足を大きく使う泳ぎ方にはぎこちなさもありますが、息継ぎはうまくできているようです。
そして大好物のイカが投げ込まれると、リブは見事に探して食べることに成功しました。
【須磨海浜水族園・磯部雄太さん】
「食べましたね。ちゃんと落ち着いてエサも探して食べられてる」
試験的ではありますが、大きな水槽への移動は無事に成功しました。
【須磨海浜水族園・磯部雄太さん】
「飼育員としていい子いい子するのはあまりいいことではないんですけど、今回に限ってはよしよししてやりたい気分ではあります」
「リブ自身がしっかり野生に戻ることをみんな祈っていると思いますので、私たちもそれを裏切らないようしっかりと頑張ってやっていきたいと思っています」
たくさんの人の希望とともに須磨へとやってきたリブ。
今年の夏にも隠岐の海へ戻ることを目指してリハビリは続きます。
(カンテレ「報道ランナー」1/26放送)