2008年4月28日(月)
手さぐり-児童虐待の真実を見つめた18年

手さぐり-児童虐待の真実を見つめた18年

番組内容

1980年代、小児医療現場や保健所で、明らかに親からの折檻や暴力で傷ついた子どもたちが目立ち始めました。親が子に暴力を振るう、ののしる、性的心理的に追いつめる-「児童虐待」。社会から孤立した親子やこどものSOSを一部の児童相所職員が受け止めていた頃、1990年、大阪に全国で初めて民間が運営する「児童虐待防止協会」が設立されました。活動の中心は「こどもの虐待ホットライン」-18年間で受けた電話相談は約4万3千件、うち3割が「今まさに虐待している密室の母親」からの訴えです。命を直接左右する取り組みといえます。児童相談所の虐待相談の件数は、データを取り始めた18年前に比べて約 34倍の3万7千件で減る気配はありません。政府の調査によると、1週間に一人の割合で子どもが虐待で死亡しているのです。
「児童相談所に子どもを取られました。死にます」、1年前に関西テレビに届いたメールから、由美さん(仮名)夫婦の取材を始めました。虐待の疑いで3人のこどもが強制的に保護されました。理由は「3歳の長男の首をひもで絞めたアザがある虐待疑惑」-真偽の鑑定や詳しい説明もなく親子は引き離されました。1 年が経過し、子どもたちが1泊だけ帰宅を許され、久しぶりに親子の時間を過ごします。
由美さんは虐待の疑惑について「故意ではなく事故だ」と主張し児童相談所と対立します。一方、児童相談所は対応を間違えれば命に関わるため、職員は使命感をもって職務にあたっているものの、人手不足から鑑定能力などが十分でありません。由美さんの場合も含め、個々のケースについて必ずしも十分な対応を取れないのが実情です。
九州在住の心理カウンセラー・あきらさんは、子どものころ虐待を受け、自分の子どもに虐待を加えてきました。児童虐待の「連鎖」を克服できたのは、親が自分にしていた事実を受け入れ、自分の行為を虐待と認めたことからでした。虐待する親も深い悲しみを背負っていることが多いのです。
様々な事情で親と離れて児童養護施設で生活する子どもたちは何を感じているのか。番組では、神戸のグループホームを取材します。また、この18年間で育った子育て支援団体の活動も紹介、「1人で悩まないで」というメッセージを通して、あらためて社会的療育の在り方を訴えます。

児童虐待防止協会と関西テレビ

関西テレビ放送の報道キャンペーン活動をきっかけに、1990年、子どもへの虐待の相談救助活動を目的とする「児童虐待防止協会」が設立されました。
こどもの虐待ホットラインのCMは今も夕方ニュースのスポットで流れています。今回の番組でも紹介された1988年の「密室の親子」では番組のエンドのコメントは「密室で抑えきれない暴力が飛び交い、離されれば引きあうゆがんだ親子関係。そんな親子がこれから増えてゆく気がしてならないのです」と結んでいます。あれから18年。その指摘は残念なことにあたりました。児童相談所への相談件数は約34倍、虐待死した児童のうち児童相談所が関わりながら救えなかったケースは8割。しかし、児童虐待防止協会に集う人たちはめげることなく、医療、行政、市民とネットワークを結んでボランティア活動を続けています。
なぜ活動を続けられるのか。元神戸市児童相談所の三宅芳弘さんは「目の前の子どもをたすけたいという使命感。そして、ともに学び励まし合う仲間だったような気がします」「協会の勉強会には、行政、医療、保健婦さん皆が休みを返上して手弁当で集まった。孤独な家族に向き合う、孤独な支援の毎日、どれだけ励まされたことか」と振り返ります。
児童虐待という重いテーマ。ニュースや番組での「手探り」だけど継続的な「かかわり」を目指して、今後もお手伝いをさせていただきます。
(ディレクター 塩川恵造)