燃え盛る炎を前に、護摩焚きを行う一人の僧侶。
「仏さんの慈悲というのは、授けていただいているのに気づかないことが多いのではと思う。お慈悲というものを体感できるように」と、参拝者に説法していましたが…。
5日、電磁的公正証書原本不実記録などの疑いで逮捕されました。大阪市阿倍野区にある正圓寺の住職・辻見覚彦容疑者です。5年前、寺が所有する一部の土地を売買したと装って虚偽の登記申請を行った疑いがもたれています。逮捕される前の取材に対し、辻見容疑者は…。
Q.虚偽の申請をしたことになりませんか?
【辻見容疑者】
「それはちょっとお答えすることができません」
住職が逮捕された正圓寺。寺の異変はそれだけではありませんでした。
■辻見容疑者が跡を継いだ頃から異変が
真言宗・正圓寺。平安時代の939年に創建されたと伝えられる、歴史ある寺です。「天下茶屋の聖天さん」と地域の人にも慕われ、正月には多くの人で境内が埋まるほど賑わっていました。
貴重な文化財も80点ほど所有していましたが、今は保存に不安を覚えた大阪市がその多くを回収して保管しています。さらに、裁判で一部争われているものの、境内や本堂などの建物も全て人手に渡ってしまいました。
異変は17年前、先代の住職が亡くなり、辻見容疑者が跡を継いでからだと周囲の人は話します。
【檀家】
「すごくだらしなくなったなというのは、辻見さんが住職になってから。(以前と)全然違います」
【近隣住民】
「(寺は)おやじさんが亡くなって何年か経ってからほとんど荒れ地。夕方暗くなったら出て行って、アルコールは飲めないけど、あちこちで歩き回って飲みまわってると。女遊びはめちゃめちゃ好き」
【近隣住民】
「車も何台ぐらいあったかな?すごい外車みたいなやつも(あった)」
歴史ある寺のはずが、資金繰りが行き詰まるようになった正圓寺。その決定的な失態が、特別養護老人ホーム建設の計画頓挫でした。
■“書類が虚偽”であることが発覚 老人ホームの工事は中断
【記者リポート】
「本堂の東側に建物がありますね。中は雑草が生い茂り、工事している様子はありません」
境内に建設しようとした特別養護老人ホーム。社会福祉法人を設立して、土地を貸すことで収益を上げる計画でしたが…。
【関係者】
「最初のスタートが偽装の書類、自分で作った書類ということがばれて、どんどんメッキがはがれていって、にっちもさっちもいかなくなった」
寺の内情に詳しい関係者によると、社会福祉法人に資産があるように装って、大阪市の建設許可や補助金などを受け建設工事が始まったものの、書類が虚偽であることが発覚して金融機関からの融資がストップ。工事も中断されてしまったというのです。
残されたのは、廃墟のようになった建物と建設費の支払いだけ。なぜ、そこまでして特別養護老人ホームの建設に走ったのか。関係者はこう証言します。
【関係者】
「社会福祉法人の理事長になると月々の報酬が200万円もらえるということで」
Q.報酬が月々200万円も?
【関係者】
「はい。“完成したらやっと安泰なんです”ということは聞いていました」
自らの収入のことは考える一方、寺のことをおろそかにした結果でした。
■同じ容疑で逮捕された2人は
建設費の支払いに窮していた辻見容疑者のもとに現れたのが、5日、同じ容疑で逮捕された南野潤二容疑者と西村 浩容疑者。2人は辻見容疑者にこうささやいたそうです。
「このままだったら土地を差し押さえられる」
3人は資産を隠すために、一部の土地を西村容疑者の関係会社に売ったと見せかける虚偽の登記を行った疑いが持たれています。
しかも問題の土地はその後、虚偽登記が悪用され、西村容疑者の関係会社から転売に転売を重ねられ、建売住宅に。今では全く無関係の人たちが住んでいます。体の良い乗っ取りではないのか…。関西テレビは、事件を持ちかけたとされる南野容疑者と西村容疑者にも取材していました。
Q.南野さん、少しだけお話を聞かせてください
【南野容疑者】
「カメラ止めーや。カメラ止めーや」
Q.西成の土地部分について、西村さんと南野さんが関与している話を聞きました。これは事実ですか?
【南野容疑者】
「関与はしているよ。紹介したと言うてるやん。なんぼで売ったとか、どうやとかこうやとか俺は知らない。あくまで紹介したまで。南野さんにはいいようにやらせてもらいますっていう約束があったから協力をした。でも我々は騙された」
Q.誰にですか?
【南野容疑者】
「辻見容疑者に」
Q.どういう点で騙されたと思いますか
【南野容疑者】
「全部嘘やったもんね」
そして、西村容疑者は…。
【西村容疑者】
「(カメラを手で遮るようにしながら)やめてな、やめてな」
Q.お願いします
【西村容疑者】
「俺は承諾してないからな」
Q.話を聞きたいんです
【西村容疑者】
「関与してません。以上やんか。分からないのをどう説明するのよ」
Q.その話だけでも聞かせてください
【西村容疑者】
「(手でカメラをどける)何やねん、撮るな!」
2人とも容疑を否定。残る境内の土地についても、所有権は第三者に移ってしまい正圓寺の資産はほぼなくなってしまったのです。
■辻見容疑者「責任は感じています」と話すが…
寺を窮地に追い込んだ辻見容疑者。住職としての自覚はあったのでしょうか。
Q.私的な流用は無かったのか?
【辻見容疑者】
「私的な流用?それはないです」
Q.どういったことにお金を使っていたのか?
【辻見容疑者】
「当然、お布施などは維持費に」
Q.歴史ある寺がこのような状況になったことについて、住職としてどう思うか?
【辻見容疑者】
「そりゃ当然責任は感じています」
こう殊勝な言葉を残す一方、逮捕容疑や一連の経緯については、こう話しました。
【辻見容疑者】
「私の口からは何とも言えないです。警察が調書を取っているので言えないんですよ」
代々受け継がれてきた歴史の重みに気づくときは来るのでしょうか。警察は、正圓寺が土地や建物を手放すことになった経緯の全容解明を進めています。
(関西テレビ「newsランナー」2023年10月5日放送)