6月13日、インターネットでの誹謗中傷対策として「侮辱罪」を厳罰化する改正刑法が成立しました。
これまで30日未満の「拘留」または1万円未満の「科料」だった侮辱罪の法定刑に、1年以下の「懲役・禁錮」または30万円以下の「罰金」が加えられます。
フジテレビ『テラスハウス』に出演したプロレスラーの木村花さんが、ネット上で中傷を受ける中、亡くなってからおよそ2年。
木村花さんの母・響子さん(今年4月・法務委員会):
「SNSの誹謗中傷、本当に数日で簡単に人の心は壊れます」
花さんの母・響子さんは、誹謗中傷をなくすため、「厳罰化」を訴え続けてきました。今回の侮辱罪「厳罰化」の成立を受けて…。
木村花さんの母・響子さん:
「やっとどこの誰か分かって、責任を問えることになった時に、(これまでは)科料9000円ということで抑止力にならない、理不尽だなという思いがありました。厳罰化というのは『最後のとりで』としてあってほしいと思っています」
侮辱罪の厳罰化に、街の人は…。
街の人たち:
「人を傷つける行為やと自覚させるには、罪になるというのはいいと思います。軽々しくしちゃいけないことも分かると思うので」
「TikTokは結構、容姿とかに厳しい。悪口とかで自殺したりする人もいるので、それ(厳罰化)くらいしないと、みんなやめへんかなと思いました」
「難しいですよね。中傷は受け取り方次第と思ったりもするから、どこまでが中傷になるのか」
「正しくない発言も世の中にあふれているので、『これはおかしいぞ』ってことを書いたりする。(罪になる)基準が必要ですよね」
野党からは「政治家への批判も罪に問われる恐れがある」などと厳罰化への反対の声もあり、表現の自由が不当に制約されていないか、施行から3年後に検証することが付則として盛り込まれています。
侮辱罪の厳罰化で誹謗中傷はなくなるのか、また今後の課題は…。菊地幸夫弁護士に伺います。
菊地弁護士:
「これまでの拘留または科料というのは、非常に軽い罪なんですね。それに対して、改正後は懲役・禁固または罰金というのが追加されて重くなったということです。もう一つ、軽い罪だと時効期間が短くて、今までは1年。警察が腰を据えて捜査する時間もなかったのが、改正によって3年となり、少ししっかりと捜査をしようということもできて、警察も取り組みやすいようになります」
――拘留または科料の法定刑が残った中で、本当に重い罪がどこまで適用できるのかという点についてはいかがでしょう?
菊地弁護士:
「法律が改正になって罪が重くなった場合、前に同じようなことで処罰された人の罪と、重くなってから立件された人の罪、この間にうんと差が付くと、重い方の人から『不平等じゃないか』という声が出るかもしれません。厳罰化はいいんですが、どうやってこれから重い罪を運用していくのか、検察庁がどうやって裁判所に求刑をしていくのか、そこがポイントです。改正した意味がないとならないように。検察庁の腕の見せ所だと思います」
――今後、例えば被害者側の受け止めが重要となるのか、罪の重さはどうやって決まっていくのでしょうか?
菊地弁護士:
「そうですね、例えば回数や期間、誹謗中傷の内容、あとはダメージを受けた人が心療内科に通うようになってしまったのか、あるいは木村花さんのような悲惨な結末になったのかとか、そこを総合して判断するということになると思います」
――去年、インターネット上での侮辱罪の検挙数は38件にとどまっているということですが、これは減るでしょうか?増えるでしょうか?
菊地弁護士:
「重くなったことで、捜査機関が果敢に立件をするということになれば、増えるんだと思います。抑止効果が働くということだと、もしかしたら減る。これはいいことですが、どうなるのかはこれからだと思います」
――まだまだ課題もあるということで、もう一つのポイントについて伺えますか?
菊地弁護士:
「この罪はとにかく古いんですね。時代に合わせたルールで対策を強化してほしいと思います。今の侮辱罪は、公然とやらなければ罪になりません。例えばLINEやDMなどの1対1のSNSなど、公然ではないところでの誹謗中傷を侮辱罪で問うのは難しいのです。一方で、1対1の誹謗中傷でも大きな被害をもたらすというケースもありますので、それらも含めてどう対処していくのか。場合によってはまた法改正が必要なのか、今の時代にマッチした侮辱への対処というのが要求されているかと思います」
(関西テレビ6月15日放送『報道ランナー』内「菊地弁護士のニュースジャッジ」より)