万博開幕まで約1年半 建設業界では「延期したほうが…」とのささやきも 海外パビリオン建設の遅れが深刻 会場・夢洲の特殊性が外国で理解されず 大阪・関西万博 2023年07月21日
開催まで2年を切った大阪・関西万博。準備が進む一方で、「海外パビリオンの建設の遅れ」という大きな問題が浮上している。
大阪万博には約150の国と地域が参加を表明していて、各国が文化や技術を紹介するパビリオンを出展する。出展方法には、参加国が日本の建設業者などと契約して独自で建てる「タイプA」、博覧会協会が建てた施設を借りて、外装や内装に手を加える「タイプB」、その施設を複数の国と共同で利用する「タイプC」の3つがあり、参加国が選ぶことができる。
今、「建設の遅れ」が問題となっているのが「タイプA」のパビリオン。各国が趣向を凝らした豪華な外観のものが多く、まさに万国博覧会の“華”ともいえる。大阪万博でも約50の国が「タイプA」での出展を検討していて、すでに独創的なデザインを発表している国もある。
しかし、現時点で大阪市への建築許可申請は0件で、会場の夢洲で建設を始めている国はひとつもない。それどころか、そもそも多くの国がまだ建設業者を見つけられていない状況にあることが明らかになっている。背景には、資材の高騰や人手不足の問題、開幕までの工期の短さなどから、海外パビリオンの建設を引き受ける建設業者がいないことがある。
博覧会協会が提示した最後の切り札 「建設代行」
博覧会協会 石毛博行事務総長
こうした状況を受けて、博覧会協会は今月7日、参加国に対して緊急のオンライン会議を実施した。開幕までのタイムリミットが迫っていることを強調し、予算の上積みやデザインの簡素化を求めた。
この会議では、建設が間に合わない場合の“最終手段”として協会が「建設代行」をする案まで提示したという。「建設代行」となると、協会が建てた施設を利用する「タイプB」に近い形になる。個性的な「タイプA」パビリオンが減り、万博全体の魅力にも影響する。
会見で博覧会協会の石毛博行事務総長は「そういう案を出さなくてはいけないことになったのは、ちょっと残念」と述べた。最後の切り札を参加国に提示した動きには、協会側の焦りが見える。
関西経済連合会 松本正義会長
一方、「タイプA」での出展を検討している国の担当者は、取材に対し「まだお手上げはしたくないが、事態は非常に深刻」と不安の声を漏らした。関西経済連合会の松本正義会長は個人的な意見としながらも、「撤退する国もあるのではないか」との見解を示した。
大手建設会社の幹部「なるべくしてこうなった」
いったいなぜ、事態がここまで深刻化したのか。こうなる前に手を打てなかったのか。万博の建築に携わる大手建設会社の幹部は「急に出てきた問題ではない。なるべくしてこうなった」と話す。
当初、大手建設会社は海外パビリオンの建設に“やる気”だったという。取材に応じた幹部は、海外パビリオンの契約を目指して、去年の夏から大使館を回るなど積極的に営業活動をし、40カ国以上の担当者と会った。しかし、会議を重ねても、なかなか設計図が出てこず、進展がなかった。相手方に「夢洲という土地は特殊で、橋とトンネルの2カ所からしか車両の乗り入れができず混雑が予想される。通常よりも工事に時間がかかる」と焦りを伝えても、相手方はその事情をよく理解しておらず「通常の万博と同じペースで進めているから大丈夫」とマイペースな様子で、認識にずれが生じていたという。
今年の初めごろには「もうこれは間に合わない」と感じるようになり、会社の上層部からも「担当したパビリオンが開幕時に未完成であれば、会社の名誉に関わる。海外の案件には関わらないように」と言われ、最終的には手を引く判断をしたという。こうした状況の建設会社は複数あり、協会には、去年から「海外パビリオンが大変だ」と伝えていた。
しかし、動きは鈍かった。ようやく協会が動き出したのは、今年6月、日本建設業連合会の会長が「このままでは間に合わないのではないか」と発言した後だった。建設会社幹部は「双方の事情を聞き、調整するのが協会の役目だったのではないか」と指摘する。
「マッチング」は打開策となるかー
そこで協会が打開策として打ち出したのが、建設業者が決まっていない参加国と建設業者との「マッチング」だ。参加国が独自でパビリオンを建てる「タイプA」で出展できるよう、考え出された。10数カ国が順番にプレゼンをする形式で、興味のある建設業者が自由に参加するというスタイル。しかし、事前にどの国が参加するかといった詳細な情報は建設業者には伝えられていない。大手建設業者が「受けたくても受けられない」状況で、中小の建設業者には英語でのやりとりというハードルがある。このマッチングがうまくいくのかは不透明だ。
建設業者の間では、各国が望むパビリオンを建設するには、「1年延期が無難」という声まで出てきている。大手建設会社の幹部は「開幕日をずらさないのであれば、同じような外観の「タイプB」パビリオンが多く並ぶ、“スケールダウン”した万博になるのではないか。それでは万博の意味があるのか」と話す。
一方、博覧会協会の土倉会長は7月11日「何があっても間に合わせる」と明言し、大阪府の吉村知事も「開幕時期を遅らせるなんてことは、毛頭思っていない」と話している。開幕まで残された時間は少ない。運営側の適切なかじ取りに成否がかかっている。
(関西テレビ報道センター記者 沖田菜緒)