【記者リポート 大阪府寝屋川警察署 8日午前10時ごろ】
「動物に虐待した疑いが持たれている女の身柄が警察署に入ります」
大阪府寝屋川市にあるブリーダー業者「フィスドシェリ―」の代表・橋本千代子容疑者(57)。2016年から2022年までの間、病気やけがの犬10匹に対して、適切な保護を行わなかった疑いで、8日逮捕されました。
■元従業員が語る“ひどい飼育状況”「生まれて2日~3日の子が朝カチカチになって死んでいる」
【記者リポート】
「橋本容疑者が経営しているお店なのですが、中から犬の鳴き声が激しく聞こえます」
元従業員を取材すると、驚くべき実態が見えてきました。およそ2年前に働いていた女性が目撃したのは“動物虐待”そのものでした。
【元従業員Aさん】
「すごい臭いで、ふん尿まみれみたいな。真夏とか室温30度超えていたんで。中には暑さで熱中症みたいになって、吐いている犬とかもいたんで。ひどい飼育状況でした」
元従業員Aさんが撮影した店内の様子では、100を超える狭いケージに2匹ずつ、200匹以上の犬が飼育されていました。橋本容疑者からは「おとなの犬には1日餌を与えなくていい」という指示があり、やせ細った犬や新聞紙の上で息を引き取る犬もいました。
【元従業員Aさん】
「まだ生まれて2日~3日とかいう子が、朝カチカチになって死んでる。朝来たら5頭とか。犬が死んだら『あなたのせいで犬が死んだ』と言って、スタッフにお金を要求していたりしましたね。病院に連れて行ってくれと(橋本容疑者に)言っても、『まあ大丈夫やろ』みたいな感じで病院に連れて行かない。ひどい以外の言葉が見つからないくらいですね」
しかし、一方では…
【元従業員Aさん】
「SNSの更新には力入れていましたね。犬を洗って写真を撮ってアップしろ、アップしろって。写真撮る一瞬だけきれいにしている感じです。死んでいる犬がおるのに、そんなんしている暇ないっていう話をしても、『犬が売れないと、犬が売れないと』という事しか言ってなかった」
橋本容疑者から繁殖を終えた犬を引き取った女性は、骨折したり、病気になったりしても、放置されたままの犬が多かったと証言します。
【犬を引き取った女性】
「半数は重症、重病。健康で体格もちょうどいい子は一匹もいなかった。『スピカくん』っていうんですけど、足が後ろに向いていたんですよ。ぐりっと180度後ろに向いていて。3年前に落とされて、足を骨折してたんですって。ほんまに犬のことを“モノ以下”やと思ってるなって」
■“多頭飼育崩壊”となり、犬が次々と死ぬ事態になったとみられる
SNS上の“表の顔”からは想像できないほどの飼育状況。いったいなぜ、犬が次々と死ぬような事態になったのでしょうか。
【元従業員Aさん】
「発情が来るたびに(交配を)かけて、どんどん子犬を産ますってことをやっていたので。人数が足りなくて世話が行き届かないっていうのと、過密飼育しているので、一回伝染病とか感染症にかかると爆発的に感染するんですよ。医療にもまともにかけていなかったので、どんどん子犬が死んでいった。帝王切開が本当は必要なのに放置されて、赤ちゃん半分出てぶら下げたまま歩いている子犬とか。その赤ちゃんももちろん死んでいて」
【元従業員Aさん】
(Q.橋本さんは何て言っていた) 「『あーあ』だけです。『この子いくらで売れたのに』って」
売り上げのために何度も繁殖させ、12年前には30匹だったのが、1年前には400匹を超え、いわゆる“多頭飼育崩壊”の状況になっていたとみられます。この状況を放ってはおけないと、Aさんはタレントの杉本彩さんが代表をつとめる動物愛護団体に相談し、団体は去年、橋本容疑者を刑事告発しました。
■関西テレビ取材班は逮捕前の容疑者を直撃「うちじゃないねん」
動物虐待はなかったのか?逮捕前、橋本容疑者に直接話を聞きました。
【橋本容疑者】
(Q.餌を与えていないとか、病院に連れて行かないと聞いている) 「それは(刑事告発した動物愛護団体)Evaさんに聞いて。そんなんしてたら捕まるやろ」
(Q.事実としてはない) 「ないない。ちゃんと病院にも行ってるし、医療費もやばいくらい。どこいったかな。ほんますごいよ。だからそんなんも(警察は)ちゃんと調べてくれていると思うよ」
告発状によると半年間で死んだ子犬は約100匹にも及びますが、これにも橋本容疑者は思わぬ持論を展開しました。
【橋本容疑者】
(Q.半年間に100匹死んでいた) 「それは私も言われへんねんけど、うちじゃないねん。似た名前のお店があって、私が経営しているお店じゃないねん。それも誤解されていたみたいで、警察の人にちゃんと言っているから大丈夫」
(Q.それはなんていう名前の店) 「それは言われへん」
(Q.フィスド…?) 「知らない、分からない。誤解だったから。私もびっくり。え?って感じ」
■行政へ通報するも、すぐには状況が改善されず
従業員たちはこれまで何度も大阪府に通報しましたが、状況は改善されませんでした。なぜここまで放置されたのでしょうか?
【元従業員Aさん】
(Q.働いているときに(行政の)立ち入りの調査は?) 「ありました。立ち入り調査の内容までは全然知らないんですけど、立ち入る時に犬を隠せって、指示出してましたね。なんか犬を移動させて見つからないようにってごまかしたりとか。行政の方が来たら居留守使えとか、鍵閉めとけとか」
(Q.指導を受けて改善される時とかっていうのはあったんですか) 「なかったです。誰かが通報したっていう犯人捜ししていましたね」
調査について大阪府に取材すると、「一般的に行政の調査は“任意”のもので、警察などの強制捜査の権限はないため、拒否された場合はそれ以上追及することはできない」
橋本容疑者は立ち入り調査について、
【橋本容疑者】
「警察も保健所も来て、疑いがあるからって。知ってるやろ?立ち入り検査入ったの。でもみんなめっちゃきれいやし、かわいいし、人懐っこいし、ぷくぷくやし、痩せているような子もおらんやん。そういうふうに聞いたから来たっていわれるけど、警察も獣医さんも見られて…」
(Q.立ち入り検査で見えないところに犬を置いたりは) 「ないない。ほんまない」
■動物愛護団体の代表をつとめる杉本彩さん「行政の不作為」と指摘
動物愛護団体の代表をつとめる杉本彩さんは、行政がもっと積極的に介入すべきと指摘します。
【杉本彩さん】
「行政はきちんと権限を持ってる。勧告を出して、(改善)命令出して、その後、業の取り消しができるっていう権限を持っているで。明らかにもう虐待であり、環境省令にも違反している。これはできるのにやってない。明らかなる行政の不作為」
橋本容疑者は警察の調べに対し「病院にも連れて行っていたので、『適切な保護を行わず』という部分に納得いきません」と容疑を否認しています。
動物虐待の検挙数は去年、過去最多に。いったいどうすれば悲しい事件が繰り返されずに済むのでしょうか
(関西テレビ「報道ランナー」2月8日放送)