■暴走する重機が歩道に… 下校途中に奪われた娘の命
生まれつき聴覚に障害があった、井出安優香さん。
4年前の2月1日、わずか11歳で命を奪われました。
【安優香さんの父親・井出努さん】
「あれから4年が経って、ちょうど生きていたら、中学卒業なんだなと思いますね」
事故は、聴覚支援学校から帰るときに起きました。
歩道を歩いていた安優香さんは、突然突っ込んできた重機にはねられました。
重機の暴走の原因は、運転手の男がてんかんの発作を起こしたこと…。
病気を隠して運転免許を更新していたことがわかり、刑事裁判で懲役7年の判決が確定しています。
安優香さんは生まれてすぐ、医師に「言葉を話すことは難しい」と言われていました。
でも、努力を重ね、人前で堂々と話せるようになっていました。
【井出安優香さん】
「赤組・白組の思いのこもった迫力ある応援をご覧ください」
運動会では、みんなの前で精いっぱい語りました。
【井出努さん】
「声もスマホに残ってるんですよ」
【安優香さんの母親・さつ美さん】
「楽しみにしているからね、みたいな」
【スマホから聞こえる安優香さんの音声】
「今度は楽しみにしているからね」
【井出さつ美さん】
「そうそうそうそう、これこれ」
■娘の命は…両親を苦しめる“逸失利益”の考え
両親は娘を成長のさなかに奪われたうえに、過酷な現実に直面しています。
【井出努さん】
「娘の11年間の努力、家族一緒になって努力をしてきた。今度は民事裁判で、これだけ頑張ってきた娘を侮辱する…娘を2度殺されたという気持ち」
井出さんが損害賠償を求めて起こした民事裁判で、被告の運転手などが出してきた主張は思いも寄らないものだったのです。
賠償額を決める根拠となるのは「逸失利益」=事故にあわなければ将来得ていたはずの収入です。
井出さんは、安優香さんの逸失利益について「全ての労働者の平均賃金」をもとに計算するべきだと主張しています。
しかし、被告側は安優香さんの聴覚障害を理由に、逸失利益は全労働者の平均賃金の約6割の「聴覚障害者の平均賃金」で計算するべきだと主張。
司法の世界では、ほとんどの障害者の逸失利益は、全ての労働者の平均よりも低く認定されているのです。
■努力重ねた娘の11年 「証明」を求められ…
今も、4年前と変わらない部屋。
安優香さんは障害がない子どもと同じように、一生懸命勉強してきました。
【井出さつ美さん】
「安優香らしい、なんかほっこりする文章書いてるなと思って。『かき氷、食べたら冷たくてさらなり、頭が痛くてわろし』とか。(頭が)キーンてするからね、かき氷。安優香らしい発想やなって思って、なんかほっこりするでしょう」
両親は裁判で、安優香さんに「健常者」と同等の学力があったことなどを証明するために、勉強に使っていたノートなどを証拠として提出していますが、もどかしい気持ちを抱えています。
■遺族を苦しめる「逸失利益」の考え 専門家も…
【井出努さん】
「娘を奪われた精神的な苦痛は遺族の方にしかわからない気持ちだと思う。そこに輪をかけて、自分の娘がどういう子だったか証明しろって言われても、ほんとどん底ですよね。逸失利益という言葉自体がなければ、ややこしい民事裁判はないのかなと思ったり…」
傷ついた遺族をさらに苦しめている“逸失利益”。
司法の専門家も、この考え方には限界があると指摘します。
【立命館大学・吉村良一名誉教授】
「逸失利益は、人の価値の平等という点から見たら違和感がある。そんなのおかしいから根本から変えなさいという論文を学者は書くが、残念ながら裁判官は受け入れない。裁判所の判断のよりどころになるのは憲法であり法律だが、もっと広く言えば社会の人々がもつ法意識です。『そんなのおかしいね』と思うかどうか。もし安優香さんの裁判で平均賃金から減らすという判断をするなら、裁判所の良識を問われると思う」
■奪われた努力と将来 4年経っても…
4年が経っても、安優香さんを想う人がたくさんいます。
【井出さつ美さん】
「ことしもお花送ってくれたよ…きれいね。安優香のイメージカラーや、また同じ色を送ってくれてるわ」
どうして、障害があることで、将来を否定されてしまうのか。
どうして、残された家族が、苦しまなければならないのか。
安優香さんの努力を認めてもらうために…それが、両親が裁判を戦う理由です。
【井出努さん】
「『どうして?安優香が悪いの?』と幻聴とも言える娘の声が耳から離れません。娘の11年間の努力と将来を否定され、私たち家族の精神的苦痛は増すばかりでした。…安優香、もう少しの間パパに力を貸してください」
(2月1日放送)