ここでノリの養殖をしているのは森本明さん。
この道35年のベテランです。
【森本明さん】
「一枚の網で900~1000枚ぐらいついている。5回摘んだ後、これから6回摘みになるんで大きな葉っぱになってます。巻きずしには適してます。節分にはぜひこのノリで」
冬から春にかけて行われるノリの養殖。
今まさに最盛期を迎えています。
しかし・・・
【森本明さん】
「これがダメな網です、摘んだ後じゃないの。これ」
網にびっしりとついているはずのノリが、まるでバリカンで刈られたかのように、すっかりなくなっているのです。
【森本明さん】
「以前も(こういうケースが)あったんですけど、ここ近年がひどいですよ。この10年ぐらいどんどんひどくなってますね」
実はここ数年、ノリがなくなる被害が続いています。
兵庫県はノリの生産量が全国3位と、大きなシェアを誇っていますが、20年ほど前と比べてノリの収穫量は2割減っています。
【森本明さん】
「今季3,500枚の網を張ってるんですけど、そのうち300枚ぐらい、1割位がああいう形の網になってます。なんとも言えないですよね、言葉に表せないです」
ノリが消えた理由を探ろうと、兵庫県の水産技術センターが調査に乗り出しましたが、研究員も頭を悩ませます。
【兵庫県水産技術センター・高倉良太さん】
「だいぶ前からノリの栄養塩の問題、栄養が低下して色落ちが発生したり、冬場高水温になってノリの漁期が短縮してしまうことで生産枚数がおちてきてたんですけど、刈り取る直前になるとノリが短くなってるという現場の感覚があってその原因がわからなかったんですね」
そこで、ノリ棚の下に水中カメラを設置。
すると、なにやら黒い大群が…
育ち始めのノリをむさぼるように食べる様子が映っていたのです。
この正体は「クロダイ」。
通称「チヌ」と呼ばれるこの魚、ちょっとやっかいものです。
【森本明さん】
「ちょっと伸びてきたらチヌにやられる、クロダイに食べられちゃうねん。いつえさを食べるのかいつ寝ているのかどういう集団で動いているのか、生態が分からないですね」
チヌが原因ならば、捕まえようと動いたのが、地元の釣り名人たちです。
【釣り名人】
「チヌ見たことある?きょう見れたらうれしいな」
集まった腕に覚えのある名人たち、しかし、なかなか釣れません。
実はチヌは目がよく、網や餌を見分けるというのです。
釣り開始から5時間。
ようやく1匹釣ることが出来ました。
この貴重なチヌを急いで研究者たちのもとに運びます。
今回の釣り作戦の目的は、駆除ではなく生態調査のためだったのです。
【高倉良太さん】
「麻酔液を溶かし込んでいます、眠った状態になる」
3センチほどの小さな発信機を埋め込み、海中での動きを調べます。
しかし、昔からこの辺りにいるチヌが、なぜ急にノリに影響を及ぼすようになったのでしょうか。
瀬戸内海では、水質の改善が進むのと同時に海水の栄養分が減り、チヌのエサとなる貝やノリなどが減少。
また、冬場の海水温が上昇したことで、ノリの収穫期にチヌの活動量が増えたことなどが要因とみられていますが、その実態はまだ分かっていません。
そこで水産技術センターなどが発信機を埋めたチヌおよそ20匹を海に放流し、行動を調べることになったのです。
【高倉良太さん】
「手術したてなんですけど元気そうだったんで大丈夫やと思います、受信機を設置している場所で受信を記録できるのでここに放流してます。あとは拝むのみです」
そして2カ月後、ノリ棚に設置していた受信機を引き上げます。
【高倉良太さん】
「ぎょうさんきてるわ」
そこに記録されていたのは・・・
【高倉良太さん】
「このあたりに居ついているクロダイが、ノリ網を張った段階で見つけて食べに行っているんだろうなという感じ」
チヌが、ノリの養殖が始まる時期を狙うように移動してきていることが分かったのです。
【高倉良太さん】
「ノリを食べにくる時間帯や環境条件と照らし合わせて、時間帯場所だったりが分かるとその場所を狙って、積極的に捕獲したりとか。あとはノリを食べに来る時に、寄って来ないように対策打てないかな、ということを考えています」
習性は少し明らかになってきましたが、ノリを守るためにできることは限られています。
【森本明さん】
「危機感ですよ危機感。周りの仲間たちがノリ取れんわ。『こんなんじゃやってられん』と辞めてく人が増えてますんで。今まで海にお世話になったので、この海の環境を豊かな海を作るのが僕の仕事やなと思ってます」
漁を続けられる豊かな海を作るため模索が続きます。
(カンテレ「報道ランナー」1月26日放送)