自治体やメディアから、感染の中心地として名指しされてきた「夜の街」
大阪・ミナミも、この1年の半分以上、時短営業を求められてきました。
【大阪府・吉村洋文知事】
「社会経済に与えるダメージを最小化しながら感染症対策を最大化する」
口にするのは簡単だけど、答えの見えない難題に“夜の街”に生きる人たちの本音は?
【キャバクラで働く女性】
「結局ミナミのお店でしょって言われたら、おしまいなのかなって」
午後5時。接待飲食の店が立ち並ぶ宗右衛門町で取材を始めました。
■売り上げ9割減…30年営業を続ける老舗ヘアサロン「厳しい状態が1年続いている」
【新実彰平キャスター】
「こちらのサロンですね、出勤前の接客業の女性が髪をセットしに来られるそうなんですけども、ちょうどいらっしゃいますね、お客さん」
訪ねたのは、30年近く、この街で営業してきたヘアサロンです。
【新実彰平キャスター】
「コロナ流行りだして1年ですが、今どんな状況ですか?」
【ヘアサロン Y`s DU SALON 田端欣哉店長】
「何も変わらない状態ですね、お客さんは増えてないので、厳しい状態が1年間続いてます。時短がちょっとやわらげば、若い人は飲みに来たり、この界隈は飲み屋さんが多いので、飲みに来て少しは増えるけども、お金持ちや企業のお客さんは飲みに来られないので、クラブやラウンジなどは厳しい状況で、うちはセットサロンで、そういうお客さんを対象にしてるので」
売り上げは9割減。毎月40~50万円の赤字です。
周りでは廃業する店も多い中、借金をして、なんとか営業を続けています。
【新実彰平キャスター】
「セットは毎回されてるんですか?」
【スナックで働く女性】
「そうですね。ちゃんとセットしたのは、今週からですね。ちょっと時間が伸びたから、セットしないとダメ。コロナの時には、お客さん少ないからセットしなくてもいいけど、今ちょっと時間伸びたから、ちゃんとセットします」
【新実彰平キャスター】
「前に、8時まで閉めてたときの話ですか?」
【スナックで働く女性】
「そうですね」
【新実彰平キャスター】
「お客さんが少ないと髪の毛セットせずに接客しようとなるんですね、ちょっとそれ発想になかったな、そうなると、こういう業種もコロナで苦しい思いをすると」
■飲食店の関連業種にも打撃…30年続く老舗花屋「見捨てられた感がある」
境に立たされている飲食店の関連事業者は、ヘアサロンだけではありませんでした。
30年以上続く、老舗の花屋。
キャバクラやクラブなどに客が集まらない影響で、一時期は、売り上げが9割も減りました。
【フラワーショップ マミー 尾崎宏仁店長】
「満額補償とかは思わないんですよね。ただ、ちょっとでも補償していただければ。見捨てられた感があるんですよ」
【新実彰平キャスター】
「我々も、飲食業に派生する業種がしんどいというのはさんざんお伝えしてるし、分かっているので、必要性については申し上げるんですけど、いざ制度を作る時に、線引きはどこに置くんだという、どこまでが関連事業者なんだとなった時に、居酒屋がしんどくなったら、じゃあ魚屋さん、その先にいる漁師さんとなったときに、制度作りが難しいんだろうなと思うことがあって」
2021年に入って、ようやくできた関連事業者への給付金30万円も、1カ月の家賃分にしかならないといいます。
生花店で取材中、今のミナミを象徴する光景に出会いました。
【東京からきた客】
「老舗のクラブのママさんなんですけど、きょうでお店を閉めるというので、お疲れ様の意味でお花を持っていこうかなと思いまして」
最近は、閉店してしまう店への“最後の注文”も多いそうです。
【生花店 フラワーショップ マミー 尾崎宏仁店長】
「出てきてもらわないと商売にならないけど、出てきてもらったら、そこがもやもやとするところですよね。だから笑って我慢できるところまで頑張って、いけるとこまでいって、あかんかったら手をあげないと仕方がない」
■キャバクラで働く女性…収入ゼロで昼の仕事も「結局ミナミのお店でしょって言われたらおしまい」
【新実彰平キャスター】
「道頓堀の飲食店街のエリアですけども、午後7時になって人通り増えてきましたね。金曜日の夜なんですけども、それにしても、結構お食事に行かれるんだなという印象ですね」
2度目の緊急事態宣言が解除され、街には人が戻りつつあります。
しかし、たださえ浮き沈みの激しい夜の世界。
生活そのものを変えなければならなかった人も、少なくありません。
ミナミのキャバクラで働く、いぶきさんに話を聞きました。
【新実彰平キャスター】
「ご自身の収入や生活は、どういう状況だったんですか?」
【キャバクラで働くいぶきさん】
「一気に、ぱたっとなくなったので、正直困りました。」
【新実彰平キャスター】
「完全にゼロ?」
【キャバクラで働くいぶきさん】
「ゼロです。特に保証が出るとかでもないので、完全にゼロになって、あとは貯金崩したりとかするしかないです」
時短要請を受け、働いていた店は1年の半分近く休業。
生活費を稼ぐために、昼の仕事もはじめました。
店は3月から、感染対策をとって通常営業を再開しましたが、先の見えない状況に耐えられず、風俗店で働き始めた同僚もいるそうです。
【新実彰平キャスター】
「これぐらい長期にわたって閉めてる店は、どれぐらいあるイメージですか?
【キャバクラで働くいぶきさん】
「1割2割だと思います。マスクしなかったりとか、通常の営業、通常通り特に対策もしてないとか、消毒だけとか、というのも全然あると思います。インスタグラムを見たりとかすると乾杯して、そのままイェーイみたいな感じ」
同じ「夜の仕事」でも、店ごとに感染対策の度合いが違うことに、いぶきさんは複雑な心境を抱えていました。
【新実彰平キャスター】
「対策とってない店とある意味でひとくくりにされることについてはどう思いますか?」
【キャバクラで働くいぶきさん】
「悔しいのもありますし、長い目で見たらあとから見たらよかったと思うかなのも半分はあります。コロナが出たお店というレッテルは張られないじゃないですか」
【新実彰平キャスター】
「なんとかそういうお店に何かインセンティブというか、ほかと違う扱いって出来ないのかなって思いますよね」
【キャバクラで働くいぶきさん】
「結局ミナミのお店でしょって言われたらおしまいなのかなっていうのもありますし、ほんとに地域でミナミが(感染者が)多いというのは事実じゃないですか、対策どれだけしてても、一概に不満ばっかり、言えないかなというのは正直あります」
■シャンパンコールは手拍子や振り付けのみ…ホストクラブ社長の苦悩
【新実彰平キャスター】
「午後9時になりまして、道頓堀の飲食店街、ぽつりぽつりと時短営業に応じるお店が店を閉め始めています、まさに撤収の作業をされていますね」
一方、道頓堀を挟んで一本北側、接待飲食の店が多い、宗右衛門町では…
【新実彰平キャスター】
「まだまだこの時間も客引き、キャッチが道路脇に立っていますね、マスクをせずに、という人も多いよう見うけられます」
協力金をもらったとしても、家賃にも満たないため、時短要請に応じていない店も多いようです。
従業員が、新型コロナウイルスに感染したというホストクラブを取材することができました。
【ホストクラブAi For You 美神拓哉社長】
「(従業員が)熱が37度以上あったら、必ずPCR受けに行かせさせてたんで、たぶん38度ぐらいあったんかな、それで受けさせにいったら陽性やったんで、その日から営業止めて。その後も、何人か、個別では出たんですけどね、数人。そこからまた全員で(PCR検査)受けに行って、消毒いれたんですけど、結果は店内感染なかったので」
2020年の夏以降、従業員約20人のうち5人が感染しましたが、対策をしていたこともあってか、幸い店内でのクラスターは確認されませんでした。
今でも、感染の不安は残ります。
しかし、従業員の生活のため、店を開けざるを得ません。
【ホストクラブAi For You 美神拓哉社長】
「6万円給付金出た時に、30日丸々頂いたとしても家賃なんですよ、結局は維持も出来なくて、その他経費もかかるので。本心では(時短要請を)守りたいと思ってるんですよね、正直。やっぱり広がってしまって、どうなるか分からへん。コロナって未知じゃないですか、だからどうなるか分からへんのは分かるんですけど、だからって、いまいる仲間というか従業員がご飯食べられなくなってしまうとかは、どっちをとるのか天秤にかけてたら、もちろん従業員だと思うんですよ、開けてる店はそういう方が多いのかなと思うんですけど、従いたい気持ちはあるが、現実問題従われへんなというのが本音ですね」
ホストクラブの代名詞、シャンパンコール。
これまでは全員で大きな声を上げ、回し飲みをしていましたが、今はマイクを持ったスタッフだけがコールをかけ、ほかのスタッフは手拍子や振り付けで盛り上げる形に変えました。
【新実彰平キャスター】
「(コロナ前と)シャンパン入れた時の気持ちは変わった?」
【客】
「変わらないです。掛け声もそうですけどパフォーマンスとかで見ると、笑顔でやってくれたりするので、全然それは楽しんでやってます」
【新実彰平キャスター】
「もっとわいわいしたい気持ちは」
【客】
「ありますけど、今の状況で言ったらこれが一番かなって」
【ホストクラブAi For You 美神拓哉社長】
「もともと水商売って後ろ指さされるので、今回のことも水商売とか夜の街でひとくくりにされたのも、水商売ってそういうイメージなんやなというのが強かったので、それも仕方ないのかなって思うんですけど、やっぱり寂しいは寂しいです」
簡単に答えを見出すことのできない、“感染対策”と“社会経済”の両立。
そのはざまで、“夜の街”の人々は生きています。
(カンテレ「報道ランナー」 3/29放送)