2022年11月16日(水) 深夜3:00~3:55
2022年5月20日(金) 深夜1:25~2:25 放送(初回放送)
罪の行方 ~神戸連続児童殺傷事件 被害者家族の25年~

罪の行方 ~神戸連続児童殺傷事件 被害者家族の25年~

受賞

日本民間放送連盟賞 テレビ報道番組・優秀賞

内容

神戸市で5人の小学生を殺傷し、14歳の「少年A」が逮捕された神戸連続児童殺傷事件。
少年法改正のきっかけとなったあの事件から、今年で25年になる。
殺害された土師淳君の父親にとって「犯罪」と向き合うだけではなく、あらゆる局面で闘いの日々だった。
罪の行方 ~神戸連続児童殺傷事件 被害者家族の25年~
罪の行方 ~神戸連続児童殺傷事件 被害者家族の25年~
罪の行方 ~神戸連続児童殺傷事件 被害者家族の25年~
淳君(当時11歳)の父・土師守さん(66)はこうふりかえる。
「事件がなければ恐らく普通に家族で年老いていくという状況だったと思うんですけど、事件のために生き方そのものに、大きな変化があったというふうに思います」
当時は、「犯罪被害者の権利」という概念が全くなく、少年事件では被害者は完全に蚊帳の外だった。遺族なのに何も知らされないという異常な状況で、二重にも三重にも苦しみを味わった。
そんな状況の中、土師さんは「理不尽」と思ったことには、正面から声をあげてきた。事件後の人生は、被害者の権利を獲得し、少年法の改正を求める活動に多くの時間が割かれてきた。
土師守さん
加害者は7年で社会に戻った。ある時期からは毎年、遺族に手紙を届けてきた。それに対し、土師さんは手記で感想を述べ、それが「元少年A」と土師さんの唯一の意思疎通であった。手紙の内容は年々深まってきていた。2015年には膨大な分量の手紙が届き、土師さんはそこに遺族にだけにむけた彼の「贖罪」の気持ちをうけ止めようとした。
「悪意じゃなくて、できるだけよく良く理解しよう。そう考えながら読んでいました」
しかし、その翌月、土師さんを驚愕させ激怒させる告白本が出版される。
「手紙は本を書いた後に圧縮したのか…」
遺族がそう思っても仕方のないことだった。これを機に遺族と彼の関係は断絶された。

「私たちも裏切られた気持ちでいっぱいです」
そう語るのは、少年Aの手紙を遺族に取り次いできた羽柴修弁護士だ。
事件直後から少年Aの両親の代理人をしている。2005年の本退院後、一度も面会できていない親子間の関係修復を目指し、被害者への損害賠償の支払いなど、神経の磨り減る役割を担ってきた。この25年のサポートはすべて無償だ。
「色んな人が彼にかかわってきたことをわかってくれているのか……」徒労感を滲ませる。
羽柴修弁護士
誰もがあすの被害者になる恐れがある。少年犯罪に巻き込まれることもある。
自分が辛い思いをしたからこそ、土師さんは今も活動を続けているという。
罪の行方 ~神戸連続児童殺傷事件 被害者家族の25年~
人生で地獄をみた犯罪被害者が自ら闘い、多くの制度、法律がこの25年で変わった。
そして神戸連続児童殺傷事件を知らない若い世代も増えた。
変わったもの、変わらないものがあるなかで、土師さんの少年法に対する思いはどう変わったのだろうか。
罪の行方 ~神戸連続児童殺傷事件 被害者家族の25年~
罪の行方 ~神戸連続児童殺傷事件 被害者家族の25年~
「少年法は被害者遺族の更なる犠牲の上に成り立っている法律であるということは最低限、理解しておいてほしい」
25年たった今も、土師さんの口からは昔と変わらない言葉が繰り返された。
この言葉を社会はどう受け止めるのだろうか。
罪の行方 ~神戸連続児童殺傷事件 被害者家族の25年~

ナレーター

大東 駿介
大東 駿介
「罪の行方」ナレーション収録を終えて

Qこの事件のことは覚えていますか?

僕は殺された男の子、淳君とは同じ年齢だったので、当時は被害者側、殺される側の立ち位置で恐怖を感じていましたが、月日が経って今、親の立場からこの事件を見返したときに、本当になんとも残酷で、痛みがすごいです。

「罪の行方」というタイトルですけど、被害者だけではなく、残された家族の命、人生もどこに行くのか、その後も続いていく家族の命はどのくらい消耗して、あの時からすべてが変わってしまったのか…。
あまりにも事件がショックだったから、事件そのものに目が行きがちですけど、いまも闘っている人がいる…というのを、番組を通じて知れてよかったし、知るべきことだと思いました。

Q遺族の土師守さんの闘いはどう見ましたか?

本当に計り知れない怒りと悲しみがあったはずなんですけど、怒りをただぶつけて、誰かを傷つけたり、自分を傷つけたりとかではなく、法律に対して挑むという、ちゃんと次につなげていくことが、本当に…すごいと感じました。
この番組の中でも言っていますけど、僕たちもいつ犯罪の被害にあうか分からない、当事者になるかもわからない。まだ被害にあっていない僕たちは、犯罪被害者予備軍というような立ち位置でもあると思います。
被害に遭った人が、自分達には何の恩恵もないのに、次に被害にあう人が自分達のように苦しまないために活動してくれているということ。
このドキュメンタリーで知って、次に自分に何が出来るかとすごく考えました。
僕たちも他人事ではないと…。
このドキュメンタリーを見て知ってもらう事が、ひとつ前進することになるのではないかと思っています。

スタッフ

撮影
:工藤雄矢
編集
:野上隆司
ディレクター
:柴谷真理子
プロデューサー
:江口 茂