ザ・ドキュメント

2011年2月12日(土)午前 9:55~10:50

語り

門田裕(関西芸術座)

企画意図

人はたまたまそこに生まれ、あるいはその場所にやってきて人と巡り合い、そしてまた仕事と巡り合い、生きている。
大きな災害や社会の変化に翻弄されることもあるが、多くの人の場合、そんな時代のうねりの中でコツコツと働き、日々暮らしていくことのほかにやりようがない。時に「仕方ない」とつぶやきながら、自分に与えられた場所で自分がした選択から逃げずに生活する…そんなどこにでもある日常にこそ、見つめるべき輝きもある。
兵庫県明石市にある小さな酒蔵の酒造りの日常を通じて、そこに働き・暮らす人々の人生模様を追う。

番組内容

明石市西部の江井ヶ島は、神戸の灘とともに、酒造りが盛んなところで、「西灘」とも言われ、かつては播磨灘を見下ろす海の近くの高台に酒蔵が立ち並んでいた。
その江井ヶ島に、たった三人で酒を造っている酒蔵がある。納得できる酒造りを厳しく追及する田中社長。社長の激しい気性に振り回されながらも、明るく蔵を支える妻、「ナナさん」。そしてたった一人の従業員、「ウエキ」。ウエキはこの蔵で働くことを決めたあと、社長のあまりに激しい気性を知って後悔し、逃げだしたこともあった。「社長が怖い」と思う気持ちは今も消えず、普段は社長の目を見てしゃべることもできないが、この蔵で酒を造って生きていくことは心に決めた。
幼いころからこの蔵で育った6代目当主の社長。42歳で社長と結婚するまでは、東京で働いていたナナさん。高校卒業後に自衛隊に入り、その後は海外での生活やフリーターも経験、自分探しの末に蔵にやってきたウエキ。性格も生い立ちも、蔵で働くようになった経緯もバラバラの三人だが、この蔵での酒造りを守っていきたいという思いだけは共通している。

江戸時代からの長い歴史を誇るこの蔵だが、16年前の阪神大震災では大きな打撃を受けた。建物の損壊具合もひどかったが、主な販路だった神戸市内の経済の落ち込みによる売り上げの激減や、メインバンクの破たんの影響がより深刻だった。経営が行き詰った6年前には、あるベンチャー企業に買収された。取り壊されてマンションになるという道もたどりかけたが、社長の必死の抵抗や酒蔵のファンの支援で何とか存続した。ただ、ベンチャー企業から蔵を買い戻す際に、1億3千万円の借金ができた。蔵の存続のためには、なんとしても月々およそ150万円の返済を滞らせてはならない。しかしこの蔵は、儲け主義に走った安易な酒造りは許さない。良い材料を用い手間暇をかけてまじめに作った酒こそがこの蔵を支えるというのが社長の信念だ。

古い木造の蔵では、昔ながらの酒造りが頑固に進められている。未明の寒さの中で米を蒸す甑(こしき)から湯気が上がる。蒸しあがった米をほぐす三人の姿。麹造り、三段階の仕込み作業…、酒造りは冬の深まりとともに進む。そして酒槽(さかふね)での搾りで今季最初の酒が滴り落ち、三人に喜びの表情が浮かぶ。借金があっても、仕事が地味でつらくても、華やかさがなくても、時々怒ったり怒られたりしてしょんぼりすることがあっても、このものづくりの喜びがあれば何とか寄り添って行ける…そんな三人の酒造りを見つめる。

スタッフ

撮影:平田周次
編集:片野正徳
MA:中嶋泰成
効果:萩原隆之
ディレクター:豊島学恵
プロデューサー:土井聡夫
制作著作:関西テレビ放送

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