2005年5月26日(木)
御崎の春

御崎の春

企画意図

兵庫県但馬地方の海沿いの町、香美町。90年以上前に造られた巨大な鉄橋として知られる余部鉄橋から4キロほど山道を行くと、断崖にへばりつくように小さな集落が現れる。およそ800年前、壇ノ浦の闘いに破れた平家の武将たちが辿り着き、住み着いたとされる「御崎」地区である。
わずか18世帯、70人あまりの小さな集落だが、小学校の分校もある。集落の真下の海には、定置網が仕掛けられている。急斜面一帯に植えられているのは山椒だ。御崎では代々、男たちの多くは漁師を生業とし、お年寄りらは山椒を栽培してきた。集落のてっぺんには、平家の先祖を祀った神社がある。人々は毎朝当番で、のぼりを担いで参拝する。
冬は大雪に見舞われ、強い潮風が吹きつける過酷で不便な地。ここで、人々は畑を耕し、魚を獲って、互いに支えあいながらむらを守ってきた。雪が溶けると御崎は、この地にしか生えないといわれる「平家かぶら」の黄色い花で覆われる。山椒の木の芽の出荷が始まる、一年で最も慌しい季節である。
豊かな自然の中で育つ分校の6人の子ども。漁獲に一喜一憂し、酒を飲んでくだを巻く漁師たち。ブツブツぼやきながら笑顔を絶やさない老夫婦。春を迎えた御崎で、そこに息づく人々の何気ない日々を見つめる。