東京駐在のカンテレ記者が、キーパーソンに取材するWEB特別レポート。
今回は、厚生労働委員長に就任した衆議院議員の渡嘉敷奈緒美氏です。
薬剤師の免許を持ち、現在4期目。
臨時国会の所信表明演説で菅首相は、来年前半までに全国民に新型コロナウイルスのワクチンを確保すると語りました。そのカギとなるのが、「予防接種法の改正案」です。法案が審議される予定の厚生労働委員会で「行司役」となる委員長を務める渡嘉敷氏に訊きました。
菅首相 「ワクチンを来年前半までに全国民に提供 無料で接種」
――Q:なぜ今、法改正が必要なのですか。
この改正案は、新型コロナウイルスのワクチン接種を市町村が行い、その際の費用を国が全額負担することや、ワクチン接種で健康被害が生じた場合の損害賠償を政府が肩代わりするものです。
新しい病に対して、急いで開発をしてワクチンを作るわけです。当然、速度を速めている分リスクも出てくるわけで、そのリスクをちゃんと国が背負っていきましょうよということで、法整備を進めるわけです。
今回、とにかくワクチンを多くの方になるべく打っていただきたいということで、努力義務にはなるんですけれども、なるべく多くの方に打っていただけるような環境をしっかり整えておこうということで、無料にするということですね。
その代わり、万が一副反応が出てきたときのフォローアップをきちっとしておきましょうということで、今国が持っている制度の中では、最上級のものをきちっと用意させていただくということです。
ただ、打つかどうかの最終の意思決定は、ご本人にしていただかないといけないので、ご本人に意思決定をしていただくための情報提供をどうするかとか、その辺も今後考えていかないといけないと思っています。
――Q:副反応についてはどのように考えているのか
全員に出るわけじゃありませんが、薬というのは、副反応がセットで起こる可能性があるものなんですね。体に異物を入れるので、そのリスクがあるんだっていうことを知ってほしい。ただ国としては、今回メリットの方が大きいから推奨させていただきますということなんですね。
仮に基礎疾患を持っているなど、ご本人がメリットよりもデメリットの方が大きいんじゃないかと思った場合は、打たないという選択肢もあります。人によって事情は違うので、そのあたりの自由度は残した法案になっています。
――Q:リスクのないワクチンはない。
薬には、副反応がつきものなんです。それが、どれくらいの割合で出てくるのか分からないということと、今回、かなり慌てて急いで開発しているということもあるので、当然普通の薬やワクチンよりもリスクが高くなる可能性があるんですね。
だから製薬会社が、全ての責任を負わないように間に国が入って、何かあったときの対応ができるようにということで、法整備までしっかりして、ワクチンの提供をしてもらえる環境を作ろうとしているわけです。
――Q:狙いとしては、経済をしっかりと回していける環境を作ること
そうですね。ごく一部の人しか打たなかったら、あまりワクチンの効果がないわけです。お互いにこうやって、うつしたりする可能性があるからそのリスクを減らしたいっていうことです。
リスク「ゼロ」 100%効くワクチンなんてありえない
今回の新型コロナのワクチンに限った話ではなくて、全部のワクチンが同じことなんですが、日本は、リスクを絶対に認めず100%効かないと駄目だという意識が強い。ただ、それは絶対にありえない。ですから、ワクチン行政は、いつもそこで引っかかるんです。日本は“ワクチン後進国“と言われていて、さっき言ったように国民の意識がまだついていっていないんですね。
だから、副反応がちょっとでも出ると、どうしてもそれが許せないという反応になり、接種を推奨することはやめて欲しいとなってしまう。
その典型的な事例が「子宮頸がん予防ワクチン」です。今もあれは、積極的な推奨がなされてないんですね。副反応が出てきたとおっしゃる方が出てきて、その方々をマスコミも取り上げて、大きく国民の皆さんに共有されることとなった。そして「子宮頸がん予防ワクチン」はリスクが高いんじゃないのと思われる方が多くなってきたところで、積極的推奨はやめるべきじゃないかっていうことで、それを厚生労働省の中の審議会で、最終的にそういう結論になり、今は積極的な推奨をしていないんです。
ただ、そのために、実際は子宮頸がんで亡くなる方が増えてきている。
年間約1万人が発症し、3000人ぐらいの方が亡くなっているんですね。先進国で増えてるの日本だけですから、WHOからも早く改善してワクチンを打てる環境を作って欲しいとずっと言われているんです。ですから、ワクチンに対しての考え方、向き合い方を今回しっかりと皆さんと考えたいと思っています。
私たちの身体、生活に関わることを、今回の厚生労働委員会で話し合います。皆さんが打つ可能性の高いワクチンをどのように国は見て、サポートしようとしているのか、しっかりと見ていただきたいと思います。そして、ご自分で最終的に判断していただかなきゃいけないので、ぜひその判断材料に使っていただけたらいいなと思います。
ワクチンは安全性を担保してから出回るようにしてほしい
――Q:ワクチンの開発状況はどうなっていますか。
西洋諸国の中では、まだ承認は出ていないんですね。
今、日本が優先的に確保しようとしているワクチンは治験の段階で、その安全度合いを見ています。時々治験が止まったりすると、それは副反応、体の不調を訴えられた方が出てきているってことなので、その不調が果たしてそのワクチンが原因なのか、その方が元々持っていた何か病気のせいなのか。何か違う要素があってなのか、そこを検証しないと先に進めないっていうことで、何回か治験が止まったりはしています。だからそういうことを、きちんと1つずつ潰していって、ワクチンの安全性を担保し、薬として販売するわけですけれども、そこまでまだ行けていないということです。
ただ、政治的圧力が結構かかっていて、いつ頃までにワクチンが出来ますとか、そういう話が先行するので、医療系の議員の私とするとすごく心配です。
だからそういう政治家の思惑でスケジュールが決まるものではないので、ちゃんと安全性を担保してから、ちゃんと出回るようにして欲しいなっていうふうに思います。
とにかく私たちが今できることは、そろそろワクチンが出来そうだなっていうことなので、法整備をして準備をして待っていましょうということで、今回早めに法整備に向けて動いているわけです。
――Q:この法律が通ったからといって、すぐにそのワクチン接種が始まることはない
すぐに始まることはありません。どこの国のどのワクチンが対象になるかまだ決まってないんですから。ワクチンの候補の名前は挙がっていますが、どれが対象になるかもわからない。
ただそろそろ見え始めてきているので、法整備をちゃんと整えて待っていましょうということです。
ワクチンの自国での開発は大切 今後の医療体制を考える契機に
――Q:法案を見ると、ワクチンの接種で健康被害が確認され製薬会社などが賠償した場合、損失を国が補償する
健康被害が出た場合、企業側に全ての責任を負わせるとなると、企業としてはそこの国にワクチンを、卸すのをやめたいとなる可能性が出てきて、法整備が整っているところから、ワクチンを優先的に出してくるわけですよ。先進国で取り合いになっていますから、早く手を上げるためにも、日本はちゃんと「万が一の時は国が保証しますよ、メーカーに直接、請求が行くようなことはありませんよ」と言えるように法律を整えておくということですよね。
なにしろ慌てて開発させられているわけですから、その分リスクが高くなるのはみんな分かっています。それでも欲しいとおっしゃるのであれば、私たちが責任を負わなくても対応できる国から優先的に卸させていただきますとメーカー側は言いますから。
だから今回、ワクチンなど薬の開発を自国でもちゃんとできるようにしておくことも、すごく大切だなと思いしらされました。もちろん国内でも、開発を急いでいるんですけれども、自国でも開発ができるように、力をつけておかないと、こういう事態が起こったときに対応できなくなります。
今回のコロナを反省にして、薬の行政、マスクや防護服もそうですけれども、体制をある程度、国内で整えておかないといけないということを、今回私たちはとてもつらい思いをしながら身に染みたわけです。今後その体制をどうしていくのか、そして医療体制を支えるような、その医薬品業界をどういうふうに今後育てていくべきなのかっていうのも、もう一度考え直さなきゃいけない時期に来ているんじゃないかなと思います。
多くの人が子どもを産める環境を 今は制度設計を話し合っている段階
――Q:首相の所信表明の中で不妊治療を保険適用に言及した。
不妊治療にも色々な技術があり、技術開発もどんどん進んでいる。当然、その分、治療によって価格にも大きな差があるんです。すでに差が出来上がってしまっている中で、どのように保険を適用していくかというときに、その差をどうしていくのか。すごい問題になってくるんですよね。
それが診療報酬の外で出来上がってしまっている状態で、そこに新しい物差しを入れるわけですから、上手にやらないと、良かれと思って導入した制度が機能しなくなってしまう可能性もある。上手に見ていかないといけないし、不都合も出てくると思うので、それは常にチェックしながら微修正は当然必要になってくる。
――Q:閣法ではなくて、議員立法で進める?
その辺の交通整理をどうするか、全て保険適用にするという説と一部保険適用にしてあとは補助金という形で、お金で渡した方がいいんじゃないかって説と色々あるんです。その話し合いを議員の中でもしているし、厚労省の中でもしているし、官邸の中でもしている。
多くの国民の皆様に、お子さんを産んでいただける環境を提供できるようにするにはどうしたらいいか、みんないろんな角度から考えています。
法案をどのような形で出すのかということも含めて、なるべく年内に方向性を決めていければいいなと思います。ただ、こうして、菅首相が強い意志を示してくれたというのは、一気に動くきっかけにはなったかなと思いますし、この話は実はみんな気がついていたし、やらないといけないなと思っていたんですけど費用がすごくかかるのと、既に制度ができ上がっているので、どうするのというのが悩み所で、二の足を踏んでいたのが事実なんです。
そういう意味では、今回、菅首相が所信表明で「不妊治療への保険適用を早急に実現する」と話していただいたのは良かったと思います。