「この改革の灯を消すわけにいかないんです」(吉村洋文 大阪府知事)
「全国に広げることも出来るんです」(松井一郎 大阪市長)
大阪の府と市のトップが、これまでこのように熱く語ってきました。
選挙での民意を追い風に、維新が進めた大阪都構想
対する、自民党大阪市議団・川嶋広稔副幹事長はこのように語っていました。
「どう考えても、5年前と比べて勝てる要素が感じられなかったですからね」
しかし―
住民投票で示されたのは“反対”の民意でした。
勝敗を分けたのは何だったのか?
激闘を終え、各党のキーパーソンが、その分岐点を語りました。
維新・今井幹事長が語る~松井一郎の決断と民意~
街頭で住民投票への賛成を訴える松井代表。その隣に立つのは、大阪維新の会の今井豊幹事長です。維新旗揚げの時から、腹心として松井代表を支えてきました。
住民投票の後、政界引退を表明した松井代表のことをこう振り返ります。
「ある意味政治的なセンスかもしれない。そのセンスはピカイチ、非常に鋭いなと」
1度目の住民投票での否決から半年後、都構想の再挑戦を掲げ、知事・市長のW選挙で圧勝。
都構想の設計図について話し合う法定協議会で公明党と対立するやいなや、今度は知事・市長を入れ替え、またW選挙を仕掛けて圧勝しました。
時に型破りな、しかし民意を味方につけてきた維新の政治手法は、いつも松井代表のトップダウンの決断によって行われてきました。
【大阪維新の会 今井豊 幹事長】
「我々はそう思ってるよ。代表にすべてを預ける。代表が一定思いをもって、こういう方向で行きたいというのであれば、分かったそれで行こうと。だからうちは意思決定が早い。ある種、体育会系なところがあるわな、維新って」
去年5月の記者会見で、公明党大阪府本部・佐藤茂樹代表は「我々が当初予想していたよりも、維新の党さんに対しての、この民意というのは本当に強いものがあるなと」と語っていました。
スピード感のある決断で、民意をつかみ、公明党をねじ伏せた維新は、都構想の議論の主導権を再び握ることになります。
川嶋市議が語る~劣勢の自民党 組織はバラバラ~
党内きっての“政策通”として舌戦を繰り広げてきた自民党大阪市議団の川嶋広稔副幹事長。
主導権を奪われた議論の場をどう見ていたのでしょうか?
【自民党大阪市議団 川嶋広稔 副幹事長】
「決める場ということで、ある程度の議論して決めるのはありだと思うが、あの雰囲気を見ていると全く聞かない状況が続いてますから。主張しても賛成派だけで進んでどんどん進んでいくのも事実で、手を挙げても当ててくれない時もありましたから。」
民意に揺れ動き、自民党内の足並みが乱れ始めます。
去年5月、いわゆる「出直しクロス選挙」で吉村知事・松井市長が誕生したあと、自民党の大阪府連はそれまでとは違った方針を打ち出しました。
【自民党大阪府連 渡嘉敷奈緒美元会長】
「今回の負けは、神様のくれた贈り物ではないかなと思っています。これから、維新と協力してやっていくポジション取りに、なっていかざるを得ない」
ついには市議団と府議団で一時、態度が割れる事態になりました。
【自民党大阪市議団 川嶋広稔 副幹事長】
「去年の統一地方選があって、その時の維新の勢いもすごくてあって。どう考えても5年前と違って勝てる要素が感じられなかったので。ましてやまだ自民が一枚岩になれてなかったのもずっとありましたから。」
今回の住民投票の2か月前に行われた世論調査では、賛成派が反対派を10ポイント近く引き離す情勢となっていました。
変わり始めた民意の行方
ここまで戦いを有利に運んできた維新でしたが、告示日が近づくにつれ、潮目が変わっていくのを感じていました。
【大阪維新の会 今井豊 幹事長】
「比較的非常に反応がよかった。あのときの反応、手ごたえ感から見ると、支持率が10ポイント離れているのは、体感でもそんな感じだった。でもそれがきついなと思ったのが、告示入ってからやな。ちょっときついんちゃうという感じで。」
【記者質問】
「どういうところが?」
【大阪維新の会 今井豊 幹事長】
「吉村代表代行や松井代表が説明会すると人が来ますよね。ところが我々が路地裏や辻々に立つと、そこの空気感がどうも反対の声が多いんちゃうかなと」
新型コロナウイルスの影響で、街頭での活動が大きく制限されました。また、住民説明会でのメリット一色の主張に、参加者の不満の声が大きくなっていきます。
大阪市内で開かれた住民説明会のあと、参加者に感想を聞くと、このような答えが返ってきました。
「メリットは分かったんですけど、デメリットについて説明がなかったような」
「直接的なメリット・デメリットも冷静に教えて頂いた上じゃないとなかなか判断しにくい」
【自民党大阪市議団 川嶋広稔 副幹事長】
「自分なりに情報取りにいって、自分なりに考えて、情報リテラシーがあがってくるんです。私たちだけだったら、今みたいに非常にしんどい戦いだったが、最終は住民の戦いだったなと思ってます」
賛成の支持が伸びない背景には、維新が抱えるジレンマもありました。
【大阪維新の会 今井豊 幹事長】
「維新の改革を実感している世代やから、そこで生活してる世代やから。小学校・中学校の給食費無償とか(他には)ないやんか。塾代助成とか。こういう教育に対する投資は類を見ないことをやっているから。これは、このまま続けてほしいということであって、新たな変化をもとめないということになる。これはジレンマ」
吉村知事と松井市長が協力して、現在の制度の中で二重行政を解消する、いわゆる“バーチャル都構想”を進めてしまったがゆえに、改めて都構想を実現する意義が伝わりづらくなったのです。
こうして民意は少しずつ、でも確かに反対に傾いていきました。
そして迎えた開票日
住民投票の日の夜、「反対多数」というニュース速報が流れました。
【自民党大阪市議団 川嶋広稔 副幹事長】
「あぁ、良かった」
【大阪維新の会 今井豊 幹事長】
「画面にくぎ付けという状態。えっ!ていう感じだった。最初間違いかなって思った」
結果はおよそ1万7千票差で否決。
スピード感のある改革を推し進めてきた維新。
市民に納得してもらうための時間が十分ではありませんでした。
大阪市民に話を聞くと…
「意味が分からんかってん賛成の。もっと説明がなかったらあかんな。ちょっと時期早すぎたし、自分の主張しかしないから、もっとわかるように説明してくれって思った」
「だんだん考えると、やっぱりわからないことが多すぎて、分からないことが多いということは踏み出せないのかなって」
【大阪維新の会 今井豊 幹事長】
「行政もそうやし、僕らもそうだけど、説明を尽くしたという感は実はある。説得活動はするけど同時に納得してもらえたかは別かな。相手がどこまで納得できたのか、どこまでわかってもらえたのか。そういう面では時間が足りなかったのかな」
10年に及ぶ大阪都構想の議論は私たちに何を残したのでしょうか?
【大阪維新の会 今井豊 幹事長】
「大阪市民・大阪府民が地方の政治で、府庁・市役所のことを語るなんて信じられないやん。10年前まで。大阪の10年間の維新政治の効果は、市民と府民の政治に対する民度という言い方は正しいのかどうかは別として、底上げにはなったと思うよ、完全に。」
【自民党大阪市議団 川嶋広稔 副幹事長】
「大阪市民が2回も住民投票する中で判断しないといけない。その中で自分で情報取るということで、民主主義的なレベルはあがっただろうなと思う。でもこんなにリスク高いところで上げる必要なかったとは思う」
民意を味方にした一方、民意に泣いた大阪都構想。
市民を巻き込んだ議論を、次の大阪へと繋げていかなくてはいけません。