「いつ閉館するか…今月か来月か…それぐらいの崖っぷち」“街の映画館”の生き残り策 13年前から“歓声・掛け声OK”に「手づくりポスター・オブジェ」 暴力団組事務所を改修した映画館は映画メニューの再現も 2026年09月23日
シルバーウィーク真っただ中の街では、大型シネコンへ向かう人々やサブスク配信で自宅鑑賞を楽しむ人々の姿が目立ちます。
その一方で、かつて街のあちこちに存在していた小さな映画館は、静かに、しかし確実に数を減らしています。
大阪では今年3月、長く地元に親しまれてきた新世界国際劇場が閉館しました。映画の興行収入が過去最高の2744億円を超えた時代に、なぜ小さな映画館は消えていくのか。
生き残りをかけ、あの手この手で頑張る町の映画館を徹底取材しました!
■崖っぷちからの逆転劇 塚口サンサン劇場の挑戦
兵庫県尼崎市にある「塚口サンサン劇場」は、ことしで開業から73年を迎えた老舗の映画館です。
しかし15年ほど前、近隣に大型映画館が3つも開業したことで経営は急激に悪化し、客がゼロの日もあったといいます。
【塚口サンサン劇場 戸村文彦さん】「いつ閉館するか、今月か来月か、それぐらいの崖っぷち」
そこで戸村さんとスタッフたちが打ち出したのは、”大型映画館にはできないこと”を徹底的にやるという戦略でした。
戦車が登場するアニメ映画の上映に合わせてロビーに戦車の手づくりオブジェの展示を設けたり、手作りのポスターやチラシを用意したりと、館内の雰囲気づくりに力を注ぎました。
■大型映画館ではやりにくいことを実践 13年前から歓声・掛け声OK
そして13年前に始めたのが、“歓声・掛け声OK”の上映です。映画の常識を覆すこの試みは、今やこの劇場の代名詞となっています。
取材日に上映されたのは、キング・オブ・ポップ、マイケル・ジャクソンの半生を描いた話題作「マイケル」。
会場には思い思いのマイケル・ジャクソン風のコスチュームをまとった観客が集まり、上映前には戸村さん自身がムーンウォークを披露して場を温めました。
上映が始まると、観客は次々と立ち上がり、スクリーンの音楽に合わせて歌い、踊り、声を上げます。大人から子どもまで一体となった2時間あまりは、映画館というよりもライブ会場のような熱気に包まれました。
【参加者】「今で(「マイケル」鑑賞)119回目。音楽にのってリズム感をみんなで楽しめる、その感じがすごく素敵だから、ここまで来る」
【全国の映画館を巡る人】「雰囲気が他の劇場とは大きく違う。なかなか他にはない映画館なので、通ってでも来たくなる」
■現在は見事に復活!黒字に転換 映画を通じて町が盛り上ってほしい
お客さんを第一に考え、大型映画館ではやりにくいことを実践し続けた結果、塚口サンサン劇場は見事に復活を遂げました。現在は売上が黒字に転換しています。
【塚口サンサン劇場 戸村文彦さん】「映画を通じて町が盛り上がれば、すごくポジティブな空気が生まれると思う。そういう意味で映画館は、町に必要であってほしいですし、『やっとるな塚口が』みたいなところで、町を元気にできることができたら」
■元暴力団組事務所が映画館に 丹波市「エビスシネマ。」の誕生
奮闘する町の映画館は、尼崎だけではありません。兵庫県丹波市では、映画監督の近兼拓史さんが5年前、とんでもない場所に映画館を開きました。
【エビスシネマ。支配人 近兼拓史監督】「ここは和室だった。元暴力団組事務所で、(町の)皆さんが持て余してた建物」
かつて丹波市には10軒ほどの映画館がありましたが、約50年前にすべて閉館していました。
そんな映画空白地帯に「エビスシネマ。」は誕生しましたが、開館直後に新型コロナウイルスの波が直撃します。
【エビスシネマ。支配人 近兼拓史監督】「お客さんが1人、2人とかで月の売上10万、支払いが200万。赤字率2000%です。もう死ぬと思いました。家は売る、車は売る、商売道具のカメラまで、もう売るもんないぞ、もうあかん」
それでも近兼さんが諦めなかったのは、地元の人に”本物の映画体験”を届けたいという信念があったからです。映画監督ならではのこだわりが詰まった音響の良さが口コミで広まり、やがて全国からお客さんが集まるようになりました。
【エビスシネマ。支配人 近兼拓史監督】「平日の昼間は、地元のおばあちゃんたちが支えてくれて、週末は音楽・アニメファン、音やセリフを大切にする方がお越しになる」
■映画に登場するメニューもつくっちゃう
映画に登場するメニューをリクエストされれば、その場でピザを焼くこともあります。
広島県からわざわざ訪れた観客が、アニメ作中に登場する「インフェルノ・ボルケーノ・マルゲリータ・メガマックス・ピザ」を再現してほしいとリクエストする場面もありました。
こうした丁寧な対応が積み重なり、「エビスシネマ。」は今や国際映画祭も開催するまでに成長。人口およそ6万人の丹波市で、年間1万人ほどが来場する映画館へと発展しました。
【地元の客】「本当の意味で1本の映画を、丹波で楽しめる唯一の場所なので、僕はあしたも来ようと思う」
■日本の映画文化を守り監督を育てたい
近兼さんの夢はさらに広がります。
【エビスシネマ。支配人 近兼拓史監督】「映画は、何も壊さずに文化や経済圏ができるので、町がどんどん発展していけばいいなと。丹波のこのエリアから、アカデミーをとるような監督を育てたい。10代の映画監督が出るのもうれしいし、80代のおばあちゃん監督が出るのもうれしい」
日本の映画文化を守るため、それぞれの町で知恵を絞り、情熱を燃やし続ける小さな映画館たち。
そのスクリーンには、大型シネコンには出せない温かさと、地域と映画をつなぐ確かな力が宿っています。
■映画館が消えると 町から何が失われるのか
去年の映画興行収入は2744億円を超え、過去最高を記録しました。映画館の数自体は増えていますが、そのほとんどは複数スクリーンを持つ大型施設が占めており、小さな映画館は減少の一途をたどっています。
こうした状況に警鐘を鳴らすのが、京都を舞台にした映画「侍タイムスリッパー」で日本アカデミー賞を受賞した安田淳一監督です。
【安田淳一監督】「町の小さな映画館というのは、商業ベースにのらないような作品も上映。色んな作品を見られる文化というのは残ってほしい」
安田監督はさらに、映画文化の継承という観点からも町の映画館の重要性を強調します。
【安田淳一監督】「映画館でお客さんと出会って、自分の作品のいい点、悪い点を見直して、もっと精進することで、商業作品や世界に通じる監督が育っていく。入口としての町の映画館がなくなるのは、非常に残念」
小さな映画館は単なる鑑賞の場にとどまらず、次世代の映画人を育てる”入口”でもある。そのことを、アカデミー賞監督の言葉は静かに、しかし力強く伝えています。
(関西テレビ「newsランナー」2026年9月22日放送)