特別な夏祭り 医療的ケア児の少年と家族が一緒に過ごした“特別な時間” 「当たり前の思い出作るのが難しい」現実を変えたい 医師が実現した夏祭り 2026年09月21日
住宅に入っていく一人の医師。
鴻池善彦先生。子どもたちの訪問診療が仕事です。
鴻池先生は、全国的にも珍しい「医療的ケア児」に特化した訪問診療をしていて、多い日は一日に4つの家庭を回ります。
かつて大病院の小児集中治療室に勤務していた鴻池先生。 当時は「目の前の命を助けて、できるだけ健康のいい状態で退院してもらうことを目指して必死だった」と振り返ります。
その一方である思いが募ったといいます。
【鴻池先生】「小児科医たるもの、助けて終わりではないので、その後の子どもたちの生活とか成長とかっていうものをもう少し考えられたらよかった」
医療が発達するにつれて医療的ケア児は増えています。
同時に、病院まで送り迎えする家族の負担や、社会から孤立しがちな現状を変えたいと思ったのが、訪問診療をはじめた大きな理由です。
■訪問診療を続ける自力で呼吸ができない少年
この日訪れたのは、自力で呼吸や食事ができない西村晄(ひかる)くん(15)の家。
人工呼吸器のパーツを交換します。
【鴻池先生】「人工呼吸器から空気吸ってるんで、この『気管カニューレ』っていうのが長く入れておくとだんだん汚れがついたりとかしてくるんで、月に1回から2回ぐらい交換するっていうのが一般的なんですよ」
晄くんの母・麻央さんは、鴻池先生の存在をこう話します。
【晄くんの母・西村麻央さん】「先生に往診してもらっていなかったときは本当に、自分たちで判断して、いつもとちょっとだけでも違うとか、数値がいつもと違うっていうのを基準に考えて、大きい病院にすぐに行くって感じだったんですけど、先生に来てもらうようになってからは、ワンクッション。やっぱり相談する先生がいるっていうのは心強い」
■1時間に3回程度の“吸引”が必要 向き合う家族
晄くんは半年前から鴻池先生の訪問診療を受けるようになりました。
日常生活では気道が詰まらないよう1時間に3回程度の痰の吸引が必要で、家族が対応にあたっています。体調が悪い時は何度も詰まってしまいます。
【母・麻央さん】「体調悪いと本当、寝れないくらい頻回ですね」
(Q結構神経使いますよね?)
「そうですね。体調が悪いと寝れないというか、心配ですね」
■出産予定日20日前に判明した病気 「毎日必死に向き合っている」
晄くんの病気が分かったのは出産予定日の20日前。
当時、医者からは「生まれても息をするか分からない」と説明されました。
麻央さんは生まれた時から晄くんの様子をノートに記録しています。そこには繰り返し起きる発作、無呼吸の状態だった秒数など容体に関することだけでなく、「『ニコッ』と笑顔に!」と我が子の姿がつぶさに記されています。
「どうやったら、生きてくれてるだろうと、毎日必死に子育てというか、晄に向き合っている」と話します。
■4歳年下の弟は「我慢してたんだなとは思うんです」
ケアと並行して始まったのが4歳年下の弟・向陽(ひなた)くんの子育て。試行錯誤の日々だったといいます。
【母・麻央さん】「晄が何回も入院して、何回も手術している分、私は病院に行かなければいけなかったりするので、その同じ回数、多分、向陽は我慢してたんだなとは思うんですね、延長保育でちょっと遅くまで預かってもらったりとか」
11歳になった向陽くん。家ではお兄ちゃんと一緒に過ごしていて、入院して家にいないときは、お兄ちゃんのベッドで寝ているといいます。「寝心地がいいから」と、はにかみます。
その晄くんの枕元には向陽くんのおもちゃがたくさん置かれています。
【弟・向陽くん】「最近使ってないものをお守りみたいな感じであげてる。ウイルス追い出すみたいな感じで全部おいてるやつ。ロボットとかウルトラマンとか」
■難しくなる家族4人でのお出かけ
4年前、向陽くんと麻央さんは2人でUSJに行きました。その時は晄くんはお父さんとお留守番。晄くんの移動には大きなバギーが必要で、人気スポットなど人が多い場所への旅行やお出かけは難しいといいます。
(Q家族で全員で旅行に行くのは難しい?)
【向陽くん】「まあ、やっぱり。僕もいつ風邪になるのかわからないし、お兄ちゃんもいつ入院するのかわからないから、それで入院して行けないのはしょうがないかな」
それは地域の夏祭りでも。
【向陽くん】「夏祭りなんて全員で行ったことないもんな。近くの神社でお祭りはあるけど、友達見つけて、行ってるから」
■本人もきょうだいも「当たり前の思い出を作ることが難しい」現実を感じる医師
訪問診察を続ける鴻池先生も医療的ケア児だけでなく、そのきょうだいが“当たり前の思い出”を作ることが難しい現実があると感じています。
【鴻池先生】「やっぱり医療的ケア児の子が家族の中に1人いると、生活の中心がその子に傾くことが多い。
例えば保護者参観みたいなものとか運動会とかも、本当はお父さんお母さんに見に来て欲しいのに、ケアがあるから行ってあげられないとかっていうことも経験してるきょうだいもきっといると思う」
そんな思いの中で鴻池先生はある決断をします。それは医療的ケア児と家族が一緒に楽しめる手作りの「夏祭り」を開くことです。
■決断した“手作りの夏祭り” 「日常を味わって欲しい」
鴻池先生が選んだん“祭り会場”は兵庫県西宮市にある支援学校。
広い廊下、段差がない構造。バギーでも移動しやすく家族の負担も少なくなります。メイン会場は体育館。鴻池先生が照明の調整を進めます。
「夜店」の雰囲気を作りつつ、十分な明るさ確保できるよう設置場所や光の強さを探ります。
【鴻池先生】「ちょっと事情のある子供たちですけど、それでもその子たちにも他の子と同じような日常を味わって欲しいと思うんで、なるべくそういう雰囲気にしたい」
■晄くんと家族が訪れた夏祭り
そして迎えた祭り当日。晄くん一家もやって来ました。晄くん、向陽くん、お父さんの3人は色違いの同じTシャツを着ています。
会場に入って向陽くんは射的やパン食い競争に挑戦。 そして、射的は晄くんと一緒にも挑戦。見事2個の的に当てました。
家族はみんなでかき氷も堪能。会場には同じようにたくさんの子供たちや家族が笑顔で過ごしました。
その様子を見た鴻池先生も「こうやってご家族のみなさんで出かけられる機会が作れて、そのお手伝いができて嬉しいなと思います」と笑顔を見せます。
■増えたお出かけ先での4人での写真
祭りの2日後、晄くんは16歳の誕生日を迎えました。
向陽くんがピアノで奏でるバースデーソングにあわせてケーキが出されます。3人が歌って祝福するなか、晄くんはぐっすり寝ていました。それに気づいた家族にまた笑いが生まれました。
そんな一家4人が一緒に写った”夏祭りの家族写真”が増えました。