たどり着いた『フリースクール』という選択肢 2年半不登校だった少女の決断と母の葛藤 「ここなら、きっと自信につながっていくかな」 2024年03月23日
不登校の子どもの数が年々増加しています。
文科省によると、2022年度は小学生で約10万5000人、中学生では約19万4000人と、過去最多を更新しました。
このような子どもの居場所となっているのが「フリースクール」です。
そんな中、2年半の間、不登校だった少女とその母親が、フリースクールに行くという大きな一歩を踏み出しました。
【日向子さん】「友達がほしかった」
【日向子さんの母】「行きたいっていう気持ちがあるから、(背中を)押してあげたらいいのか、どうしたらいいのか」
“居場所”に通い続ける難しさ。必要とされるフリースクールの“今”を取材しました。
■23年11月に開所したばかりのフリースクール
大阪府泉佐野市にある小さな古民家。
2023年11月、ここにフリースクール「キリンのとびら・まちば拠点」ができました。
【フリースクールに通う中学3年生】「居場所は絶対にある。だから勇気を出して、扉を開けて。ここに『キリンのとびら・まちば拠点』の開設を宣言します」
開所式では、フリースクールに通う中学生が開所宣言を行いました。
不登校の子どもたちが勉強をしたり、友達と遊んだりする“居場所”、フリースクール。
ここ数年、入学を希望する子どもが増えていて、この施設も、3年前に泉佐野市で初となるフリースクールを立ち上げたNPO法人が2校目として開きました。
保護者が負担する利用料は、月3万3000円。
泉佐野市からはフリースクールに補助がありますが、自治体ごとに差があるのが現状です。
開所式からおよそ1カ月。ある親子が体験入学にやってきました。
小学6年生の日向子(ひなこ)さん(11歳)は、小学4年生の時に突然、学校に行くことができなくなってしまいました。
【日向子さん】「ある時、電車で(学校に)行こうとしたら急に怖くなって、電車降りて、おばあちゃんのお家に行って2週間くらい休んだけど、それでもやっぱり怖くて不登校になって」
【日向子さんの母】「何をしてあげたらいいのかなと。庭に出るのも怖かったり。初めは焦りましたね、どうにか(学校に)戻せないかというのも自分の気持ちであったし」
2年半の間、ほとんどを自宅で過ごしていましたが、最近、少しずつ外出ができるようになってきた日向子さん。
そんな時に知ったのが、自分のペースで通えるフリースクールでした。
【日向子さんの母】「一緒に汗流して友達と遊びたいというのがあったみたい」
Q.ここに来ようと思ったきっかけは?
【日向子さん】「友達がほしかった」
■まずは5日間の体験入学 どうなる?
【キリンのとびら・まちば拠点 スタッフ 唐治谷さん】「今日は何をするかというと、月曜日は音楽をしてるんだけど、日向子はピアノ弾いたことある?」
【日向子さん】「ちょっと…」
この日は音楽の時間があるということで、タブレットを使って演奏をしてみることに。
【キリンのとびら・まちば拠点 スタッフ 唐治谷さん】「できた!どう?日向子、大丈夫そう?」
【日向子さん】「うん、多分…」
【キリンのとびら・まちば拠点 スタッフ 唐治谷さん】「できてた、できてた!」
【日向子さん】「ミスする可能性もある…」
日向子さん、久しぶりのグループでの活動に少し不安げな表情。そこでスタッフが用意したのは、日向子さんが大好きな「かくれんぼ」の時間です。
かくれんぼで楽しそうな様子を見せた日向子さん。
【キリンのとびら・まちば拠点 スタッフ 唐治谷さん】「安心してありのままの自分でいられるところと、『楽しい』というのは生きていく上で、何よりも原動力になると思っているので、いろんながんばるチャレンジがその先にあるかもしれないですが、まずは『楽しい』という気持ちを一緒に分かち合えることを、ものすごく大事にしています」
「遊んでいるだけ」と誤解されることも多い、フリースクールでの活動。
学校に行っていないことへの罪悪感や不安を抱えながらも、やっとの思いで外に出てきた子どもたちが安心を感じるために欠かせない時間です。
【日向子さんの母】「楽しかった?」
【日向子さん】「かくれんぼがいつも通り楽しかった」
【日向子さんの母】「日向子、どうしようと思ってる?入学」
【日向子さん】「入ろうかな」
そして、体験入学の最終日。
友達ができ、お母さんの付き添いなしで参加できるようになった日向子さん。友達と積極的に話せるようにもなりました。
いつの間にか、フリースクールに来るのが楽しみになっていました。
【日向子さん】「初めの見学はどういうところか分からなかったけど、今は楽しい。遊べたり体を動かせたりするのが面白いから、毎回行こうかなって」
【日向子さんの母】「勉強が苦手で学校に戻るのも怖い。他の友達と同じ学年の子と自分を比較してしまう。ここ(フリースクール)なら、今の日向子の状態を認めてくれて、勉強も人間関係も丁寧に積み重ねてくれるところがあるので、きっと自信につながっていくんじゃないかなって」
■前向きな気持ちで入学 しかし不安も
5日間の体験を終えた日向子さん。
【キリンのとびら・まちば拠点 スタッフ 唐治谷さん】「勉強が苦手という話をしていたけど、日向子のペースで日向子がやりやすいやり方で始めていける方法がたくさん見つけられると思うから、一緒に探していこうよ。少しずつ、自分がやりやすい形でやっていけたらきっと勉強も『意外と楽しいやん』って思えるように、絶対なる」
日向子さんは、フリースクールに通うことを決めました。
【日向子さん】「午前中から来たい」
【日向子さんの母】「午前中から来たい?すごい!」
【キリンのとびら・まちば拠点 スタッフ 唐治谷さん】「日向子、14日から入学になりました。よろしくね」
それからおよそ2カ月間、まずは週2回ほどのペースで通っていた日向子さん。
しかし、時折やってくる“家の外に出ることへの不安”が再び強くなり、フリースクールを休む日が増えるようになりました。
今年2月、「キリンのとびら」で開かれたのは、親の会。フリースクールに通っているかどうかにかかわらず、誰でも参加することができます。
そこでは、不登校の子供を持つ親がさまざまな悩みを打ち明けていました。
【参加者】「私は仕事をフルタイムで仕事をしていて一人親なので、仕事にも行けない。子どもを一人で置いてもいけない、一人でいたくないと泣く。どうしようと悩んで…」
【参加者】「外に出たり人が多いところに行くと気分が悪くなったり頭痛が出たりでだいぶ避けていたんですけど」
参加者の中に、日向子さんのお母さんの姿もありました。
【日向子さんの母】「自分で選んだフリースクール、行ってほしいなと、楽しそうにしていたりするので、応援してるんですけど、ずっと何年も家にいたので、行ったら楽しいけど疲れちゃって。今、先々週くらいからお休みさせてもらったり」
やっとたどり着いた居場所に行きたい気持ちはあるけれど、行けない。今、日向子さんは自宅で過ごしています。
【日向子さんの母】「分かってあげたいし無理はさせたくないし、元気になってほしい気持ちは本当。でも『今ちょっとがんばっておいた方がいいんじゃないかな?』と思うけど、口では『(休んでも)いいよ』と言っちゃう。行きたいっていう気持ちがあるから(背中を)押してあげたらいいのか、どうしてあげたらいいのか」
日向子さんのお母さんも葛藤を抱えていました。しかし、不登校だった頃に比べ、明らかな変化もありました。
お母さんから送られてきた写真には、得意の料理に熱中する日向子さんの姿が。家で前向きな気持ちで過ごす日が増え、バレンタインの日には、「フリースクールの友達に食べてほしい」と自らキッチンに立ってクッキーを作りました。
【日向子さんの母】「新しいスタートでいろいろ向き合いながら、いろんな人に助けてもらいながら、行ったり戻ったりしながら、お互い楽しいなと思えたらいいのかなと」
フリースクールに行くことも一つの選択肢。不登校の子どもが増えている今、教育のあり方にも多様性や選べる自由が求められています。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年3月20日放送)