職員が自殺に追い込まれた“文書改ざん” 裁判所は元理財局長の尋問を行わない決定 背景に“公務員個人”は賠償しない『国家賠償法』の高い壁 「責任から逃れられるのはおかしい」と遺族 森友学園問題 2023年09月14日
真実が公の場で語られることはもうないのでしょうか。財務省の公文書改ざんをめぐり、自殺した職員の妻が佐川元理財局長を訴えている裁判の控訴審が始まり、裁判所は佐川元理財局長の尋問を行わないことを決めました。
■自殺する1カ月前の職員の動画公開「この問題を風化させたくない」
財務省の当事者たちに直接話を聞くことができなくなったことへの無念さをにじませたのは、自殺した職員・赤木俊夫(あかぎ・としお)さんの妻、雅子(まさこ)さん。
【自殺した赤木俊夫さんの妻・雅子さん】
「これでは、夫が“死ななければいけなかった理由”がまた、分からずじまいだなって思っています」
財務省近畿財務局の職員だった赤木俊夫さん(当時54歳)。大阪府豊中市の国有地が8億円以上値引きして売却された、いわゆる「森友学園問題」で、財務省から公文書の改ざん・破棄を指示されて、うつ病を発症し自殺しました。
赤木さんの妻・雅子さんが、俊夫さんが自殺する1カ月前の動画を見せてくれました。「うっうっうっ」とうなり声をあげながら、自分の体や家の壁を殴る俊夫さんの姿が記録されています。
この動画は、妻の雅子さんが俊夫さんのうつの症状について、主治医に説明するために撮影した動画です。
【自殺した赤木俊夫さんの妻・雅子さん】
「『犯罪行為をしてしまった、僕は犯罪者なんだ、内閣が吹っ飛ぶようなことをしてしまったんや』とは言っていたので。『死ぬ死ぬ、僕は死ぬんだ』ってことばっかり言って」
「夫がなぜ死ななければならなかったのか真実が知りたい」と考えた雅子さんは、国と、改ざんを指示したとされる佐川宣寿(さがわ・のぶひさ)元理財局長に対し、損害賠償を求める裁判を起こしました。
しかし、2020年に国は雅子さん側の請求をすべて認める「認諾」という手続きを取り、裁判を強制的に終結しました。一方、佐川元理財局長に対する裁判は、2022年11月に大阪地裁が訴えを退けたので、雅子さんは控訴しました。
■控訴審でも佐川氏の証人尋問なし 自殺した職員の妻「文書でも返事を」
雅子さんは当初から、真相を明らかにするためには、当事者や証人を法廷に呼んで直接話を聞く「尋問」という手続きが必要だと考え、佐川元理財局長と財務省の職員4人の尋問を求め続けています。
【自殺した赤木俊夫さんの妻・雅子さん】
「佐川さんは、何をやったのかちゃんと責任を感じてほしいし、それを公にするべき。それをしなくて済んでしまうと、この先公務員の人は逃げ得ではないですか。そんなの許されない」
9月13日、午後3時から始まった控訴審で、雅子さんは改めて、佐川元理財局長を法廷に呼び出し、尋問を行うことを求めました。
【自殺した赤木俊夫さんの妻・雅子さん】
「仕事の上で犯罪行為をしても、何の説明もせず、責任から逃れられることがここで証明されたらおかしいと思います。佐川さんを法廷に呼び出してください」
しかし、裁判所は尋問を行わないことを決定し、控訴審は結審しました。
【自殺した赤木俊夫さんの妻・雅子さん】
「本当に悲しいって感じです。同じ人間なのに、軽んじられているんじゃないかなって思って。(佐川さんは)1人の人間として、言葉を文書でも何でもいいので返事をいただきたい」
控訴審判決は12月19日に言い渡される予定です。
■ずっと裁判を取材してきた記者が語る“裁判の経緯”と“遺族の思い”
自殺した赤木俊夫さんの妻・雅子さんにとっては、本当に受け入れがたい判断となってしまいました。なぜ尋問は認められないのか。今後真実が語られることはないのか?この裁判を取材してきた、諸岡記者に話を聞きます。
–Q:赤木俊夫さんが自ら命を絶つ、1カ月前に撮影された動画がありました。雅子さんは、この動画をどのような思いで、提供してくださったのでしょうか?
【諸岡陽太記者】
「当初は、『これがテレビで流れると思うと、しんどすぎる』と放送で使うことは、許可されていませんでした。今回、私が改めて『放送で使わせてもらえないか』と尋ねると、『この動画から伝わることがあるなら、使ってください』と。
この問題を風化させたくない、自分の夫の死をなかったことにさせたくないという、雅子さんなりの覚悟だと受け止めています。今日の裁判を傍聴して感じたのは、傍聴席に空席が目立っていました。傍聴券を求めてすごい列ができていた時もあることを考えると、世間の注目というものもやっぱ薄れているんじゃないかということを感じましたし、真実を知るために何ができるかということで、この動画を提供してくださったと思っています。裁判で金を稼ごうとしているのではないかとか、政権を倒そうとしているとか、そういった声もありますがそんな目的はないということを改めてお伝えしたかったので、あえて、(遺族が)つらい気持ちになる動画をご覧いただきました」
雅子さんが切実に求めている尋問は、なぜ認められないのでしょうか?これまでの裁判の経緯を説明します。
雅子さんは損害賠償を請求する裁判を国に対してと、佐川元理財局長に対してと、2つ起こしていました。
まず、国に対しての裁判ですが、2021年12月に、国は「認諾」という手続きを取って、裁判を強制終了しました。「認諾」というのは、読んで字のごとく、相手の訴えを全面的に認めること。およそ1億円の請求額を全額支払うかわりに、これ以上、何も説明しませんということです。
そうなると、もう一つの佐川元理財局長の裁判で、関係者たちに話を聞くしかないと、気持ちを切り替え、控訴して尋問を求めましたが、2022年11月の大阪地裁でも、大阪高裁でも、「尋問を行わない」との判断が示され、控訴審は決審してしまいました。
裁判所が「尋問」を認めない理由は、国家賠償法という法律には、国や自治体の公務員の過失によって生じてしまった損害を、公務員個人が賠償することはないことが明示されています。この法律をもとにした、最高裁の判例もあり、それを覆すことは、実は相当高いハードルです。
今回で言うと、佐川氏による行為を肩代わりするのは国です。裁判所からすると、法律に書かれていて、最高裁の判例もあって、国はもう賠償しているので、その責任っていうのは果たされているため、わざわざ証人を法廷に呼んで、尋問を行うことで、事実関係を調べる必要はないということです。
雅子さんの弁護団は、控訴審に向けて、法学者の意見書を提出し、法律論から、尋問の必要性を訴えていましたが、かないませんでした。
–Q:尋問だけではなく、判決自体も雅子さんにとっては、厳しいものになりそうですか?
【諸岡陽太記者】
「正直、かなり厳しい見通し。もし、一審や二審の判決を覆すのであれば、改めて事実関係を調べ直さないといけないとなると尋問が必要。逆に言うと、今回尋問を開かなかった時点である程度裁判長の腹の中は、決まっていて、つまり控訴を棄却するということ。この可能性が非常に高いと思います」
–Q:もし、最高裁で争うことになったら、結果は変わりますか?
【諸岡陽太記者】
「雅子さんも弁護団も上告して戦うっていうことを念頭には置かれているんですが、ただ、最高裁判所は、これまでの判決に法律が正しく適用されているかどうかを判断する場なので、事実関係を調べるための尋問が行われることは、事実上、この控訴審が最後です。なので、証人尋問が最高裁で開かれることっていうのは、基本的にあり得ないですし、佐川氏たち本人からお話を聞くという雅子さんの願いは、限りなく絶たれたと言えると思います」
–Q:諸岡記者は、今後についてどんなことを望んでいますか?
【諸岡陽太記者】
「雅子さんはいつも、『佐川さんや職員の方たちが、夫のお墓に手を合わせて謝ってくれたら、自分だけにでもいいから、事の経緯を丁寧に説明してくれたら、いつ裁判をやめてもいい』とおっしゃっています。遅いけど、遅すぎるということはありません。裁判や国会でなくても、せめて遺族である雅子さんには、誠意ある対応をしてほしいと思います」
最愛の夫がなぜ自殺をしたのか。ただ真実を明らかにしてほしい、そして一人の人間として向き合ってほしい…そんな雅子さんの思いが受け入れられることを切に願っています。
(関西テレビ「newsランナー」2023年9月13日放送)