“結婚式”で「別れの歌」 元消防士と元警察官の同性カップルがリクエストした理由とは? 好きな人と一緒に「ありのままの自分で生きたい」 LGBTの当事者の希望と社会の課題 2023年02月08日
2022年11月、関西出身の同性同士のカップルが結婚式を挙げました。そこで歌われたのは、結婚式にはふさわしくない、「別れ」を告げる曲。
いったい、どんな思いが込められていたのでしょうか。
■元消防士と元警察官の同性カップル
食卓で仲良くカレーを食べる2人。平田金重さん(35)と勝山こうへいさん(40)です。
「KANE(カネ)」、「KOTFE(コッフェ)」と呼び合う2人は、交際を始めて11年になります。
出会った頃、KANEさんは、大阪市消防局で働く消防士。KOTFEさんは京都府警の警察官で、京都アニメーションの放火殺人事件では、被害者支援を担当していました。
【元警察官 KOTFEさん】
「泊まり勤務もお互いあったから、けっこうすれ違い。日によってはどっちかが泊まり勤務みたいなこともあったし。退職してから、2人で外デート行くのも胸張っていけるし、2人の時間を味わっているな」
2人とも職場では“ゲイ”であることを隠していました。
【KOTFEさん】
「口が裂けても言えなかったなと思っていて、カミングアウトするメリットが何一つない。逆にデメリット、バレてしまったら自分の頑張ってきたことがすべて奪われるんじゃないかみたいな恐怖心…。プライベートの話になる時に、僕らはバレてはいけないってスイッチが入るので、彼氏を彼女と置き換えて複雑な会話をして伝えないといけない」
【元消防士 KANEさん】
「先輩が勝手にスマホを取り上げて中見たり。笑いながらする人もいるので、そういう中でうまくバレないようにとか」
KOTFEさんは自分がゲイだと気づいた9歳の頃から、「絶対にバレてはいけない」という恐怖を常に抱いていました。
当時(1990年頃)、テレビ番組では、同性愛者を揶揄する「保毛尾田保毛男(ほもおだほもお)」というキャラクターが人気を博していました。
【KOTFEさん】
「クラスの中でも話題になって、友達が強烈なキャラクターのものまねをして、みんなが『気持ち悪い』と笑いのネタになったり。家に帰って、家族でテレビを見ていても『気持ち悪いね』みたいな話になる。僕も(ゲイだと)バレてしまったら、いじめの対象になったり、変態と思われたり、気持ち悪い、異常な人と思われるんじゃないかなっていうのがあったので…」
染みついた恐怖は、大人になっても消えません。ゲイを隠し、警察官として働き続けたKOTFEさんは、体調を崩し、3年前に適応障害と診断されました。
このことをきっかけに、2人は10年以上勤めた職場を退職しました。
■京都を出て…ありのままの自分で生きる
2人で暮らしていた京都を離れ、ありのままの自分たちで生きていくことを決意。YouTube でその時の気持ちを話しています。
【KOTFEさん】
「まもなく引っ越す、京都を出ることになりますが」
【KANEさん】
「恥ずかしいことでもなくて、隠すようなことでもなくて、当事者にここにいるんだよ、関心を持ってもらうきっかけになれるように」
“どんな場所にも当事者はいる”ことを伝えるために、「元消防士と元警察官のゲイカップル」としてYouTubeで発信しています。
■“模擬”結婚式で祝福を受けて
2022年11月に2人は、「いい夫婦の日」に合わせて行われたイベントで、“模擬”結婚式を挙げることになりました。
「LGBT」という言葉は広がり、理解が進んできた日本。それでも、法律上、2人が“ふうふ”になることは認められていません。
形だけの結婚式なんて意味があるのか…そんな葛藤を抱えながら、当日を迎えました。
この日、式に臨む2人の髪を整えるのは、美容師で2人の親友でもある結香さんです。
結香さんが「おめでとう」と声をかけると、KOTFEさんの目から涙がこぼれました。
【KOTFEさん】
「色んな方から開口一番『おめでとうございます』なんて言われるとは」
【KANEさん】
「そんな人生、想像していなかった」
【KOTFEさん】
「僕らも『おめでとう』って言われて、でも日本で結婚できないのに、虚しくなるんじゃないかって気持ちがあったんですけど、皆さんに素直な気持ちで『おめでとう』って言われると、泣いちゃいますね。こんなうれしくなるもんなんやって、きょうこの日まで想像できてなかったです。また泣いてしまう…」
■リクエストしたのは“別れの曲”
【司会】
「KANEさん、KOTFEさんのご入場です」
いよいよ、式が始まりました。緊張した面持ちの2人が入場します。
拍手で迎える友人たち。「おめでとう」の声が響きます。KOTFEさんは涙が止まりません。
【誓いの言葉】
「僕たち2人は、自分らしくいることを諦めず、自分の気持ちに素直に、正直に、歩み続ける家族でいることをここに誓います」
あたたかい雰囲気に包まれた式には、親交のあるアーティスト・花*花の2人も駆け付けました。
そんな中、KOTFEさんがリクエストした曲は…
~~♪
さよなら大好きな人~さよなら大好きな人~まだ大好きな人~くやしいよ、とても~悲しいよ、とても~
2人を祝福してくれた、たくさん人たちの中に、2人の家族の姿はありませんでした。
KOTFEさんは今、家族とほとんど連絡を取っていません。ゲイであることを、どうしても打ち明けられないからです。カミングアウトしたことで、いつの間にか離れてしまった友人もいます。
~~♪
さよなら~さよなら、大好きな人~
その事実と向き合うことで、前に進みたいと思いました。
■社会を少しずつ変えていきたい LGBTの当事者として伝えていく
1月26日、かつて暮らしていた京都に2人の姿がありました。一度は堂々と生きることを諦めた街。今度は、社会を少しでも変えていけると信じて、会社の経営者たちの前で、LGBTについての講演を行いました。
青少年育成を目的とする「京都平安ライオンズクラブ」から、子供たちのためにできることを考えるためにまずは当事者の話が聞きたいと依頼されたのです。
【KOTFEさん】
「色んな方と出会ったり、話をしていたら『(LGBT当事者は)10人に1人ぐらいいるな』って感覚で今、います。AB型、左利きの割合とほぼ同じなんです。今までの人生でLGBTの人に会ったことない人結構いるんですよね。でも実は会っています。会っているんですけど、向こうが言わなかっただけ、もしくは言えなかっただけっていうことをまず知っていただけたらうれしいと思います」
自分たちの経験も交えて、働く環境についても訴えます。
【KANEさん】
「差別的な発言が日常的にあったので『この人には絶対言えないな』とか『バレたら笑いものにされるんじゃないかな』と思いながら、業務じゃないところに労力を使って、仕事のパフォーマンスも少し落ちていたのではないかと。これから何ができるかなというところに、焦点を当てていただけると非常にうれしい」
【講演会の参加者】
「数字的に10パーセントというと『え、10人に1人なのか』って。びっくりというか、現実なんだなと」
「大手を振って『分かった』とは申し訳ないけど、ぱっとは言えない。でも、ちょっとでも変わったのは事実です」
関西を離れてから、1年が経ちました。こうした活動を通して、いつか、家族とも良い距離感でつながれることを願っています。
–Q:家族に対してはどう思っていますか?
【KOTFEさん】
「家族に対しては、ここまで育ててくれたのは本当に感謝しているし、だけど、もしかしたら僕のセクシャリティーをなかなか受け入れ難かったり、すんなり受け入れることは難しいだろうなあっていうのは想像していたから、カミングアウトをしていない。社会を変えていくっていう発信をしていったうえで、家族が『そういうことだったんだな。こうへい(KOTFE)が幸せそうだったし、笑っているんならそれでいいかもなって思えるようなカミングアウトの仕方もあるんじゃないかなと思って、この人生を選びました」
取材:関西テレビ報道センター記者 竹中美穂
(2023年2月1日放送)